夜の詩人 (Joseph Brodsky)
闇に長い影を紛らせ詩人はさまよう
聞き分けのない歌に背を向け詩人はさまよう
夜の雨……
それでもすがりつこうとする歌を濡らし……
傘もなく闇に長い影を紛らせ詩人はさまよう
泣き濡れた歌を振り払い詩人はさまよう
雨はますますつらく……
泣き腫らした歌の横顔に弾き叩きつけ……
ウォッカ二本とジョン・ダンの詩集一冊、使い古しのタイプライターを入れたトランクを下げ詩人はさまよう
誰があなたを詩人と認めたんです?
誰があなたを詩人のひとりに加えたんです?
誰も……
じゃあ、誰がわたしを人間のひとりに加えたって言うんです?
不条理な文学裁判の傍聴席で
押し黙るしかなかった歌に背を向け詩人はさまよう
亡命……
だが、そもそも詩人には国家もなければ戸籍もない、詩人とは人間の姿をしていても人間に非ず、詩人というひとつの種族なのだから……
雨はますます激しく……
月明かりに浮かぶ夜の旧レニングラード、いまも愛する歌の面影を胸に抱き……
傘もなく闇に長い影を紛らせ詩人はさまよう
© 伊武トーマ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?