見出し画像

紆余曲折中の原子力災害対策指針の見直し

原子力災害対策指針(原災指針)を「見直したい」と山中原子力規制委員長が1月10日の会見で回答し(既報)、その後、論点整理を2月の半ばぐらいまでに原子力規制庁が行い、原子力規制委員会がそこから「議論を開始したい」1月31日会見録)と山中委員長は述べた。

しかし、紆余曲折中なので、改めて、この件を原子力規制委員たちが1月17日の原子力規制委員会で、どのように議論したのかを以下に記録しておく。


1月17日原子力規制委員会での委員5人の発言

○山中委員長(略)本日予定していた議題は以上となりますけれども、1月13日、先週の土曜日でございますけれども、宮城県の女川原子力発電所の地元の自治体の皆様と意見交換を行いました。その際に、屋内退避の解除のタイミングとか、先日の能登半島の地震の経験を踏まえた防災対策等について御意見をいただきました。能登半島の地震では、家屋が倒壊をしたり、集落が孤立したりという状況にございますけれども、そういう状況の下での原子力災害という複合災害の問題、これは非常に重要な問題であると認識しております。
 もちろん、その地域の方々が屋内退避ができる場所を充実するということにつきましては、内閣府の原子力防災担当でも検討を始めていると聞いておりますけれども、能登半島の地震の状況下での屋内退避の問題、あるいは先日の女川原子力発電所の地元の自治体の方々から御意見等がございました屋内退避の期間等について、原子力規制委員会として検討すべきところがあるのではないかと私自身も考えておりますので、是非とも本日は少し皆様と議論をさせていただいて、スタートしてみたいなと思っておるのですけれども、委員の方から御意見等を頂ければと思いますが、いかがでしょうか。

○杉山委員 先週の土曜日、私も山中委員長と共に女川の地元の自治体の方々との意見交換会に出席させていただきまして、その際に、今回の能登半島地震を踏まえて、屋内退避というものがそもそも成立するのかということ、それと孤立地域に対してどうやって対応するかというようなことの問題を提起されました。
 まず、前提として、原子力災害がほかの自然災害とは関係なしに、原子力の問題だけが起こったときの話に備えればいいというものでは当然ないということを改めて今回、その点が浮き彫りになったのだと思っております。つまり、何らかの自然災害、典型的には地震・津波ですけれども、そういったものが起こった後で原子力災害に至ったケースで、きちんと屋内退避という計画が実現できるのかという点に関して、まずは自然災害に対する備えがある程度ないと、これを個人住宅に求めることは無理だとしても、地域の避難所のようなものが耐震性を備えたものがまずあってほしいというのがはっきりしたかなと思います。
 その上で、屋内退避という手段も、これも何度も言われていることではありますけれども、いつまでもその状態を続けられるものではないということで、何らかの判断の下で解除する。このとき、私は特にプラント側を見ている人間なので、前提として単純に計画上時間とかで縛るわけにはいかなくて、原子力プラントの現在の状況が既にさらなる放出なりを回避できると言い切れる状態にあるのかどうか、その辺りにかなり依存しているものですから、一概には計画を決めにくい。プラントの状態がどうであるということを、電力会社からの情報などから我々が判断し、かつ、モニタリングポスト等からの実際の放射性物質の放出状況、こういうものを踏まえた上でないと決められないものだと思っております。まずは以上です。

○伴委員 私も同じ考え方ですけれども、今回の能登半島の地震でたくさんの家屋が倒壊してしまったので、そもそもそんな状況では屋内退避ができないではないかと、それは確かにそうなのですけれども、ただ、家屋が倒壊してしまって、そういう人たちを収容する場所がないとしたら、そのこと自体がまず問題なので、そこをそれぞれの地域の実情に応じて手当てしていただく。その上で、プラスアルファとして必要に応じてそういった施設に放射線防護対策を施していくというのが、これまでもそういう考え方だったと思いますし、そこは変更はないのだと思います。
 ただ、一方で、屋内退避という防護手段を最も有効な形で使うために今の指針で十分なのかというと、そこはやはり議論の余地があるかなと思っていて、例えば一般家屋で屋内退避をすることを考えた場合に、恐らく2~3日が限界だと思います。それ以上長いというのはもう無理ですので、そうすると屋内退避をお願いするタイミング、どの範囲に対してそれをお願いするのかというのは、どうするのが一番いいのかというのは改めて議論する必要があるのかなと。
 そのときに、プラント状態をという話が杉山委員からありましたけれども、やはりプラントの状態を見て、今この範囲に対して屋内退避を要請すべきではないかということになってくるとすると、この議論はEAL(緊急時活動レベル)にも跳ねてくる可能性があるのです。だから、そう簡単に、それこそ数か月で結論を出すということにはならないかもしれないので、しっかり腰を据えて、もちろんだらだら続けるつもりはないのですけれども、しっかりとした議論をする必要があるかなと思っています。

○田中委員 複合災害のときに、どのように屋内退避を考えるのかということ、言ってみればもう複合災害で地震とかが起こっても、屋内退避というか、避難できるような具体的な場所がないといけないわけですから、それについてはまた別のところで考えていただかなければいけないし、また、同時に、複合災害ではない場合において、原子力発電所の事故だけのときには屋内退避の問題は今、伴委員、杉山委員からあったとおりでございますが、複合災害のときにどう考えればいいのかというのは大きな問題でもあるし、逆に言うと、複合災害のときにどこにどう避難するかということとも関連して、国全体として考えていかなければいけないのかなと思います。

○石渡委員 私も、今回の能登の被害を見ていると、とにかく自然災害が起きた場合の避難ということがまず大前提になっていて、その上で原子力災害が発生した場合にということを考えるべきなのだと思うのです。そういう意味で、今までの原災指針(原子力災害対策指針)は、そういう方面の考えが少し足りなかったのではないかなという感じはいたします。以上です。

2024年1月17日原子力規制委員会議事録

この発言を受け山中委員長は、1)委員たちの発言を矮小化し、2)地震とは関係ないという矛盾に満ちた姿勢で、論点整理を片山長官に依頼した。以下の通りだ。

矮小化された4委員発言と「地震とは関係しない」と矛盾に満ちた委員長の姿勢

○山中委員長 ありがとうございました。今回、女川原子力発電所の地元の皆様と意見交換をさせていただいたのですけれども、東北地方の自然ハザードに対する対策の充実というのは非常に図られているようでして、女川原子力発電所のある半島の各浜の場所には必ず集会所があって、そこに地震とか津波があった場合には避難ができるという、そういう場所が用意されているということを聞きました。
 今回、皆さんの御意見を伺いますと、私もそのように考えるのですけれども、今回の能登半島の地域の状況から、原子力災害と自然災害の複合災害があった場合の屋内退避の防護の基本的な考え方に、特にこれまでと何か大きく変更する必要がないという皆さんの御認識だったと理解をしておりますし、私も同じように考えております。
 ただ、今回の地震とは直接関係しませんけれども、伴委員からも御意見いただきましたし、杉山委員からも御意見いただきましたけれども、一律に屋内退避が開始されること、あるいは屋内退避をいつまで続ける必要があるのかということについては、これから屋内退避のタイミングあるいは期間に対する考え方など、再検討をした方がいいというところもあるかと委員の方の御意見を聞いていると思いました。
 今回の議論を踏まえて、今後どのように検討していったらいいのかということは、事務局の方で論点を整理していただいた上で、今後の原子力規制委員会の中で議論したいと思うのですけれども、いかがでしょうか。

○片山長官 長官の片山でございます。承知をいたしました。論点はいろいろあろうかと思いますので、少し整理にお時間を頂いて、事務方で整理した上で原子力規制委員会にお諮りして、御議論を頂ければと思っております。

○山中委員長 そのほか、何か御意見よろしいでしょうか。それでは、事務方の方で論点を少しまとめていただいて、改めて原子力規制委員会の方で議論をしたいと思います

2024年1月17日原子力規制委員会議事録

規制庁の「基本的な考え方を変更する必要はない」という姿勢

その後、原災指針については、多くの声が上がった。1月31日には、能登半島地震で、原災指針の欠陥が露呈したから「原発をこれ以上動かすべきではない」との要請が行われた。さまざまな問いが問われ、応答した原子力規制庁からは、次のような回答があったという。

1月17日に開催された原子力規制委員会で行われた議論では、家屋倒壊が多数発生するような地震等の自然災害と原子力災害との複合災害に際しては、人命最優先の観点から、まず自然災害に対する安全が確保されたあとに原子力災害に対応することが重要であるという考え方が示された。能登半島地震を踏まえ、原子力災害対策指針における防護措置の基本的な考え方を変更する必要はない、というのが委員の共通認識であった。原子力規制庁として能登半島地震を踏まえて原子力災害対策指針を見直すことは考えていない」。(FoEジャパンの集会報告より)

しかし、上に書き出した2024年1月17日原子力規制委員会議事録からも明らかなように、それが「委員の共通認識」とはとても言えない。論理的であること、誠実であることは、行政に携わるものとしては当たり前のことであるにもかかわらず、彼らは、今、その真逆の姿勢で仕事に臨んでいる。

ちなみに、1月10日に山中委員長が原災指針の見直しに言及したときの記者2人との質疑を貼り付けておく。

1月10日の山中委員長の見直しの姿勢

○記者 朝日新聞のフクチと申します。(略)モニタリングポストのところで伺いたいのですけれども、今回私も取材して気になったというか、問題が大きいと思うのは百幾つあるポストではありますけど、特定の地域、明らかに地震の被害が大きかったであろう地域で、線量が分からないという状態になったということで、これ原子力災害対策指針で線量に応じた避難行動というのを決めている中で、あれだけ見えなくなるというのはこれ非常に原子力災害対策指針の在り方から考え直す必要もあるのじゃないかなと思ったのですがその点はいかがですか。
○山中委員長 今回その地震起因でその116か所のうち最大18か所欠測したという、そういう事象を受けました。(略)

○記者 フリーランス、マサノです。よろしくお願いします。今の点に関連して引き続きなのですけれども、原子力災害対策指針は避難についてはそのモニタリングの実測値に基づくということで決めていますけれども、今回やはり18台のうち13台は輪島市と穴水町に集中していたのですが、そのことと及び屋内退避をしてくださいという指示があったときに、例えば今回15キロ圏内(30キロ圏内の間違え)のものが欠測しましたけれども、5から30キロ圏内の方は屋内退避してくださいという指示もあり得るわけで、珠洲市では9割の家屋が全壊あるいはほぼ全壊ということで、その前提も崩れてしまいましたし、じゃあいざ逃げようと思っても道路も寸断されているし、港も使えないという状況でした。多くのその前提が今回崩れてしまったわけなのですけれども、原子力災害対策指針の抜本的な見直しが必要ではないでしょうか。

○山中委員長 まず原子力発電所、今回は志賀原子力発電所ということでございますけれども、そこで放射性物質が放出されるような事故が生じれば少なくとも15キロ圏内のモニタリングポストは全部欠損していなかったわけですし、測定できる状態でありましたので、放出が起こったかどうかという判定はできる状態にあったというふうに思いますし、そういう状態になれば欠損領域の例えばモニタリングについて航空機等で測定することも可能ですし、モニタリングカーを走らせる状況にあればそういう測定機を走行させるということも可能でありましたので、測定そのものについては特段大きな問題が、18機の欠損であったというふうには思っておりません。ただし、御指摘のとおり、非常にそういう木造家屋が多いようなところで屋内退避ができないような状況というのが発生したというのは事実でございますので、その点の知見をきちっと整理した上で、もし災害対策指針を見直す必要がありましたら、そこはきちっと見直していきたいというふうに思っております。

○記者 おっしゃるとおりで、屋内退避を前提とした原子力災害対策指針だったのにもかかわらず家屋が当てにならないというのは、ある意味で新知見だと思いますので、オフサイトにおける、これは見直しをぜひしていただきたいと思いますが、伊方原発でもやはり半島の先っぽがどうなるのかという似たような状況があるということで、地元の方々が何ていうか、すごく心配されているという声が届いていますけれども、やはり先ほどモニタリングの車を走らせることができる状況であればということでしたが、できないということを元に考えるべきだと思いますがどうでしょうか。気候もドローンが飛ばせない気象状況もあるということも、今日話にちょっとブリーフィングの中で出ておりました。その点いかがでしょうか。
○山中委員長 航空機あるいはドローンが飛ばせない状況というのも当然あり得ると思いますし、そのためにモニタリングカー、あるいは可搬型のモニタリングポストというものもございますので、欠測しているような領域についてはその時々で適切な手段を講じていきたいというふうに思っております。
 御指摘のとおり四国電力の伊方発電所については半島部分の住民もおられますので、当然御心配の動きはよく理解できるところでございますので、その辺りについては今後事業者とも意見交換しながら対応していきたいというふうに思っています。

2024年1月10日原子力規制委員会議事録

線量(モニタリングポスト)に応じた避難行動ができない

つまり、、原災指針で「線量に応じた避難行動というのを決めている」「原子力災害対策指針の在り方から考え直す必要もある」と問われ、山中委員長自身がモニタリングポストが「116か所のうち最大18か所欠測した」と述べた。

そこで、同様に、「18台のうち13台は輪島市と穴水町に集中していた」「珠洲市では9割の家屋が全壊あるいはほぼ全壊」「逃げようと思っても道路も寸断されているし、港も使えない」と指針の見直しについて問われると、委員長は気象に左右される航空機や、道路寸断時には使えないモニタリングカーで測定すると事実を無視した発言を言い、家屋倒壊についてだけは、「木造家屋が多いようなところで屋内退避ができないような状況というのが発生した」として、「知見をきちっと整理した上で、もし災害対策指針を見直す必要がありましたら、そこはきちっと見直していきたい」と述べたのだ。

能登半島地震を踏まえない指針見直しはありえない。

【タイトル画像】いまだに1つが欠測しているモニタリングポスト

石川県 環境放射線データ リアルタイム表示(県内全域) より
観測日時:2024年02月05日 10時00分




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?