エネルギー基本計画を「国全体の議論の俎上に!」合同会見
「エネルギー基本計画」改定の年を迎えて、経産省内外での議論が始まった。
2024年5月9日には、再生可能エネルギーや気候変動問題に取り組む市民が「『第7次エネルギー基本計画』の議論開始に向けて議論の枠組みとプロセスを問う」合同記者会見を行った。そこで問われたことのうちごく一部を除いては、彼らが指摘した通りのことが、5月15日に経済産業省の審議会で起きた。
合同会見の発言
合同会見での発言をかいつまんでいく。
FoEジャパンの吉田明子さんは
「ここ数年、エネルギー・気候変動をめぐる情勢大きく変化した。再生可能エネルギーの電源割合は20%を超え、国際的にも気候危機へ対応や脱化石燃料の機運がますます高まっている。一方、原子力については、能登半島地震によって規制や避難あり方が改めて問われ、再稼働へのハードルが一層高まった。
にも関わらず、エネルギー政策議論は、いまだに、化石燃料・原子力業界や研究開発に関わる委員が多数を占める審議会でのみ行われ、気候変動や再生可能エネルギーに関わる委員の参加ほとんどない。市民声を聞くプロセスも、非常に限定されている」として、合同記者会見者の共通課題として以下を経産省に要請すると発表した。
再エネ事業関係者、環境団体、若者団体、一次産業関係者、気候災害や福島第一原発事故当事者なども含め、年代・ジェンダーバランスにも配慮すること。
情報公開・透明性確保議事進行や議題選定などが事務局主導で行われているが、検討過程で参考にしたデータや資料も全て公開すること。
2012年夏に行った広く市民声を拾うことを目的として制度設計された方法を組み合わせた「国民的議論」の実施が必要だ。
最終段階のパブリックコメントにとどまらず、審議会中でも環境団体や消費者団体、若者団体などからヒアリングや福島第一原発事故、再エネや気候変動に関するヒアリングを行うなど、経済界・産業界にとどまらず社会さまざまな層から意見収集を行うこと。公開意見交換を、福島もふくめ全国各地で、できるだけ早い段階で行うこと。
議論の前提として、国際的な化石燃料脱却に向けた合意や再生可能エネルギーのコスト低下、省エネルギー進展など、国内外変化について、十分な情報収集・ヒアリングを行うこと。
原子力市⺠委員会の大島堅一座⻑は
「原発には事故発生のリスクがあり、実際に日本では深刻な原発事故が発生し、巨大な被害をもたらした。また、原発利用には放射性廃棄物の発生が避けられない。加えて、新型炉を含め、原発のコストは高く、政策資源を浪費し、国⺠負担を増大させ、 実効性ある温暖化対策の実施を困難にする」として、「『原発依存度のできる限りの低減』にむけた 2030 年以降の目標を具体化し、原発 ゼロに向けたエネルギー基本計画を策定すること」などを求めた。
東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科の明日香壽川教授は
「政府のGX(グリーントランスフォーメーション)は国民負担を増やして脱炭素を遅らせる」として、「今、水素・アンモニア混焼や石炭火力CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)に多額の公的補助金を出すのは、再エネ・省エネへの投資機会を喪失させることにつながる」と述べた。政府のGX政策(赤線)と明日香教授らによる省エネ・再エネ投資策(青線)を元に発電コストを比べたところ、省エネ・再エネ投資の方が電気代や安くなる」とデータを紹介。
原子力資料情報室の松久保肇事務局長は
「2050年脱炭素という大目標が存在する。今回のエネルギー基本計画では2040年までをみすえていくことになる。ここで方向を間違ったら取り返しがつかない。2040年には世界全体でCO2を8割削減しなければならない。そのためには国民的納得が重要だ。先日発表された長期脱炭素電源オークションの第1回の結果を見ると、島根原発3号機(中国電力)が落札している。平均約定価格から推計すると、島根原発3号機に20年間で1兆円の補助金が注がれることになる。これは全電力消費者が負担するもの。このようなことに国民的合意があったのか。審議会という事実上の密室でこのような議論がされた結果、このようなことが起きている。今の斎藤経産大臣は前回のエネ基策定時に「国民的議論のもとで決定されることが非常に大事だ」とコメントされていた。今のような「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」の構成では国民的議論を喚起できない」などと指摘した。
気候ネットワークの桃井貴子東京事務所長は
「今の日本の政策は1.5度目標に整合していない。バックキャスティングの議論ができていない。なんのための脱炭素かGXなのかができていないために、CCS(二酸化炭素回収)など削減にならない施策に補助金をつける。
排出削減がとられていない石炭火力は2030年代前半もしくは1.5度目標に整合する形での廃止することが、今回のG7の環境気候エネルギー大臣会合のコミュニケに入った。先進国では2030年前半までに石炭火力を全廃させなければならないが、日本では議論の俎上にあがっていない。G7では2035年までに完全または大宗の電源の脱炭素化と言われているが、これも第7次エネ基で位置付けられるかどうかが、今回の審議でフォーカスされるべきところ。
気候変動対策としてやるべきことがすべて先送りされてきた。再生可能エネルギーという代替策のある電力分野が、気候変動対策の1丁目1番地だが、その分野ですら石炭火力を維持し続けるようなところに力を入れている。
カーボンニュートラル宣言をした後に、莫大な予算が違う方向につくようになり、政策を変えていくことがより一層難しい状況になった。長期脱炭素電源オークションも加わり、水素・アンモニアの価格差補填も今回の国会で審議されて通ってしまいそうだ。CCS事業推進も今回通ってしまいそうだ。本当はやめなければいけない制度が次々、作られている。こうした状況を変えるために、国民的議論や政策を変える体制をつくらなければいけない。経産省にはできないかもれないので政治的に判断することを求めていきたい。」
Fridays For Future Tokyoの川﨑彩子さんは
「待ったなしだともう何年も前から言っている。国内外で命がたくさん失われているが、最低でも1.5度目標を達成しなければならない。もっと甚大な被害が起きることを防ぐために、その対策を実行するために残された時間は少ない。
私は選挙権をもってから3年も経った23歳で、東京在住なので記者会見など意見を言う場もある。しかし、一緒に活動する仲間には選挙権を持っていない中学生、高校生もいて気候変動の影響を私よりも大きく受けるにもかかわらず、自分の意見が反映される場をほとんど持っていない。
本当はエネ基の中身についてそれが公正なものかを議論したいのに、プロセスのところから指摘しなければならないことに絶望感を覚えている。(川﨑さんの生の声は以下から頭出し)
「エネルギー政策は、市民に選ばれた人たちが国会という場で話し合って市民の目に留まって国全体の議論の俎上にあがってもいいくらいの暮らしと命にかかわるもの。それをほぼ一つの省の管轄でおこなっているのでれば、もっと透明性をもつべき、今月から基本政策分科会が行われるであろうと言われているが正式に発表されていなかったり、パブリックコメントが行われているが、意見を聞きましたよというアリバイにしか思えない。意思決定プロセスへの参加とは言えない。パブコメだけを改善すればいいという話ではなく、いろいろな市民の人を話し合いの場に入れるべき」
350.org Japanキャンペーナーの伊与田昌慶さんは
「化石燃料産出国のアラブ首長国連邦が議長国を務めたCOP28でさえ、2030年までの再エネ3倍と省エネ改善率2倍、この10年の化石燃料からの脱却に合意した。
こうした国際会議の場で聞かれる言葉がある。
『Big Polluters Out(大きな汚染者たちを追い出せ)』
気候変動対策を議論する場に、化石燃料や原子力産業を続けたい人を招き入れるのはおかしいでしょうということ。たとえば肺がんを減らそう、タバコ規制を考える会議で、タバコ会社の重役たちがたくさんいたら、まともな政策が導入されるわけがない。そのため市民社会は大きく声を上げてきた。」
「化石燃料産出国がCOPの議長国だったことはメディアも取り上げた。だったら、日本の審議会がどうなっているのかにも目を向けていただきたい。
日本のエネルギーの審議会は、伝統的に化石燃料や原子力発電ビジネスをおこなってきた人が、その席に多数座っておられる。CO2をたくさん出している鉄鋼会社の方が会長だった。今回、新しく会長になった方は東京海上(日動火災保険)の相談役の方だが、沢山の保険引き受けをしていて化石燃料ビジネスを支えているという批判が国際的に高まっている。化石燃料を減らしていかに気候変動対策を進めるかという検討の場では、原因となっている人たちではなく、川﨑さんや今、発言のあった気候変動対策の実現を求める人たちの声をたくさんいれなければならない」と切々と訴えた。
最後にFoEジャパンの吉田さんから、5月16日17:00〜「第七次エネルギー基本計画に市民の声を!記者会見イベント(主催:ワタシのミライ)」を行うことの案内があった。今日だ。こちらのサイトから↑オンラインでも視聴可能だ。
経産省の審議会の審議は?
さて、政策決定プロセスとして批判をされた、経産省の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」は2024年5月15日に開催され、エネルギー基本計画改定に向けた審議を開始した。(動画はこちらから)
メンバーは見てのとおり、化石燃料や原子力、大量に電気を消費する企業や研究機関からのメンバーが大半を占めている。
彼らからは、次々と原発再稼働や原発リプレース推進の意見が続き。原子力規制委員会の原発再稼働の審査は「遅々としている」などの批判も飛び出す。
また、現在のエネルギー基本計画では「再エネの主力電源化」が目玉だが、日本製鉄の代表取締役会長は、「電力需要を積み上げることが出発だ」、「再エネありきではない」などこれまで積み上げてきた省エネも再エネも吹き飛ばすかのような発言の末に「原発のリプレースにはより強い拘束力を」「政策の連続性を担保」すべきだと熱を込めた。
途中と最後に2人だけが、「国民の参加を担保して」(河野康子・日本消費者協会理事)、「世論調査を不作為抽出で行う熟議民主主義の手法も取り入れて」(村上千里・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会理事)などのプロセスの是正に関する提案も行っていた。
政策プロセスに誰が参加できているか
なお、冒頭で述べた市民に「問われたことのうちごく一部を除いて」のは「一部」とはジェンダーバランスのことだ。「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」では委員16人中7人(44%)が女性。原子力規制委員会の女性0人(0%)に比べれば、配慮されたことはわかる。
それ以外は市民の批判通りのスタートを切ったと言わざるを得ない。それがどう変わるか、中身がどう変わるのかは注目をしていきたい。
【タイトル写真およびその他の写真】
「『第7次エネルギー基本計画』の議論開始に向けて議論の枠組みとプロセスを問う」合同記者会見の配信画面より筆者作成。
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