見出し画像

2023年度に海洋放出された1F処理水に含まれた29核種の総量発表

2024年5月30日、東京電力福島第一原発の事故処理に向けた中長期ロードマップ会見で、海洋放出された「ALSP処理水」に含まれていたトリチウム以外の29核種の総量(2023年度分)が発表された。


実施計画で測定必須の29核種

多核種除去設備(ALPS)は、全核種を完全に取り去ることはできない。そこで、東京電力は、ALPSが処理した水を海に捨てるにあたって、原子力規制委員会が認可した実施計画に従って、29核種が告示濃度比総和1未満となることを確認しなければならない(実施計画には記載がないが、東京電力はそれ以外の39核種も自主的に測定している)。

東京電力は毎回の海洋放出のたびに、トリチウムについては、告示濃度限度6万ベクレル/リットル以下に希釈されていることとその総量を発表するほか、29核種については、29核種の濃度の総和が、告示濃度比総和1を優に下回っていることと、総量も発表してきた。

法令上は、それで問題はない。総量規制は存在しないので、毎回の総量を累計して公開する法令上の義務は明示的にはない。

半減期の長い核種を含む29核種の累計公表

しかし、29核種のなかにはALPS処理によって告示濃度限度を優に下回っていたとしても、検出限界を上回り、かつ半減期の長いものが含まれている。半減期が12年のトリチウムに比べて、いったん海に放出されると万年単位で存在し続けるものがあるのだ。

だから、総量を累計して公表していくべきではないかと、中長期ロードマップ会見ごとに、福島第一廃炉推進カンパニー・ALPS処理水対策責任者、松本純一氏に尋ねていた。

彼は「長期的に見ても影響はない」と言いつつも、2023年度に行った第1回から第4回の放出分の累計を年度末に公開すると回答(既報)。その年度末から2ヶ月遅れでやっと出てきたのが以下だ。

東京電力「ALPS処理水海洋放出の状況について」2024年5月30日 P31

2023年度総量トップ3

この2023年度海洋放出した29核種の中で、累計が多いものトップ3核種は以下の通り。
C-14【炭素14】(半減期5730年):4億3,000万ベクレル
I-129【ヨウ素129】(半減期1570万年):6,400万ベクレル
Tc-99【テクネチウム99】(半減期21万年):3,200万ベクレル

それを各核種の告示濃度限度で単純に割り算すると以下の通り。
【炭素14】(告示濃度限度2,000Bq/L)21.5万倍
【ヨウ素129】(告示濃度限度9Bq/L)700万倍
【テクネチウム99】(告示濃度限度1000 Bq/L)3.2万倍

これを1リットルに凝縮して考えると、ヨウ素129に関して言えば、濃度規制の700万倍が海に捨てられたことになる。

(ちなみに、総量を表す「E+07(10の7乗)」などの表記が私は苦手なため、会見(動画)終盤で「ヨウ素129は6,400万ベクレルが放出され、これは1リットルで考えたら700万倍か。変な質問ですが」と尋ねたら、福島第一廃炉推進カンパニー最高責任者の小野明氏が不愉快極まりないという顔で、その質問は「詭弁だ。我々は濃度で評価している。1リットルあたりの値をしっかり守ってずっとやっているので、まさのさんがいうような評価は我々としてはできない。詭弁だと思いますよ。仰っているのは」と逆ギレされてしまった。詭弁という言葉の使い方が違っているような気がしたが、「『濃度を守っていればいいのだ』という考え方は分かりました」と言って終わった。)

汚染水からの検出核種は、土壌に沈着した核種と同じ傾向か?

実は、2023年度分の総量を見ての気づきは他にあった。炭素14、ヨウ素129、テクネチウム99の他、ストロンチウム90、イットリウム90も他のものと比べると多く検出されている傾向がわかったため、「これは大気に放出されて土壌に沈着した核種と同じ傾向か」という疑問が頭をもたげたのだ。そこでそのように最初に質問を行った(会見)。

この質問に、小野明氏は「これは土壌がどうのこうのではない。タンクの中にある29核種を評価しただけです」という。そこで、さらに続けた。

「わかっています。燃料から水に溶け出したもので何が多いかという傾向が出ている。一方で1Fサイトだけではなく、日本全国とは言いませんが、東北を中心として放出されている放射性物質はセシウム134、137が支配的と言われてきた。それ以外はほとんど測定されていないのが現実だと思う。水に溶け出した核種は同様に空中に飛び散ったものと同じ傾向ではないかという質問です。答えられないならそれで結構ですが。」

「仰るのはわかりますが、これは評価ができないと思います。大量にあると仰るが濃度は低いです。日本全国では検出されないと思いますよ」と小野氏はイライラを抑えきれずに答えた。

しかし、その低い濃度とはALPS処理した後の値であることを小野氏は忘れているようである。ALPS処理後でも検出される核種の傾向がある程度見えたことは事実。燃料にはそれらの核種が確実に存在していたことになる。同様のものが大気中に放出され、濃度の多寡はともかく、土壌に沈着した核種にも、ある程度、同様の傾向があっても不思議ではないのではないかとの私の疑問はまったく解消されなかった。

【タイトル画像】

東京電力「ALPS処理水海洋放出の状況について」2024年5月30日 P31

原子力資料情報室の伴英幸さんが亡くなってしまった。言葉がでない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?