猫のこと…近所の家猫

うちの近所にはたくさんの猫がいる。
地域猫(地域の人達で世話してる猫)や外猫(飼われているが外に自由に出入りする猫)とかだ。野良猫はあまり見かけない。

この間ふとある家のベランダを見上げると、見たことのない猫が一匹いたのだ。

「へー、この家猫飼ってたんだ」

と思った。
ベランダは二階で、その気になれば塀などを渡って外へ抜け出すことも出来るだろう。
でもその猫は、ベランダの柵から顔を出して、興味津々に外を眺めてはいるものの、外に出てしまうことはないようだった。

多分、ビビりなのだ。

その家の前を通ると、毎回のようにベランダの柵から顔を出して外を眺めている。
道行く人をジーッと見つめていたり、空飛ぶ鳥を目をまん丸くしながら見ているのだ。まるで車窓の景色をまじまじと眺める子供みたいに。

先日のこと、近所の外猫が歩いているのを、いつものようにその家猫がベランダから眺めていた。
ただ、いつもと違うことが一つあった。
「ガン見」していたのだ。もうガンガンに見ていた。
人間から見ても一目でわかる、あの子にぞっこん、みたいな顔を見ていた。

「あいつ、完全に恋しちゃったな」

と思った。
だけど悲しいかな、ヤツは家から出るのをビビってる家猫、彼女は自由奔放な外猫だ。
こんなに近いのに生きる世界がまるで違う、猫版ロミオとジュリエットのようだなと思った。
去って行く外猫の姿を眺める家猫は、いつもより悲しげな顔をしていた。多分。

しばらくしてその家の前を通った時ベランダに目をやると、いつものようにベランダの柵から家猫が顔を出していた。
ただ、いつもと違うことが一つあった。
あの家猫が恋をした外猫が、並んで柵から顔を出していたのだ。

「おい、意外とやるじゃないか」

と思った。
実際ヤツは相変わらずの家猫で、彼女の方がベランダまで赴いたのだろう。猫の世界でも女は強しだ。

二匹揃って下にいる僕をジーっと見つめてくるから、なんだか見下されてる気持ちになり、妙に悔しかった。それとも、

「見てごらん、あれがゴリラだよ」
「わあ、すごい！」

なんて動物園デートにでも使われたか。
どちらにしても悔しい。