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知財推進計画2020を踏まえて日本のデジタルコンテンツ戦略を考える

5月27日に知的財産戦略本部から知的財産推進計画2020が公表されている。

価値デザイン社会とSociety5.0を基軸に、総花的に日本の知的財産戦略について書いたペーパーだが、ここではコンテンツサービスに関する日本の戦略について、デジタルという観点を意識して考えた内容を素描したい。

気合を入れて整理したというよりも、走り書きのメモ程度のものです。

重要なポイントとして以下の4つがある。
1.  稼ぐためのコンテンツという視点
2. 民間と国の役割分担という視点
3. 政策をレイヤーで考えるという視点
4. 国家安全保障戦略としてのコンテンツ産業という視点

1. 稼ぐためのコンテンツ

第一に、コンテンツは車や機械と同じ「稼ぐ」ために製作しディストリビュートするものという視点が重要。

つまり「コンテンツからの期待収益の最大化」がコンテンツ戦略の根幹。これをテクノロジー、法律、ビジネスモデル、社会通念を組み合わせて実現していく。

著作権は文化云々や人格云々という話があるが、これは単なるナラティブ。正面から論じてはいけない。稼ぐという文脈にとってプラスになるように著作権のこうした言説を使っていくという発想でないと。文化とか人格とはか稼ぐことと直接つながらないので、ここから始めると戦略にならない。著作権の文化とか人格とかの側面に意味がないと言っているわけではないことに注意。

なお、コンテンツからの期待収益最大化のために、民間が獲得すべきスキルとしてライセンス戦略の高度化は重要と考える。

コンテンツは収益分布が広くダメだと大コケするがあたるとデカい。これを平準化することを考えると続き物だとかある程度数字が狙えそうなものという発想になってくるが、これだと全体がワンパターン化して長期的にはコンテンツを細らせる可能性がある。これに対して、ライセンスとライセンスバックをうまく組み合わせてストラクチャを正しく組むと、各プレイヤーのリスクリターンをもっとうまく調整できる。適切に調整したライセンス契約のキャッシュフローは、更にトランシェ分けすることで金融にもアクセスできるようになるはずだ。

2. 国と民間の役割分担

第二に、知財の4つの特性(スピルオーバー、サンクコスト、スケーラビリティ、シナジー)を踏まえて、どこを国がやり、どこを民間がやるかを切り分けるという視点が重要。

国はコンテンツの価値がスピルオーバーして自ら価値をキャプチャできなくても税金を取れればよい立場だからインフラをやりやすい。その意味で、国は究極のレベニューシェア主体ともいえる。

また、サンクしたコンテンツからも次の機会に価値をキャプチャできるのも国といえるだろう。なぜならコンテンツがサンクしても、人材は育つからだ。Shirobakoはこの辺りを良く描いている。

これに対して、民間はスケーラビリティとシナジーを追求できるビジネスモデルとコンテンツを考える。特にグローバルに通用する価値観を持つコンテンツ、息が長く多分野にマルチユース可能なようにコンテンツを初めからデザインすること、そして世界にリーチするプラットフォームを展開すること重要だ。

3. レイヤー志向の政策立案

第三に、政策はレイヤーで考えるという視点。

重要なレイヤーは①課金、②コントロール、③ディストリビューションの3つで、それぞれにつきインフラとなる法律とテクノロジーをどうデザインするかが国の仕事といえる。ポイントは、テクノロジーも制度の一つと見て、法律とテクノロジーを組み合わせて制度を創ること。これはデジタルガバメントの要諦でもある。

それぞれのレイヤーについて以下整理する。

①課金レイヤーの視点

デジタルコンテンツを念頭に課金をデジタルに行うということの意味を深く追求する必要がある。

この点でインフラとして日本円CBDCが必要なのは明らか(CBDCについては別に記事を上げます)。そのうえに、視聴課金、視聴を契機とするファン課金、周辺コマースがシームレスに行えるルール基盤を整える。ファン課金として投げ銭というモデルはとても重要なので、これを簡易に実装可能な法制度を整えることも大切。

②コントールレイヤーの視点

技術的にはデジタルコンテンツをモノ化するアプローチと、デジタルコンテンツに対するアクセス権コントロールが可能なので、これをシームレスに実装できる法律体系が必要。

この点、法律の中でこれまで逃げ続けているのは、デジタルコンテンツに関する正面からの法律がないことだろう。アクセス権売買のモデルを支える法律と、コンテンツのトークン化を支える法律を真剣に検討するべき。それはもはや、著作権とかそういう領域である必要もない。著作権は既得権が多すぎて手が付けられないように見えるがどうだろう。

③ディストリビューションレイヤーの視点

主な手段は放送とインターネットになるが、それぞれについて制度が異なっていて、著作権の体系が異なっているというのは異常事態というほかない。早く何とかした方がいい。総務省と文化庁が所管だが、どうもこの二省庁に任せておくとうまくいかないんじゃないかというのが、規制改革推進会議で議論をしていて感じていること。

戦略を遂行する統合的な司令塔として内閣府に期待したい。

4. 国家安全保障政策としてのコンテンツ戦略

第四に、なぜ国が他の産業ではなくコンテンツをやることが重要かということについて、産業論に加えコンテンツの国家安全保障面の重要性を認識した議論が必要だ。ソフトパワーで日本の影響力を保持するためにどんなコンテンツを製造して世界に出していくか、そのための国家による支援の方法を考えないといけない。クールジャパン戦略はもっぱらこの限りで正義といえる。

日本のコンテンツの世界展開により、自由主義や平和主義といった日本の価値観を世界に均霑する。そのために、国はこれに資するコンテンツの制作の支援をする。米国におけるハリウッド支援政策や、軍事・宇宙分野とコンテンツ分野の密接な連携政策を参考に、日本であればどうやるかということを考えるというのが正しい発想だろう。

たとえば日本の少年漫画「勇気、友情、勝利」をベースにしたシンプルで骨が太いストーリーは、国が支援するに値する。また日本独特のミリタリ系はミリタリ系を通じて平和を訴求するコンテンツとして高い価値がある。京アニやアニプレックス系コンテンツ、鬼滅の刃、Re:ゼロ、ガルパン、ハイスクールフリートなどはそうした文脈に乗る。

Re:ゼロの2期が始まるので応援を込めて貼っておく。エミリアたんにまた会える。

支援策としては、米国と同様、国有財産の使用・取材における優遇やマーケティングの支援が中心になるだろう。自衛隊、国宝、寺社仏閣、聖地化活動などいずれも日本のソフトパワー強化につながるから、コンテンツ制作のために積極的に政策側へのアクセスを認めていくべきだし、こうした分野に携わる人々がコンテンツのマーケティングにも積極的に協力していくべきだろう。

ソフトパワーの強化は、翻ってインバウンド需要を高める形で産業的な意味でも日本の国益として戻ってくる。

5. まとめ

以上、コンテンツ戦略というのは決して著作権制度をどうするかという問題に矮小化されるものではない。デジタルネットワークの上で流通するという姿を考えると、コンテンツの複製や制作、宣伝に関するコストに関する現在のコンテンツビジネスを取り巻く社会状況が、既存の著作権制度が想定している社会状況と全く異なっているということを踏まえた検討が重要になる。

他方で、既存の著作権制度を前提にご飯を食べている人たちがたくさんいるわけで、これが既得権益層となってにっちもさっちもいかないというのが日本のコンテンツビジネスの現状だろう。たしかに、その中で心ある人たちが、これをどうにかするために奮闘しており、これを手助けするのも重要な役割だろう。しかし、国家や日本の産業発展、さらには国家におけるコンテンツの重要な役割としてのソフトパワー強化という真のアジェンダにとって、こうした既存の著作権制度を前提とした社会を変えていくというのは、全体戦略の一つに過ぎない。この点を間違って、既存の著作権制度を前提とした社会を変えていくことが日本のコンテンツ戦略のカギだ、などと考えない方がよい。既得権益に自縄自縛になって縮小均衡に陥る人たちを救うことよりももっと大きな役割を、国家のコンテンツ戦略は果たさなければならない。

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