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えらい人のお話

私が15年程勤めている今の小さな会社は、とあるサービス業を行う店舗で埼玉の人ですらよくは知らない様な随分と偏った田舎に在る。私はその店舗の建物を造る頃より働いているのだが、私以外の社員は既に全員退職しており、その後も新しい人が入ってはいなくなり、また入ってはいなくなる現象が残念ながら起きている。つまり常に最古参…。

そして開店当初より定期的にご来店される常連のお客さんも多い。ほぼ毎日来られる方もいれば、週に一度、月に一度、年に一度なんて方も。困るのは、こちらが覚えていなくてもお客さんが私の顔を覚えている場合なのだ。1年超しで来られるお客さんのお顔まではさすがに覚えてはいない。しかしながら逆に覚えて頂けていることは素直に嬉しくありがたいものだ。

そして、時々言われる言葉がある。

「えらくなった?」

気軽にそんな質問が親しみのある笑顔と一緒に飛んでくる。えらくなった…?「えー、なっていません(笑)」と、親しみのある笑顔を添えてお返しすることにしている。お客さんは小さく笑いながらも、疑いの目を向ける。

「そんなこと言いながら、なってるだろう。昔から居るんだから」
等と返ってくるが、そこに小さな愛も感じられる。

がしかし、
昔から居る = えらくなる。わけではない。

そもそも"えらくなる"とはどういうことなのかが大きな疑問として立ちはだかる。"えらい"とはなんぞなもし?出世することを指す人が多いのだろうが、私はそれを「えらくなった」とは思わない。あくまでも役職の話であって、そこに"尊敬"の思いは無く、えらいとは思えない。中には、お客さん独自の判断でえらくなっていない(出世していない?)と思われ「頑張れよ」とか、具体的なアドバイスまでして下さる方も複数いて大変ユニークと思う。まあなんと言いましょうか、どうやらえらくなってほしいらしい…。

私は、社会に役立つ人間でありたいので、その為の知識と経験はこれからもっともっと身につけていきたいと思っている。「えらくなった?」という質問はそのことに気付かされる大事な質問でもあった。そしてそう思い実際に行動に起こしながら生活をしていると、約半年ぶりに来られた大好きなご夫婦のお姿を久しぶりに店内でお見かけした。

するとご夫妻は、顔が変わったね。いい顔になったと。そして握手を求められた。十年以上もお付き合いしてきて初めての握手。素直に嬉しかった。そうそう、未来は希望に満ちているからだ。

「えらくなった?」

いつもお声をかけてくださる多くのお客様に改めて感謝。
by雅秋

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