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「Anti Star」

sayuras のライブでは、ヴォーカルである三上ちさこさんのソロ曲も色々演奏される。sayuras べースの根岸孝旨さん曰く、sayuras 流に、バックで流れるシンセ音などを作り替えているそうだ。

そういったソロ曲の一つが「Anti Star」。sayuras デビューライブ(2023年12月@下北沢 Club Que)での演奏を、ちさこさんのインスタアカウントで観ることができる。

fra-foa 的な音を期待していると裏切られる。でも、これも「三上ちさこ」の世界。

fra-foaの頃は、グランジっていうイメージを決め込んでバンドをやっていたから、その路線から外れる曲が出てきても全部却下していたんですよ。私もNirvanaやRadioheadを踏襲した曲をやるのがfra-foaだっていう意識が強かったんですけど、一方で自分個人のルーツはもっとざっくばらんで。小学生の頃はピンク・レディーやC-C-Bが好きだったし、中学校の頃はユニコーンやBOØWYが好きで。NirvanaやRadioheadを聴くようになったのは大学に入ってからなんですよね。だからもっと振り幅を広げて、“三上ちさこ”としてルーツを集約させる形でいいんじゃないかなと思ってます。

三上ちさこインタビュー(リアルサウンド、2022年12月7日

2022年4月から、ちさこさんのラジオ番組「Just Chilling」を聴くようになって、紹介される曲のジャンルの広さに驚いた。しかも、同じくジャンルに関係なく色々聴く自分の好みと被ることが多い。

例えば、Jamie Cullumによる「Shape Of You」のジャズバージョン。

トリップポップと呼ばれた Massive Attack の「Teardrop」

ソウルやR&B系統の Sade 「Love Is Stronger Than Pride」

20世紀初頭のクラシック音楽の傑作、Eric Satie 「Gymnopédie No.1」

1990年代半ばの「渋谷系」にカテゴライズされることもあった ICE も、ちさこさんは好きだったらしい。

グランジやUKオルタナロックとは随分離れたところの音楽がずらずら並んでいる。

そもそも、ちさこさんが最初に注目されたのは、高校生の頃にマライア・キャリーのコピーバンドで歌っていた時だったとのこと。

マライア・キャリーとかホイットニー・ヒューストンとかアレサ・フランクリンとか、洋楽にもだんだん興味を持つようになりました。地元・仙台のペデストリアンデッキで、コピーバンドでマライア・キャリーを歌ってたら、たまたまスタジオを経営している事務所の社長が観に来ていて、「夢は何だ?」って聞かれて。「その辺の小さいクラブとかで歌うのが夢です」って答えたら、「その夢の小ささがいい!」って気に入られて、一緒にやることになりました。

三上ちさこインタビュー(リアルサウンド、2024年4月11日

7オクターブの音域を歌いこなすマライア・キャリーをコピーしようと思いつくところが、ちさこさんらしい。

sayuras に 2020年代版 fra-foa を期待すると裏切られる。それは、sayuras の一面でしかない。「ウェルカムトゥブレインワールド」のような曲も作るし、「Anti Star」のような、おそらく意識的に fra-foa っぽくない曲として作られた、ちさこさんのソロ曲も演奏される。

私個人は、fra-foa は聴いても、ソロの三上ちさこ作品は聴いてこなかった。しかし、演奏力抜群の sayuras 楽器隊が作り上げるグルーブの中で聞くと、いい曲だな、と素直に思える。

そのことがよくわかる映像を見つけた。sayuras の前回のライブ(2024年4月@渋谷 eggman)の後半の一発目で演奏された「Anti Star」。前から2列目で見ていた桃缶さんの動画。

スマホ撮影だから、音質もよくないし、前に立っている人の頭も映り込むし、でも、sayuras の音のグルーブが存分に伝わってくる。特に、平里修一さんのドラムの上手さが際立っていると思う。

そして、ライブならではの空気感も伝わってくる。スマホをいじっているだけでは絶対に味わえないもの。それを体感しに、11月1日、渋谷WWWでのsayurasライブに私は行きます。


sayuras 渋谷WWW ワンマンライブ(イープラス / ローチケ)まであと20日

注:トップ画像は、「Anti Star」が収録されているアルバム『I AM Ready!』のジャケットと同じメイクの三上ちさこさんの写真(Google Image より)

2024年10月30日追記:29日のインスタグラム投稿で、ちさこさんが「Anti Star」について記している。

いつもこの歌を歌う時、頭に浮かんでいる人がいた。
でもその人は、この世からいなくなってしまった。
音楽で、その人が抱えてるものを軽くすることなんてできないのかもしれない…と思った。
でも自分にできることを、自分なりにやるしかない。とも思った。


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