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林家正楽さん

林家正楽さんが亡くなりました。

寄席で落語と落語の間に演じられる漫才や奇術などを色物(いろもの)と言いますが、正楽さんの「紙切り」もその一つです。
「紙切り」と言ってもピンとこない方もいらっしゃるでしょうね。
1枚の紙をハサミで切って、「絵を描く」と思っていただければ良いでしょう。
高座では、先ずご自分の「持ちネタ」を切り、続いて客席からの注文を受けて切ります。
切るのにかかる時間は3分くらいでしょうか。

写真は私の注文に応えて切ってくださったものです。
3月14日だったので「ホワイトデー」と注文しました。
切ったものは注文主がもらうことができます。

どんな注文にも絶対に応え、決して「できない」ことはない。
こじつけでもいいから、とにかく何か「描く」。
ときには意地悪なお客さんから「数字」の注文が出ることもあります。
例えば「17」という注文。
「意地悪」とはいえ、その辺はお客さんも心得ています。
この場合なら大谷選手の姿を切るのでしょう。
普段から話題になっているものはもちろん、ありとあらゆるものを研究なさっていたのでしょう。
そんな正楽さんが困った場面に一度だけ遭遇したことがあります。
注文は「ティンカーベル」。

は?

流石の正楽さんもディズニーの「ピーター・パン」に登場する妖精にまでは研究が及んでいなかったようです。
しかし、注文主からそれを聞き、すぐに切り始めました。
だいぶ姿は違いましたが、空を飛ぶ妖精が見事に出来上がりました。

紙を切りながらのおしゃべりも楽しかったです。
といっても、いつも同じことをぶつぶつ呟いているんですけどね。
「ご注文は?と言ったら、とりあえずビール、と言われました」とか。
でも、なんだかいつも笑ってしまう。
これも一つの「芸」といえるのかもしれません。

芸の性質上、「独演会」はできないでしょうから、寄席でしか拝見することはありませんでした。
でも、寄席に行けば必ずいらっしゃるという、何か安心感のようなものがありました。

それがもうなくなってしまった。

今、紙切りという芸をおこなっている人が何人いるのかは知りませんが、絶やして欲しくない芸の一つです。

動画配信サイトに動画があるようですので、ご興味がありましたら、ご覧いただくとよろしいかと思います。

正楽さん、素晴らしい芸をありがとう。

安らかに。