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置き場

働かせておきながら働かせていることも忘れてしまう横暴ぶりにも
何も言わずに付き合って、日がな一日重量物を支えてくれている

ソファーのうわべりに頭を放り投げ少しは力を分散させてあげようとする労いパフォーマンスは後付けであると完全に見抜かれていて
これでは何も休まらないことを知る
休まってたまるものかと頑としているのかもしれないと過ぎってしまうのはどこかでそれに対する敬意が足りていないことを自覚しているからだ

手加減なんてものは一番自分がよく知っているから余計に腹が立つ
何を喚いても美しい弧を描きながら迷惑なまでにここにきちんと戻ってくる

御面倒様

せめてその弧が生命の真理でも含んだ神聖なる紋様くらい映し出していたら救われるのに、ヴァーヴァーと窓外に呵う脚の長い大型鳥に同調してお茶の表面にささやかな波紋が渡る
こんな簡単に貌が描ける一方で。

こどもの時に好きだったあそびを思い出す
いつからいつがこどもなのかと問いたくなる右側を去なして暮らすことは、歯ブラシを喉に突っ込まずに歯を磨けるようになったくらいもう上手と呼んでいい いいよね

それは万華鏡の擬似体験で、現れる柄の種類にある程度の限りがあるあの玩具とは違って無限に形を作り出せるあそび
完全に閉じてしまうギリギリの手前まで瞼を閉じて、光源に向かう
微かに睫毛を動かすと現れる虹色の光の筋
おそらく人間が意図してコントロールできるであろう最小単位の肉体制御を以て、上瞼と下瞼の間に虹色の梯子を何本も何本も架けてみることに没頭していた
眼球の震えや涙の量や睫毛の反り具合で梯子は瞬時に伸縮する
増減し、明滅する
転回し、濃淡を示す

暗黙知にとどめを刺したい

休まってたまるものかと抗う首をよそに瞼は天井と正対し埋まる幾つかのペンダントライトに促されながら虹をつくる
平和の使者でも幸福の妖精でも安楽の女神でもない、素通りできなかったものたちが否応なく引っ掛かりそのまま硬く重く沈着した闇色の睫毛がつくる虹なんて穏やかさの芳香を期待できるはずもない

閉じようとする力と開こうとする力の間には誰も入り込めない虹だけの世界があるのは確かで、作っているのは私なのに悲しいことに私もそこに入り込めない疎外

それでも私がいなければこの虹世界も現れない包含

どうして枯れてしまうのに花は咲くのかという問いに似たものを携えて
ばれていると分かっていながら首を騙して梯子をかけるのだ

麦味噌が大好きです