かがみ人間との遭遇─「かがみの世界」3
小学6年生のとき授業中にせっせと書いていた小説「かがみの世界」の大学ノートを掘り起こした(経緯はこちら)。その文字起こし。第1章、第2章に続いて、第3章。表記の誤りなどは後ろでツッコミを入れます。
今井雅子作「かがみの世界」3
気がつくと、そこは冷たい、いすの上だった。
まわりがいやに、さわがしい。見るとピカッと反射するものがあちこちから、目をおさえつける。さすがは、ゆう子である。それが、かがみであるということを、とっさに感じ取った。
「気が付きましたようですな。かがみ女王。」
かがみで出来たロボットのような、冷たい感じの人が、声をかける。
「あなたは?」
「私は、かがみ大王。あなたは、かがみ女王。そうですね。」
「え? なんですか? 私は、竹山ゆう子ですよ。」
びっくりして聞き返すと、かがみ大王は、にっこりしながら、手をさしのべる。
「やめて下さい。私は、何にも知りません」
とたんに、かがみ大王は、くるりとふり返り、他の者たちにこう言った。
「なんだ、こいつは何も知らんらしいじゃないか。おまえたち、何も言ってないのかい。」
すると、家来らしいものの一人が、しずかにゆう子に歩みよると、そうっとささやく。
「あなたは、かがみ女王です。世界中で一番よく、かがみをのぞく人が、かがみ女王となるのです。今日からあなたはここでくらします。かがみ大王の妻として‥‥
ね。」
ゆう子は、それまでだまっていたが、いきなり、
「いやよ! そんなのー、だれがあんなのの妻になるものか。」
と、どなりちらし、辺りの者をかきわけ、にげ出した。まわりがさわぎはじめ、止めにかかる。ゆう子は、にげる。そして…
もう一度、気付いた時も、やはり冷たいいすの上にいた。
だが、今度は動いていた。これも、かがみでできている。自動車のようだが、タイヤはない。かわりに、よくみがかれたかがみの上を、家来がこれを、すべらしているのだった。そんなに早く(※1)はないが、悪い感じはしない。
「今から、かがみの世界の案内をいたします。」
横にすわっている、かがみ人間が、やさしく話しかける。
「この人は、だれかな。」
そう思っていると、
「あっそうそう、私、本日から、かがみ女王の秘書として、おともさして(※2)頂く、コワレナイ=カガミです。コレイと呼んで、頂きたくぞんじます。」
ていねいな口調で、そうつけたした。
聞いたところは、とてもまじめなイメージを受けるが、コレイは、たいへん楽しいゆかいな秘書だった、ゆう子は六年生で、今までは、
「大人の話ほど、わかりにくく、つまらない物はない。」
と思っていた。だが、コレイさんの話は、わかりやすくおもしろくて、聞いていると、気持ちが明るくなってくるようだった。こんなわけで、ゆう子はすぐに、この秘書が好きになってしまった。コレイさんの方も、
「気に入られて、とてもうれしいです」
と、にっこりわらっていた。
43年後のツッコミ
「かがみ大王」「かがみ女王」より「かがみの大王」「かがみの女王」のほうが語呂が良いと思うのだが、「かがみ人間」は「の」がないほうが良い。語感のさじ加減って難しい。
そんなに早く(※1)はないが、悪い感じはしない。
車のスピードなので、「速く」のほうが良い。
かがみ女王の秘書として、おともさして(※2)頂く、
正しくは「させて」頂くだが、「さして」は大阪弁かもしれない。
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。