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瑠璃色の薔薇

6月22日(土)

(敬称略)

「いってきます」
「元気でな」
それが私の「父」と交わした最後の会話になった。私は小学三年生だった。
とても寒い冬のその日、彼は家族を捨てて消えた。

伊岡 瞬著の「瑠璃の雫」は、この言葉から始まった。
その半年前に悲しい事故があり、その結果私の家族は壊れた。
しかし、その事故がどういう原因であろうとも一家の主たる父親が
酒に溺れる妻と二人の子供を残して家出できるものだろうか。

小学6年生になった私(杉原 美緒)は入退院を繰り返すアルコール中毒の
母と小学3年生の弟、充の3人で暮らしていた。
こんな状況の家を支えてくれているのは母の従姉妹の薫でした。
薫は、住居のあるアパートの一階で「ローズ」という飲食店を経営している。
「ローズ」の常連客で、元検事の永瀬丈太郎に対し美緒は好意を抱いていますが
それが父親に対する感情なのかはわかりません。

薫と丈太郎は深い因縁で結ばれている。丈太郎の娘、瑠璃が何者かに誘拐された
時、それを証言してくれたのが同じ幼稚園に通っていた薫でした。
丈太郎は瑠璃を連れ去った男を長い間探し続けていたが、ある日を境に突然
それを止めてしまった。

印刷会社に勤め出した美緒は、屋敷を放火されて命を落とした丈太郎が、何故捜査を止め
たのか一人で調べ始めた。

丈太郎が仕事で転勤を繰り返している間、妻の初恵は瑠璃がいなくなった松本の地
から離れなかった。初恵の手紙から希望を取り戻してくれた画家の竹本多美雄の存在
を知った。
ツテを探して竹本に会いに行った美緒は、瑠璃が横たわる美しい絵を見せてもらう、
まだ、有名になる前に金に困った竹本は、建設業の男から遺体の処理を頼まれて
運ぶ途中、天使の様に美しい瑠璃の姿を描いていたのです。

結局、検事を脅す為に瑠璃がターゲットにされたが、誘拐した男が誤って殺して
しまったという事で竹本は初恵が哀れに思いその男を殺してしまいます。
すべてを知った丈太郎は、ハルニレの樹の下で手厚く葬られた場所に花束を捧げ
て、この事は初恵には彼女が死ぬ間際まで黙っていました。

この小説には、瑠璃、瑠璃鳥のオブジェ、瑠璃色の石、瑠璃の雫、瑠璃色の薔薇
などこの色に拘る作者の嗜好が伺えます。結構、長編小説だったので纏めるのに
苦労しました。改めて、家族とは何かを考えさせられました。






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