マガジンのカバー画像

短編集

7
短編小説、超短編小説をまとめています。恋愛おおめ。
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

詩|おめでとう、

 その報告を受けたとき、わたしは人目も憚らず飛び跳ねて大喜びした。  長い時間を一緒に過ごしてきた幼馴染みと、職場で一番仲が良い友だちという、わたしの人生においてなくてはならない大切なふたりが、付き合い始めたのだ。飛び跳ねたくもなる。 「おめでとう、お幸せにね」  張り上げた声は、風船みたいに膨らんで、上擦っている。  感情が溢れそうな声に、ふたりは目を丸くしたあと顔を見合わせ、フフと笑った。とても幸せそうに。とてもそっくりな笑顔で。まるでわたしには見えない、ふたりだけ

短編|叶わぬ恋ほど忘れ難い

「訴えないでね」  わたしの左耳に触れる指先も、訴えないでね、と懇願した声も、微かに震えていて。わたしはそれに気付かないふりをしながら「訴えません」と断言した。 「大丈夫ですから、一思いにやっちゃってください」  言うと、わたしの左耳に触れる男性――アルバイト先の店長は、低い声で呻いて、短く息を吐いた。 「あのねえ、今から俺がやろうとしているのは、きみの身体に穴を開けることなの。その穴は半永久的に残るの。もうちょっとゆっくり心の準備させて……」 「でもあまり時間をかける