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いつか大きなお屋敷に住むのが夢なの。 屋敷の前には花園を作ってね、一年中たくさんの花に囲まれて。その中でお茶を飲んだり本を読んだり。 記念日には花言葉に気持ちをのせて花束を贈るの。 まあ、それらが叶わなくても一番の夢は、花嫁になることなんだけどね。きみの。
ね、見て。綺麗な宝石でしょう。 ずっと前からこっそり集めていたの。 きみと会えない日はね、涙が溢れるの。 その涙はこぼれ落ちると宝石になって、 手元に残ってキラキラ輝くのよ。 不思議でしょう。 もう瓶いっぱいになったのよ。 だからもっと会いに来て。
あの人に出会った瞬間 わたしの心に 小さなダイヤが生まれた ダイヤは日ごと大きくなり、 光輝き、 嬉しくなって大事にそれを育てた、 のに あの人が他の誰かと話す度 あの人が他の誰かと笑う度 ダイヤが黒く染まっていく 今じゃあもう光はない まるで燃え尽きた炭のようだった
今から内緒話をするね わたし、あなたが好き 好きで好きで好きで あちこち痛いの ひとを好きになることが こんなに痛みをともなうなんて あなたと出会う前は 知らなかったの 痛いのはきらい でもたとえ痛みで のたうち回ったとしても わたし、あなたがすき
夜の隙間から 朝焼けが降りてくる前に その唇に 爪先立ちで届くといい
光が溶けている。 目が覚めて一番最初に目に入った天井を見て、そう思った。 真白な天井と黄色い陽光がまじり合って、きらきら輝いている。 ごく普通のアパートの一室とは思えない美しさだった。 あまりの光景に時間を忘れ、ずっと天井を見つめていた。 時間すらも溶けてしまっていた。 闇が溶けている。 注文していた遮光カーテンを付け終えた感想がそれだ。 一片の光もない。 部屋中全ての色が闇に溶かされてしまったかのようだ。 そういえば有名な作家が遮光カーテンを「ガンダルフに見える」と称
曰く人見知りで 表情の乏しい 無口なきみが 最近は満面の笑みで わたしの話に声を出して笑って そのせいでずれてしまったマスクを 何度も何度も直すから 明日は何の話題で 笑ってもらおうかな、なんて 毎晩ベッドで考えている
もしかしたら、知らないうちに まばたきがシャッターで 脳がフィルムで 保存した記憶をいつでも自由に プリントできるようになっているかもしれないから わたしはまばたきのシャッターを切るの きみといるとき まばたきが多いのはそういうことだよ
頑固なわたしは きみがいない日常に 絶対慣れてやるもんかって ずっと思っていたの けれどもうきみはいなくって どこを探してもいなくって いないことが普通になってしまって いつも通りの日常を過ごしている その乖離は 頑固なわたしにとって耐え難い どうしようもなく耐え難いの……
不思議、ほんとうに…… きみの選んだ道を、理解して、納得していたはずなのに きみのいない日々が、ちゃんと日常になったはずなのに ごくたまに 例えば深夜に部屋の寒さと静けさを感じたときに 選んだ道の正しさを考えてしまうの なんとも言えない感情が沸き上がるの 心の中の柔らかい部分を とても大きな分銅でゆっくりと押しつぶされているような そんな感覚があるの 不思議ね、ほんとうに……
また季節が変わるね 一昨日まで鮮やかだった街並みは 昨日の雨と今日の風で すっかり灰汁色になったみたい それでもわたしは好きよ 静かに降る白磁色の雨も ヒュウヒュウ鳴る墨色の風も そこに紛れ込むストーブの緋色のにおいも 低い鉛色の空は分厚い羽毛布団みたい 「きみはいつも不思議なことを言うね」 笑ったあの人の横顔は黄金色に見えた
何の気なしにつけたラジオから 懐かしいヴァイオリン協奏曲が流れてきて思わず手を止めた 儚く美しいその旋律は かつての恋のBGMでもあった 六年もの間心を注いだその恋は 叶わずに終わってしまった 流行りの曲しか知らなかったわたしが メンデルスゾーンを聴き その作曲家の生い立ちまで調べ 少しでも親しくなろうと頑張ったけれど だめだった あのひとの眼にわたしは映らなかった それでもいい あのひとに心を注いだ六年は 儚く美しい旋律とともに美しく昇華されて わたしの細胞に刻み込ま
夜に押しつぶされてしまいそうで 人が作った光を求めて外に出たけれど 私は寄る辺もなく 人混みに流されるままただ歩く 誰と話すでも、 視線を合わせるでもなく、 ただただ歩く 見知らぬ夜のパレードに 参加しているように