眠ることよりしたいことって、ありますか

朝、窓を開けると視界に白いちらちらしたものがいくつも見えたので、目が変になってると思ったら、それは雪でした。
あんまりゆっくり落ちてくるので、すぐに雪とは思わなかったのです。

さて、以前も書いたことのある87歳の設計士、Eさんについて。

お客さんからオーダー家具のご相談をいただく度、真っ先に本社にいるEさんのところへ向かいます。
サイズのこと、便利な仕様について、豊富な経験と深い知識から、鋭い答えをすぱっすぱっとくれるので、尊敬せずにはいられません。
物腰はやわらかく、決してご自身の力をひけらかさない、飄々としていながら、ちょっと難しい内容や急ぎの話になると、目の色が変わり、静かだけれど、やってやろうじゃないかという、メラメラしたものを感じます。
小柄で痩せていて、スラックスにピシッとアイロンのかかったシャツを着て、背筋はぴんと伸び、愛用のバードゲージアームチェアに座って仕事をする、そんなEさんがふらりとお店にやってきました。

月に1度の定期検診のため、病院へ行った帰りなのだそうです。

体を気にかけているというひとに、いつもぼくは
聞きたいことがあります。
眠れていますか。
それに対するお返事はその方をよく伝えてくれると思うのです。

それが、眠りすぎなくらい、よく眠るんだ。
あした、休みでしょ。あー寝坊ができるって、いまから楽しみでしかたがないんだよ、まったく。

Eさんは顔をくしゃっとさせて、笑いました。
そんなEさんを見て、ぼくは心底うれしかった。
体調の不具合はあるでしょう、日々のなかで良いこと、そうでないこと、快いこと、そうでないことは誰にもあるでしょう。
Eさんにだってあると思うのです。
でも、ぼくの質問に対して、こちらがびっくりするくらいの大きな心で答えてくれました。
やっぱり、素敵なひとです。

せっかく来てくれたんだから相談しちゃおう、
とぼくは棚のオーダーを考えているお客様のお話、これまでのやりとりを伝えました。
まだまだ具体的にはなっていない段階なので、
どのあたりを詰めていったらいいかという相談です。
Eさんは的確なアドバイスをくれました。

そして、2時間後。
描いてみたよ。
そういって、仮図面をファックスしてくれたのです。
これで話しやすくなったと、図面を見て、思いました。
ぐううっと、喜びが込み上げてきます。

いったい、この喜びはどこからやってくるのだろう。

Eさんは決して手を抜かないのです。
ぼくに対しても、その向こうにいるお客さんに対しても。
このくらいでいいだろう、こんな風に答えておけばいいだろうという、抜き具合が微塵もなく、
まっすぐに向き合う。
しっかり、ぼくのことを受け止めてくれたという感触が、体の芯から湧いてくるような喜びを生んでくれるのですね。

家を出る頃には、雪はやみました。
それでも、家のまわりは白く染まり、ちびちゃんは手袋をして駆け回ります。
あっという間に、あたり一面足跡だらけ。

また一段と、松本は寒くなってきました。


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