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天使(妖精、妖怪)の棲む家

  古い民家には、ある種の想像力を掻き立てるものがあります。私の子供の頃は深夜になると天井裏でミシミシと物音がして、生き物の気配があるようでゾクッとしたものです。台風などの風雨の強い日は建物全体が生き物の様に揺すられ、一緒に耐えている様に感じました。天井板の木目模様を見ると、昔話の想像の世界が広がったものです。    

  また、工作用の木の端切れを探しに納屋の奥に入った時には闇の先に別の世界があるのではないかと感じたものです。土間に染み込んだオイルと鉄サビの匂いが立ち上り、藁の乾いた匂いと一体になって私を包み込んでいました。そこではいつまでも空想の世界に浸っていられたものでした。皆さんの中にも子供の頃に似たような体験をされた方もいるのではないでしょうか。

 現代日本の住宅はここ30年程で、工業化が進み、気密性や断熱性能の優れた住宅になって来ました。それに伴い、新建材が多く取り入れられて、見た目のすっきりした、清潔なものになっています。何処も明るくてピカピカして戦前の住宅とはすっかり様変わりをしてしまいました。私たちはそんな住宅を理想と考えて来ましたが、ふと立ち止まって見ると何か物足りなさを感じます。

現代社会は 安全性や清潔さを求めるあまり、土から切り離された生活をする様になり、かえってストレスを感じるさせる住宅環境を作っているような気がします。元来、住宅は自然の木々や土、石に手を加えて、自然素材の持つ力や癖を利用して作られていました。それゆえに自然の表情が垣間見られたのでしょう。

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  ガーデンデザイン=「造園」は「園を造る」と書きますが、「園」とは心地よい場所を意味します。造園は人にとっての居心地の良い場所や安らげる空間を作る事だと思います。同時に庭づくりは草木や花を扱い、自然の命の不思議さ感じる場所でもあります。

   庭は自然を覗く小さな入り口にもなっています。改めて、これからのガーデンデザインの仕事においては建物と庭の接点である中間領域(家と庭の要素が入り混じる場所)に居心地の良さを作り出し、失われた不思議な世界を再生する場所になるのではと思われます。天使や妖精、妖怪の棲み心地の良い家は人にとっても同じように棲み心地が良いと思われます。

正木 覚 http://ab-design.jp

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