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すこしずつ変わっていく

「この打合せってなんでしたっけ?」
ZOOMのURLを送ると、現場のお偉いさんからすぐさま返信があった。
私はビクビクしながら、防御体制をとった。このお偉いさんには先月急な依頼をしてこっぴどく叱られたばかりだった。
「こんな急な会議設定で、現場をなめてるのか!」私は次の一手をそう読んだ。
そうなったら、どうしよう。上司に相談しようかな。
相談したら、いつまでもちゃんと独り立ちして働けないやつと思われるだろうか。でも「女性だから」と手加減して許されるのも傷つく気がする。わがままだけど。

とりあえず会議設定の趣旨や、先月「スケジュール空いてるとこで、今度から飛ばして」とそのお偉いさん本人から言ってもらってたことを書き添える。嫌味だったかな。「あんた自分で言ったこと忘れたの?」
そんなイカつい攻撃だと思われないだろうか。
そんな意図はないんです。本当ならそこまで書きたい。
(読み方によっては、敵意があるような受け取り方もできますが、決してそういう意味ではございません。)みたいな。

ビジネス文章で言われる「適切な長さ」というやつに、私の心の注釈は収まってくれない。もっと書きたいことがいっぱいあるのに。

最初の決まり文句。「お世話になっております」とかじゃなくて、「敵意は全くございません」とか書きたいよ。でも逆にそれが挑発的に受け取られたりするのだろうか。
あー、もう、「逆に」とか言い出したら何書いたって怒られそうな気がするや。

在宅勤務の部屋。エアコンで乾燥した空気にさらされながら、一人ぼっちで歯を食いしばっている。こんなにしんどいけど、周りから見れば私の悩みはきっと取るに足りないのだろう。それも気持ちを暗くする。私は25歳にもなってこんなことで悩んでいる。

お偉いさんからメールの返信だ。早い。やっぱ怒ってる?
こわいこわいと思いながらも、反射的に開封してしまった。
「理解しました!展開ありがとうございます!」

ありゃ、なんだ。
拍子抜けして、ちょっとの間パソコンの画面を眺めていた。
お礼言われちゃったじゃん。

そうだ。よく考えたら「この予定はなんでしたっけ?って質問された」ってとこまでが事実で、それ以降は全部私が作った幻想だ。
勝手にバタバタして、怖がって、それで疲れて。なにやってんだろ。

もう疲れた。ちゃんと誠実に対応してる自信があるなら、その先を心配するのはもうやめよう。実際に怒られるまでは勝手に色々想像するのはやめちゃおう。

そうは言っても、すぐには変われないのだけれど。

とりあえず返信した方がいいかなと思い、「いえいえ!」と下書きする。短いし、感嘆符が生意気かなと思ってメールを削除した。いや、やっぱり既読無視みたいになるし、何かは送ろうと思って、そしてやめてを繰り返した。

すこしずつだ。すこしずつ変わっていきたい。
素直な気持ちでお返事を打って、さあ3回目のトライ。
「確認ありがとうございます!当日はよろしくお願いします!」

思い切って送信ボタンが押せた。

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