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お席2時間制

「当店お席2時間制ですが、よろしいでしょうか」

俺は頷いて席についた。
一人寂しく呑んで適当に揚げ物や枝豆なんかを腹に詰め込むだけだ。そんなに長居をする気はない。

何度も注文するのも煩わしい。食べたいものを初めに注文し終えて、30分ほどで食事を終えた。

酒は強い方ではない。2杯ビールを流し込んだだけで早くも顔が熱を持ち始めら意識が薄れてきた。
ただただ酔っ払ってるだけにしては、無性に気分が悪い。

それにしても、この店は静かだ。
よくみると俺以外の客は誰もいない。
金曜日の夜だというのに、世間はそんなに不景気なのか。
それとも「隠れた名店」というのは本当なのだろうか。
この店は今日会社で珍しく後輩の斉藤に話しかけられて知った。
「先輩、この店知ってます?」
俺のことを疎ましく思っていると感じていたが、話しかけられて正直少し嬉しかった。
「隠れた名店ってやつっすよ」
ウキウキと話す斎藤の顔が浮かぶ。後輩にプライベートの話をされるのはいつぶりだろうか。「窓際」の俺に話しかけてくれるなんて。斉藤にも良いところがあるもんだ。
今度は彼も誘ってみようか。

肩身の狭い会社での居心地も少しは変わるかもしれない。

そんな思考とは裏腹に気分はますます悪くなるばかりだ。疲れが溜まっているのだろうか。
頭がぐるぐるする。

「すいません、お会計を、、」
そう言おうとして、顔を上げた瞬間に店主が俺を縄で椅子にくくりつける。
わけがわからない。意識が遠のいていく。

「当店、お席2時間制となっております。残り1時間32分そのままお座りください」

***

「斉藤くん、いつもありがとうね」
体躯の良い店主が、ニヤけ顔の斉藤に話しかける。
店内では椅子に括り付けられた寂れたサラリーマンがいる。
「斉藤くんのおかげで、うちの経営も安泰だよ。サラリーマンは心以外は案外健康なんで、高値でどの臓器も売れる」

「いやいや、お安い御用ですよ。うちの職場病んで辞めちゃったり、自殺しちゃう人も多いんで」

「最近ではウチも隠れた名店だ、なんて言われるようになってね」

戸を叩く音がする。
店主が指示を出し、スーツ姿の男は縄を解かれ、運び出されていった。

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