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『おかえりモネ』 楽曲解説 5


サントラ5枚目の解説です。

百音たちが地球規模の気候変動による次々と襲い掛かる未曾有の自然災害に気象予報士としてどう対応していくのか、シリアスな曲も増えていきます。


1. はじまりの道
Beginnings

百音のテーマ曲『あすなろ』のバンド・バージョンです。
バンドは、岡田寝具の3人。
4つ打ちでエレキギターをかき鳴らす、ちょっと懐かしいアレンジにしたいと大まかな方向性だけお伝えして、細かなアレンジはバンドにお願いしました。
僕が思春期に映画や音楽から受けた影響が素直に出ていると思います。

百音が成人して社会に出ていく勢い、新しい考えのウェザーエキスパーツが前進していく勢い、バンドの若々しいサウンドは相性がよかったと思います。


2. プロフェッショナル
Professional



東京篇に必要なのは、「頭脳戦」を彩る音楽です。情報を集め、分析し、自然災害から人々を守る。
時計のような正確さで、情報の海を航海している感じを出すために、カチカチしたリズムを強調したり、抑揚をおさえた表現を試みました。

とはいえ、一本調子になっても面白くないので、どこか高貴な雰囲気が出るように工夫をしました。

3. 予知
Future Sight

温暖化、溶け出す氷河、気候変動。
確実に急速に変わり続けている世界ですが、予兆は分かりやすく目に見える形ではなく、もっと微細に耳に届いているのではと感じます。

百音という名前の通り、数多の音に耳を澄ます力がとても大事だと思います。

曲調に少しアジア的な雰囲気が入ったのは、東京でヒートアイランド現象が進行している現状を音楽にも取り入れて欲しいとリクエストがあったからです。

4. しらせ
Message

こちらも耳を澄ませて未来に起こることを感じ取っている様です。

5. リードタイム
Lead Time

東京篇のテーマ曲のひとつです。

先立って予報することで、皆が避難する時間を生み出していく。
災害そのものをゼロにするのは難しいけれど、被害を最小限にすることはできる。
このような仕事だったとは、ドラマではじめて知りました。

やれることをやる、やり切った後は、祈ることしか残されていない。
これも難しいテーマです。
音楽も、何かが解決する音楽ではなく、、。

この後に続いていく曲たちも同じように、解決できない想いをはらんだ、でも諦めていない、強い祈りを込めた音楽になっていきました。

6. 遠雷
Distant Thunder

登米篇の音楽を用意していた時期に一番最後にできた曲です。これは東京篇に使えそうということで、取っておきました。
東京篇の脚本を読まずして出来てしまった曲です。

一発で正解が出て幸先がいいと喜んでいたのですが、この後、悩みに入ってしまい、あちこち寄り道することに。。もう一度、この曲の持つ強さに戻るまで一ヶ月ほど時間が掛かりました。

今聴いても、迷いなく、一音一音選んでいるなと感じます。

朝岡をはじめとする気象チームが、力を結集して前に進む時のイメージです。

7. 想いは水のように
Like Water

仮タイトルは「会議」でした。仮タイトルを改めて見直すと、ちょっとゾッとするものがあります。
普通、「会議」というお題だけでこういう曲を作るのは、やっぱり難しいと思います。

ですが、おかえりモネでは、会議がただの会議ではなく、登場人物それぞれの想いが絡み合って、ひとつひとつ、疎かにできない。
そこに悪意や敵対する心はなく、皆、それぞれの、誰かのために何とかしたいという真っ直ぐな想いだけが流れています。
その想いは水のように透明で、いつか大きな海に辿り着けばいいなと、そんなイメージで曲を作りました。

8. 風が生まれる
Wind is Born

『虹に向かって』の冒頭部分を展開させました。
仮タイトルは「風速」。

次々に未曾有の事態が押し寄せます。百音たちは、迫り来る風の速さを追い越し、リードタイムを生み出していきます。

自然災害を必要以上に煽りたくありませんでした。
不安を煽るのではなく、立ち向かう人間の心を音楽にしていこうと思いました。


9. てのひら
Palm

ウェザーエキスパーツの仕事に寄り添う音楽として作った曲ですが、もっと広い曲になったと思います。

大切な人に触れたい。

優しさに溢れた手で、背中をさすってもらえるだけで、抱えていた痛みが治癒されていくのは、僕が住んでいる小さな村でも何度も体験しています。

10. 天の象
Celestial Form

東京篇の脚本を読んでみると、登米篇では想像もしていなかった言葉が次々に飛び込んできました。
目まぐるしいテレビ局の日常、車椅子アスリートのレース、襲いかかる自然災害。
登米篇は、いま僕が住んでいる山村の環境と共通するものが殆どで、何の苦労もなく作曲できたのですが、東京篇は知らないことだらけです。
これはまずいなと感じましたが、なんとか追いつくより仕方ありません。

この曲の仮タイトルは「台風」。制作陣からお題があって作った曲ではなく、東京篇の脚本を読んだ第一印象をそのまま奏でました。
東京篇に作った最初の一曲目です。

台風などの気象を災害の側面から描くのではなく、神秘的な側面からも描けないだろうか。
人には災いをもたらす悪者かもしれないけれど、大きな自然の世界では生命を繋げていくのに必要な大切な過程かもしれない。
ドラマでは描ききれない、そうした余白を音楽で表現してみたい。チャレンジがはじまりました。


11. 星の時間
Kairos

日本語の「天気」という言葉が好きです。
僕たちには計り知れない、天という大き過ぎる生き物のような存在を感じます。

ドラマの劇伴音楽としては、ミニマルであれば成り立つように思いましたが、やはりそれだけではモネの世界観は作れないと思いました。

循環、水の循環、命の循環、百音の循環、あらゆる循環が、きっとこのドラマの大テーマです。

気象の仕事に流れる音楽には、神話的な広がりがあった方がいいと考えるようになりました。

12. 浮遊する心
Floating Spirit

仮タイトルは「ジレンマ」。
不安定な和音の組み合わせで、どこにも着地しない音空間を作ってみました。

13. そこに生きてきた人たちの愛情 (歌:アン・サリー)
Love Nurtured by Nature 

土砂災害に何度も見舞われる土地にそれでも住み続ける人の気持ちについて悩んでいた朝岡に、百音の父、耕治が答えます。
「そこに生きてきた人たちの、顔も声も知らない、何十年何百年と海を育ててきてくれた人たちの愛情というか。その想いに向き合わなきゃって、厄介な親子の情みたいなものが染み付いているんでしょうね」。

土地は人なんだ、人の愛情なんだというのは、よく分かります。
僕も山村に引っ越して、毎日そう感じます。

それでも耕治は、その土地から離れていった百音を希望だと言います。

このドラマでは、あらゆる方向からの意見、考えが語られるので、観ている側に自分なりの答えがふっと浮かび上がります。きっと、観るその時々で答えは違ってくる気がします。

この曲は、『来光』という曲を、アン・サリーさんと一緒に何度も演奏したうちのひとつです。

24曲目の『幾億往きし』もそのひとつなのですが、演奏する度に違う表情が浮かび上がりました。

アンさんの歌声には、すべてを包み込んでくれる優しさがあります。
簡単に答えの出ない、出せないこのドラマを包んでくれるあたたかい光でした。

14. 誰かを想う力
Power of Empathy

『空』のテーマのピアノ・バージョンです。

テレビ局の休憩場所で、百音が莉子や高村チーフと普通に語らうシーンを見ながら演奏しました。

真剣な仕事の、ほっとするひととき。

15. 心の耳
Mind’s Ear

『青嵐』のストリングス・バージョンです。
ドラマで何度も流れていました。

第1集に収録した『さざなみ』の別バージョンでもあります。
『さざなみ』はもう少し不思議な雰囲気アレンジで、『心の耳』は真っ直ぐなアレンジです。

第1集をリリースする時は『さざなみ』の方がいいだろうと思い選曲しましたが、ドラマが始まってみると『心の耳』ばかり流れていまして、、。ドラマで聴く度にいい曲だなあ、何故選ばなったんだろうと反省していました。こういうことが起こるのもドラマの劇伴ならではです。

タイトルの『心の耳』という言葉通り、耳を澄まし、心で聴かないと届かない声があります。

おかえりモネでは、厳選された台詞に余白がたくさんありましたが、その余白にこの曲がよく使われていました。
押鐘ストリングスの皆さんには様々な曲を奏でていただきましたが、心の耳が開いていくような、この曲の演奏はほんとうに有り難いです。



16. 異変
Abnormal Change

ここから3曲は、登米篇で作っていた曲になります。

百音たちが子どもたちと山で林間学校を開いていると、突然、大雨と雷にあい、遭難しそうになるシーンを見ながら作曲しました。

ただ恐ろしいだけでなく、自然の持つ神秘的な側面も入れて欲しいと話し合っていたので、インドネシアのガムランを使ったり、サヤカさんたちが受け継いでいる能も意識しました。

17. 亀裂
Chasm

大地震のあと、島に戻る百音と耕治の姿。

僕は中学の頃、朝早くに家が壊れそうな激しい揺れを体験しました。家族で無事を確認し合いましたが、被害はなかったのでそのまま学校に行って、確か昼休みか午後の掃除の時だったと思います、皆が一斉にテレビをつけ出して、変わり果てた神戸の姿を見て唖然としました。
どうしようもない、ただただ、無事であって欲しいと願う気持ちと、焦りと無力感と。

あれから26年、当時の想いを胸に、いまも前に進み続けている人をたくさん知っています。



18. 警告
Warning

『異変』と同じく、登米の山での雷雨のシーンに合わせて作曲しました。
山のざわざわした感じがでるように、音を整理せずに抑揚をつけるなど工夫しました。
能との繋がりを感じたかったので、囃し立てるような日本のリズムも意識しました。

19. 約束の空
Promised Sky

気象にまつわる音楽をどのように作ればいいのか。

はじめの頃は、制作陣から、亜熱帯化やヒートアイランドなどの言葉が並んでいたので、湿気を感じる音楽や南米のアマゾンのような音楽もありかもしれないと考えていたのですが、東京篇の脚本や映像を見てみると、いつの間にか、「北欧」のイメージが音楽を作る上で礎になっていきました。

北欧の、自然と人間の距離感が、ちょうどいいと感じたのだと思います。アイヌやケルトなど、北に残る神話の世界観を思い浮かべてながら、精霊が百音たちに未来を伝えに来ているような、そんなイメージで作曲しました。

東京篇は他にもたくさん曲があったのですが、入りきらなかったため「追加集」を配信する予定です。

20. 雲
Cloud

東京篇のクライマックスの曲です。
刻々と変わり続ける雲のように、百音が働く気象報道の現場も休みなく動き続けます。

東京篇で最後に作った曲になります。
ドラマチックに次々と場面が展開していくような曲になりました。
『青嵐』の続きをやればいいのだと気づいたのは制作の後半で、もう少し早く分かっていればスムーズだったのですが、悶々とした悩みの日々はそのままドラマでの百音たちの悩みでもあり、リンクしていくには丁度よかったのかもしれません。

こうして振り返ると、やはり登米篇では考えられなかった濃密な内容になってますね。
登米篇だけでも3枚組を超える曲を作っていましたが、もう完全に出し尽くす勢いで取り掛かりました。
ドラマも放送が始まり、待ったなしの限られた時間の中で、よく辿り着いたと思います。


21. 呼び声
Calling

未知をイメージして作った曲が幾つかありまして、この曲もそうです。
演出の一木さんからは、百音と未知は、満ち欠ける月のようだと聞いていました。
どちらかが照らされると、どちらかが陰っていく。
2人でひとつ、満月になる日が早く来ないか、ずっと願っていました。

寄せては返す波のように、行ったり来たり、満ちたり引いたり。
月を介してお互いを呼び合ってるような曲です。


22. かがやく宇宙の微塵
Bright Cosmic Dust

『夜の虹』という曲の展開になります。

やれることを全てやり尽くした後に、残されているのは、祈ることだけ。
どれだけの祈りが、この世界に溢れているのだろう。
いつか宇宙を漂って、星のように、光を反射して。

長い曲ですが、最後まで聴いてもらえると静かな変化が訪れると思います。

23. 潮が満ちて
Full Tide

登米篇でよく流れていた『呼気』という曲の続きです。
嵐のあとの、穏やかな、何もなかったかのような、いつもの世界。
どれだけ遠くに行っても、帰ってくる場所はいつも同じ、安心できる、優しくてあたたかい。


24. 幾億往きし (歌:アン・サリー)
Life


『来光』という曲をもとにアンさんと自由に即興で演奏しました。

『来光』は震災で妻を亡くした新次さんになって出てきた曲で、はじめのうちは叫ぶように強い表現でしたが、何度も何度も演奏していくうちに柔らかくなっていきました。

この演奏の、果てに来た感覚が、6枚目の『忘れじの海』という曲に繋がっていきました。



ここまでありがとうございます。
次で最後、6枚目に続きます。

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