国内生産で幸せになるビジネスモデルを

1.モノ不足時代の社会貢献

 一昔前の経営者は、安くて良い商品を提供することが社会貢献につながると信じていた。そして、大衆向けの商品を作るメーカー、大衆向けの商品を流通する量販店は、双方共に成長し、多くの経営者の成功体験となっている。
 量販店が百貨店を凌駕し、廉価な大衆向け商品が高級品を凌駕した。こうして日本の製造業は、安くて品質の高い大衆商品に集中していった。
 しかし、流通の主導権を握っていたのは、商社、問屋、大手流通企業だった。彼らは、より安い商品を入手するために、中国生産に切り換えた。そして、中国に合弁工場を設立し、日本メーカーの技術者を派遣し、技術指導を行った。
 やがて、中国メーカーは日本側の期待に応え、技術と品質を向上させた。そして、大々的に国内生産から中国生産への移転が行われた。結果的に、国内製造業は淘汰された。
 デフレスパイラルが始まり、日本のGDPは減少し、日本人は貧しくなった。
 社会貢献と信じて行った行動が、日本を貧しくしてしまった。まず、この間違いを正さなければならない。
 
2.消費地の近くで必要な分だけ生産する

 最近の若者は、消費に罪悪感を感じるという。モノを買うと、不要になったら捨てなければならない。ゴミを出すことは、資源の無駄遣いであり、環境破壊につながる。
 ゴミにするなら、メルカリで売って、誰かに使ってもらった方がいい。あるいは、レンタルで借りれば自分で捨てることはない。
 お金を第一と考える人達は、モノを所有しても儲からないし、収納スペースをふさぐだけと考える。モノを所有するより、投資した方がいい。投資につながらない消費製品を購入することは無駄である。
 お金や出世に興味のない人もいる。都会から地方に移住し、自給自足を目指す。地域社会に貢献する仕事で現金収入を得て、食料はできるだけ自作する。自然の中で子育てを行い、地域コミュニティにも積極的に参加し、充実した生活を目指す。
 こうした新しい価値観に対応したビジネスは、一極集中ではなく分散型になる。一つの工場で大量生産するのではなく、消費地に近い小さな工場や工房、個人のアトリエで生産する。
 それをダイレクトに顧客に販売することで、中間流通経費、物流費等を削減することが可能になる。また、生産者と消費者のコミュニティも新たな価値を生み出すだろう。
 
3.日本独自のアート作品

 インバウンド消費の増大は、国内小売業の売上増大だけでなく、「日本の魅力」の再発見につながった。日本人が知らない観光名所やユニークなお店、カフェ、お土産品等をインバウンドが発見し、世界に広めてくれた。
 これまではインバウンドが偶然発見したケースが多かったが、今後は日本人側が仕掛けるべきだろう。日本独自のコンテンツやデザイン、価値観を世界に訴求する。そして、アート作品のような高額商品として販売するのである。
 アート作品は、日本の産業界が得意とした中流向けの廉価品とは正反対に位置している。従って、既存の企業が取り組むのは難しいかもしれない。しかし、アーティストやクリエイターとして活動している個人であれば可能だろう。
 マンガ、アニメ、ゲーム、ビジュアル系バンド、ゴシック、ロリータ、コスプレ等、日本人向けのコンテンツが海外で評価されたものも有望だ。
 これまでとは正反対の方向にこそ、次世代の可能性がある。
 
4.超実用品、非実用品、美実用品
 
 今後、日本が発信していく商品は、「脱・中流の実用品」だと思う。日本企業が得意としていた「中流の実用品」から発想を転換した商品である。
 第一は、包丁のように、職人の手が作り出す、抜群の実用性と美を兼ね備えた「超実用品」である。
 ここで重要なのは、装飾的ではないこと。究極の実用品。侘や寂の精神にも通じるミニマリズムである。
 第二は、たとえば招き猫やだるまのような歴史的ストーリーのある「非実用品」。これはインバウンドのお土産ニーズにも応えるものだ。
 第三は、「美実用品」だ。実用品だが、アート作品のように美しい商品。装飾で美しいわけではなく、素材や卓越した技術が生み出す造形が美しい商品。世界の富裕層に向けた商品でもある。
 以上の三つに共通しているのは、顧客ターゲットが絞られていること。そして、国産品であり、比較的高額で利益率が高いことだ。
 誰もが購入する実用品ではなく、マニアが購入する脱実用品であることが重要である。そうしないと、価格も通らないし、利益も確保できない。
 最早、日本の国内生産で薄利多売を追求することはできない。量は少なくても、しっかり利益を確保するビジネスが必要だ。また、自らの生活を犠牲にしてまで安売りする必要はない。
 経営者は、安売りは、社会に貢献するどころか、社会を貧しくするという意識を持ってほしいと思う。*

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