産地ブランドの最低限の条件

1.世界の繊維製品価格は新興工業国が基本

 日本の産地メーカーは、常に自社の製品価格を基準に考えている。従って、「中国製は安い」という。しかし、既に量販店、カジュアル専門店は中国製品が主力であり、彼らが考える価格の基準は中国製である。現在、「生産コストが上がって困っている」というのも、中国のコスト上昇が問題とされている。日本のコストは論外だ。
 これは、日本ばかりではない。欧州なら、東欧、トルコの価格が基準であり、アメリカなら中南米やインドが基準となる。アジアの中で中国製品は低価格ではない。東南アジアは中国より更に人件費が安い。中国製品のコストを世界標準と考えなければならない。
 世界の標準化価格から言えば、日本製品は異常に高い。価格が高いということは、高級品と見なされ、高級品には高級品の売り方が求められる。日本の産地メーカーは、高級品を作っているという意識が低い。自分達は中級品を作っていると思っている。確かに、これまでは日本の中級品を生産してきた。しかし、その中級品は世界水準で考えても非常に高価になってしまった。コストから考えると、日本製品を中級品として販売することは困難である。
 現状、日本市場の繊維製品価格は下落したままだ。しかし、今後少しずつ価格は上昇していくだろう。その原因は二つある。
 第一は、中国の生産コストの上昇である。人件費の上昇と原材料費、燃料や物流経費の上昇である。生産コストが上るので、自然に小売価格も上昇していくだろう。
 第二は、高齢化の影響である。日本の人口構成比は65歳を中心にした団塊世代が大きな比重を占めている。反面、相変わらず若年層の正社員採用は少なく、所得水準が低い人も多い。その結果、消費スタイルが変わっている。たばこも酒もやらず、自動車免許も取らない。異性に興味が薄く、ファッションにも関心が低い。雑誌、テレビもあまり見ない人が増えている。
 若年層は買物をしなくなっている。モノを買う世代は高齢化しており、どんなに低価格でも許容できる品質のレベルが存在する。既に、低価格商品はギリギリの品質になり、低価格でも売れなくなっている。
 高齢者の比率が増えるにつれ、一定以上の品質が望まれ、使い捨てから長く使うようになり、その結果、価格も上昇していくだろう。

2.日本の産地ブランドが成功できない理由

 産地ブランドのショップと農産物直売所は似ている。どちらも、生産者が作ったものを、そのまま売場に並べている。従って、大根のシーズンになると、大根が大量に陳列されることになる。食品の場合は、同一の野菜を大量に陳列することで「旬」を感じさせる効果がある。
 しかし、繊維製品の場合はどうだろうか。高級セレクトショップや百貨店では、同一アイテムが大量に陳列されることはない。バイヤーが顧客ニーズに合わせて商品構成をしているからだ。産地ブランドの場合も、高級品を売りたいならば全体の商品構成を考えなければならない。また、商品を選ぶことも必要だ。高級な店は、その店に置いてはいけないものを置かない。売れそうならば何でも店に並べるというのは、露店商法であり、高級店とは言えない。
 産地ブランドと言っても、その認識は様々である。本当にブランド価値を追求するのか、それとも単なる組合の商標なのか。
 「ファクトリーアウトレットのような産地商品の販売をしたい。しかし、商標がないので売れない。だから、産地ブランドを作ろう」という場合もある。この場合は、余剰品や余剰材料で生産した商品を販売するための方便なので、どんなブランドでも良い。しかし、そんなブランドに価値はない。
 ブランドとは、老舗ののれんのように価値あるものである。同じ店名でも、「いい加減な商売をしている店名」には価値がない。しかし、競争に勝ち抜いて、顧客の評判が定着した老舗ののれんには非常に価値がある。産地ブランドという時に、「どんなのれんをイメージしているのか」を明確にすべきだ。
 ブランド商品を農産物直売所のような売り方で売ってはならない。

3.高額商品、高級品とは何か?

 普通の商品と思って生産していたのに、いつのまにか高い製品になっていた。それが日本の産地メーカーの本音だろう。
 しかし、高い製品が悪いわけではない。世の中には高い製品はいくらでもあるし、高く売れる製品を探しているバイヤーも多い。それでも、高くなったから高く売れるわけではない。高い製品は高級品でなければならない。そして、高級品には高級品の品格が必要だ。
 品格とはどこから来るのだろう。まず、商品を販売している店が高級であること。高級な店は、地価の高い一等地にあり、美しいデザインの店である。働いている販売員も、センスが良く、美しい。包装紙やショッピングバッグも優れたデザインで上質である。全てにコストが掛かっている。
 あらゆる要素が、コストの高い店に見合うだけのブランド、商品であることを証明している。
 高級品の価値とは、商品の原価だけではない。原材料費、加工賃、物流費等を合計した商品原価に加えて、ショップの経費、販売員の経費、ファッションショーや広告宣伝の経費、本社の経費等の全てが商品の小売価格に乗せられている。逆に言えば、高額品として認知され、顧客が購入した時に満足するために、ブランド企業は商品以外の要素に投資しているのだ。
 メーカーは常にいかにコストダウンするかを考える。無駄を排除し、少しでも品質の良い材料を使い、加工には手を抜かずに、高品質で低価格を目指すことが理想だ。
 しかし、高級品の論理はメーカーとは異なる。むしろ、コストを掛けて、それ以上の価値を生み出すことを目指す。無駄だと思うことでも、顧客の満足感が高まるのなら、やらなければならない。顧客は満足すれば、高い価格の商品でも購入する。逆に、コストを上げても、満足できなければ買わない。
 高級品の販売にとって、最も重要なのがブランドイメージである。ブランドイメージを高く保てれば、高額商品でも売れる。しかし、一度、ブランドイメージに傷がつけば顧客は離れていく。ブランドイメージこそ、ブランドの価値であり、それが利益の源泉だ。
 高級品には、高級品の売り方がある。産地ブランドといえども、高額商品は高級品として販売しなければならない。

4.国内外で展開できるショップの最低条件

 産地ブランドを国内外で展開する時の最低条件とは何か。
 まず、各社がOEM生産ではなく、各社がオリジナルブランドを持ち、オリジナル企画の商品を生産、販売すること。
 産地ブランドなのだから、産地に一つのブランドがあればいいと考えがちだが、ブランドは商品の人格でなければならない。ブランドイメージとは商品だけでなく、広告宣伝やパッケージ、サービスにいたるまでのトータルな表現である。それをコントロールするには、一人の個人が責任を持って取り組まなければならない。
 そう考えると、まず、各企業がオリジナルブランドを持つことが望ましいだろう。そして、産地の名前を冠した産地ブランドは、各企業のオリジナルブランドとのダブルチョップとする。あるいは、個々の会社のブランド商品を販売するセレクトショップの名前を産地ブランドにしても良い。その場合は、ショップブランドということになる。
 いずれにせよ、一つのブランドには、一人の企画責任者(通常はデザイナー)が必要である。企画責任者は社内の社員でもいいし、社外の個人や会社と契約してもいい。
 そして、各社のブランドは、それぞれが明確なコンセプトを持ち、独自のブランディングをしなければならない。
 その上で、個性ある産地発のオリジナルブランドのセレクトショップをプロデュースする。各ブランドのイメージは各社の企画担当者が行う。そして、ショップ全体のイメージは、ショップの企画担当者が行うのである。
 ここまでの準備ができて初めて、国内外に店舗を展開することが可能になる。各社がブランドを構築せずに、適当に生産した商品を持ち寄ったのでは、どんなにきれいな店でも、産地商品直売所になるだけである。

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