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韓国国内モータースポーツの現状

※1 この記事はあくまでも「モータースポーツ」の観点で韓国国内のモータースポーツについて批評しているもので、政治・ナショナリズム等のボーボー燃えやすい視点でモノを言ったものでは無いです。
そういう視点で批評をしたい人はそっ閉じ推奨。

※2 この記事では「韓国国内のトップカテゴリ」のみにスポットを当てており、それ以下のジュニアカテゴリは特に議論していない(というか知らない)のでご了承ください。


「韓国」「モータースポーツ」と聞いて先ず思い浮かぶのは、現在ヒュンダイが参戦しているWRCなのかなと思う。
ヒュンダイが販売している主力ハッチバックである「i2O」をベースとしたWRCマシンでトヨタ ヤリスを相手に奮闘している。
同じく韓国のモータースポーツと聞いて一般的にピックアップされるものは、かつて開催されたF1 韓国GPだと思う。主催である韓国側の不手際が目立った事で有名になってしまっている。

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一見、日本ほどではないが韓国もモータースポーツが盛んなんだなぁという風に見えるが、上記はあくまでも「国際モータースポーツカテゴリ」の話題であり、その地盤になる「韓国国内モータースポーツカテゴリ」がどの様になっているのか、日本みたいに発達した国内カテゴリがあるのか等、内情はあまり知られていない。
まぁワールドワイドで活躍している韓国人レーシングドライバーを見たことが無い時点で国内事情はお察しなんだけど、実際どうなっているのか考察も含めて紹介していきたいと思う。


1. 韓国国内のトップカテゴリ

まず、韓国国内のトップモータースポーツカテゴリとしてどのようなものがあるのかをご紹介する。

■フォーミュラカー
韓国国内で開催されているフォーミュラカーシリーズは現在では存在していない。かつて、「フォーミュラ・コリア」というF4相当のフォーミュラカーシリーズが韓国のトップフォーミュラとして存在していたが、2007年に休止して以降、韓国国内ではフォーミュラカーカテゴリは開催されていないとの事。

■グランドツーリングカー
グランドツーリングカーの韓国国内のトップカテゴリとして「SUPERRACE CHAMPIONSHIP(スーパーレース)」というシリーズ戦がある。シリーズ最高峰クラスであるストックカーの「SUPER 6000」を始めとして、BoP調整されたマシンで争われる「GT1/GT2」クラス、BMW M4を使用した「BMW M」クラス、プロトタイプカーを使用する「Radical Cup Asia」クラスと、スペック毎に多岐にクラス分けされている事が特徴。
ちなみにこのシリーズはYouTubeチャンネルでほぼ全てのレースが配信されている。無料で視聴できるので、興味がある方は覗いてみてはいかがだろうか。

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2. 韓国国内モータースポーツの人気度

「フォーミュラカテゴリが絶滅している」と先述した時点でお察しだが、韓国国内モータースポーツの人気は残念ながらあまり高くはないご様子である。
例えば、コロナで色々と規制される前である2019年のスーパーレースでの客の入り様をYouTube上にUPされているレース動画から見てみると、

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メインスタンドはかなりガラガラ。
ざっと見、5000人も行かなそう・・・

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遠目で分かりづらいが、他のスタンドは人の気配すら無い。
YouTubeのレース配信の再生数を見てもそこまで多いというわけでもなく、多くても3万程度とこれまた微妙なもの。

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全くファンがいない訳ではないが、国内のトップカテゴリにしては人気が無いと言わざる負えない。

3. 日本以上のガラパゴス化

日本のモータースポーツは独自な進化を遂げている。現在のモータースポーツでは国際的な共通規格(ハコ車ならGT3規格、フォーミュラならFIA F3、等)を導入して開発費用の削減や海外チームの参戦を容易にするのがメインストリームになっているが、日本は独自規格を採用することが多いため「日本のレースカテゴリはガラパゴス化している」と揶揄されている。
とはいえ、ここ15年くらいで割とその傾向は改善されつつある。SuperGTのGT300クラスやS耐ではGT3規格のマシンが参戦できるようになってきているし、鈴鹿10hなどGT3規格専用のレースイベントが開催されたりと、国内レースのガラパゴス化が解消されて参戦障壁を低くしつつある。

一方の韓国国内のモータースポーツはどうなのかというと、日本以上にガラパゴス化している。

まずはスーパーレースのGT1/GT2クラス。
本来、このクラスはGT1規格及びGT2規格(GT3より改造範囲が広い車両規格)のマシン参戦を目論んで作られたらしいのだが、GT1規格/GT2規格いずれもマシン開発費の高騰の為に現在では規格自体がGT3規格に淘汰されてしまっているため、これらの規格を採用するのは少々時代遅れ感がある。
淘汰された規格のため、メーカーが新規でGT1規格/GT2規格のマシンを作っておらず、結果としてこのクラスでGT1規格/GT2規格のマシンが一台も登録されていないという状況が生まれてしまった。
現在では独自レギュレーション準拠にチューンドされたマシンがこのクラスの主役となっている。ヒュンダイや起亜等の車両が活躍しているそうな。

次にSUPER 6000クラス。
先程も少し触れたが、このクラスはストックカーである。ストックカーとは外観だけ市販車を模しているが中身はレーシング専用の車両の事で、アメリカのNASCARが有名である。
ストックカーが悪いという訳ではないが、ストックカーの性格上どうしてもマシンが独自規格となる為、これもガラパゴス化に一役買ってしまっている。
ちなみに2019年まで韓国GMスポンサードのため外観がキャデラックATS-Vだったが、2020年からトヨタが協力する事となり外観がGRスープラになっている、韓国国内のレースなのに・・・

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4. 国内大手自動車メーカーが国内に興味がない

先述した低人気及びガラパゴス化はなぜ起きているのか。ここでスーパーレースのHPのスポンサー一覧を見てみると、あることに気付く。

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この中で自動車メーカーはSUPER 6000の外観としてスポンサードしているトヨタ、ワンメイクレースのあるBMW、2019年までSUPER 6000の外観をしていたキャデラックの3社である。キャデラックは正確に言うと「韓国GM(元大字自動車)」であり韓国メーカーであると言えなくもないが、そこは置いといて。スポンサー一覧の中に韓国国内大手自動車メーカーであるヒュンダイと起亜がいないのである。
ネットの文献を見てみると、一時期ヒュンダイがワークスチームを送り込んでいたという記述があり、関与していた時期もあったと思われるが、現在ではワークスチームは撤退しておりスポンサードもしていない。起亜に関しては恐らく関わってすらいない。

これはスーパーレースと韓国GMの関わりが強過ぎることが原因のひとつとして挙げられる。最上位クラスのSUPER 6000を2019年まで実質韓国GMが独占しており、ヒュンダイと起亜は関わりたくても出来なかった可能性がある。
とはいえ、スーパーレースの歴史上、韓国GMとの関わりが浅かった時期も存在している。特に2020年は一時的ではあるが韓国GMは事実上撤退もしていた。また、GT1/GT2クラスはむしろ各チームがヒュンダイや起亜の車両を使用している事が多く、GTクラスを通じてスーパーレースと関わりを持つ事も可能であったはずだ。同じレースシリーズ内でも上位クラスより下位クラスの方が人気が出て上位クラスが淘汰されるというのもモータースポーツではよくある話なので、ヒュンダイや起亜が積極的にGTクラスに関与していればGTクラスが最上位になり、発展したGTクラスが存在する未来があったかもしれない。
しかし、スーパーレースの歴史上特に深く関わってこなかった現状を見ると、ヒュンダイと起亜は韓国国内モータースポーツに興味がないと考えざる負えない。ヒュンダイと起亜はWRCやTCR(ツーリングカー)等、一足飛びに世界のモータースポーツに関与しているが、自国での基盤が殆ど無いために韓国国内から世界にドライバーを輩出出来なかったり、エンジニアを送り込んだりができない為に海外のモータースポーツチームを買収してワークス化させたりしている。
一方で国内のモータースポーツカテゴリを醸造させる気はない為、結果的に国内フォーミュラカテゴリは絶滅してしまったし、国内GTカテゴリも人気は芳しくなく、このままではスーパーレースは無くなる可能性だってある。
国内基盤を育てない韓国国内カーメーカーの罪は重い。

5. 良い所だってある

ここまでネガティブな事しか言っていないが、勿論良いところだってある。
一度、YouTubeでスーパーレースを見ていただくと分かるのだが、参戦しているドライバーのレベルはなかなか高い。特にSUPER 6000クラスはかなり白熱したバトルを展開している。下のクラスにいくほどレベルは若干下がるものの、レースとして十分見ていられるレベルだと思う。
スーパーレースのマネージメントも恐らく優秀ではないかと思われる。発足して約15年、大手自動車メーカーの支援も無く、国内モータースポーツファンも海外に目を向けがちな状況にも関わらず、潰れずに興業を続けるのは並大抵ではない。参戦しているチームもなかなかに多く、そういう姿を見ると、カテゴリとしては比較的安泰なのかも知れない。

とはいえ、今後もスーパーレースを続ける為にはガラパゴス化の解消や国内人気の底上げは必要になってくる。将来どの様に舵を切っていくのか、ひとまず様子を見てみよう。

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