米国内国歳入庁(IRS)が所得税申告の新サービス(Direct File)を導入
0.はじめに
2024年3月12日、2024年の確定申告シーズンが本格化する中、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service(IRS))はダイレクトファイル(Direct File)と呼ばれるオンラインで確定申告を行える無料サービスを12の州(※)の一定の資格を有する納税者が利用できることを発表した。
※ アリゾナ州、カリフォルニア州、フロリダ州、マサチューセッツ州、ネバダ州、ニューハンプシャー州、ニューヨーク州、サウスダコタ州、テネシー州、テキサス州、ワシントン州、ワイオミング州
2022年に施行されたインフレ抑制法(Inflation Reduction Act (IRA))においてIRSが運営する無料の電子申告システムの実現可能性等に関する調査と議会への報告が求められたことを受け、 IRSが調査・開発してきた新規サービスが、今回ダイレクトファイルとして実際に提供開始されることとなる。
また、サービスが提供される12州のうち州所得税が適用されるアリゾナ州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州の納税者は、州がこのツールと連携して無料で申告するツールが提供されるため、それ以外の州所得税が適用されない8州とあわせて、これらの12州では無料での連邦・州所得税の電子申告システムが提供されることを意味する。
本稿においては、米国の確定申告における電子申告の現状及び今回のダイレクトファイルの提供に至る経緯について概観する。
1.米国における所得税確定申告の仕組み
一般的に、米国民及び米国居住者については一定の所得等に応じて、連邦所得税の納税義務がある。米国においては企業における源泉徴収が行われるが、日本に見られるような年末調整の仕組みは存在しないため、多くの納税義務者が確定申告を行うこととなる。また、確定申告の必要がない場合であっても、還付(クレジット)を受けるために確定申告を選択することもある。2023年中に行われた確定申告の件数は約1.5億件である。
次に州所得税について着目すると、米国内のどこでも同じ条件である連邦所得税と異なり、州所得税についてはその有無及び要件が州ごとに大きく異なる 。課税の有無という点では、9の州 においては所得課税が行われていない。一方で、所得課税が行われる場合であっても、30の州においては社会保障給付を所得計算に含めていない。更に、納税者の年齢や所得等に応じて一定の控除を認める場合もある(例えば、コネチカット州では、調整後総所得 (AGI) が 75,000 ドル未満 (単独申告者) または 100,000 ドル未満 (共同申告者) の納税者については、社会保障給付を所得計算から除外している。)。
税率についても、12の州では一律の税率となっており、29の州では累進税率となっている。したがって、個人がどの州に居住するか、また、どの州において勤務するかによって適用される州所得税の内容が異なることとなり、連邦政府に対する連邦所得税確定申告書(Form 1040)とは別に州政府に対する州所得税確定申告を行う必要がある。
例えば、ニューヨーク州においては、居住者に加えて非居住者(ニューヨーク州源泉の収入がある場合)への課税における所得計算において、所得に参入する項目が連邦所得税と異なっており、ニューヨーク州独自の控除(世帯控除、大学授業料控除等)があるため、連邦政府への確定申告(Form 1040)と併せてニューヨーク州政府への確定申告(Form IT-201等)を行う必要がある。
2.米国の連邦・州所得税の電子申告の仕組み
2−1.連邦所得税電子申告
米国の連邦所得税は、2024年の確定申告(2023年分の所得税)においては、約97パーセントが電子申告により行われている。
連邦所得税の電子申告には、以下の方法が用意されている。
一定の所得以下の納税義務者を対象としたIRSと提携する民間事業者の提供する税務申告ソフトウェアを用いた無料での申告(フリーファイル(Free File))
ボランティアによる申告支援(Volunteer Income Tax Assistance or Tax Counseling for the Elderly programs)
市販の税務申告ソフトウェアを用いた申告
IRS認定電子申告事業者への申告依頼
ダイレクトファイル【2024年申告より12州の対象者に対してパイロットプログラムとして提供】
1から4までの内訳の詳細は得られなかったが、フリーファイルを利用可能な納税者(全体の71%)の2020年申告での内訳は次の通りとなっている 。
2−2.フリーファイル(現行の無料電子申告の仕組み)の概要
現行の電子申告の手法のうち、これまで多くの一般的な納税者を対象とした無料サービスとして推進されてきたフリーファイル(Free File)プログラムは、2023年申告より始まったソフトウェアプロバイダにより構成される非営利組織であるFree File Alliance(FFA)とIRSが官民共同で提供する電子申告サービスである。このプログラムは、調整後総所得が一定金額以下の納税者(2024年申告においては79,000ドル)に対して、無料で税申告を行う手段を提供する。
IRSのウェブサイトには、フリーファイルプログラムに参加しているすべてのソフトウェアプロバイダのリストが掲載されており、納税者はこのリストを利用して、自分に最も適したプロバイダを選択することができる。
各プロバイダは、無料サービスを提供する際に、サービスの質、プライバシー保護、セキュリティ対策など一定の基準を満たす必要がある。
フリーファイルの具体的な内容については、IRSとFFAが締結する協定書により取り決められており、制度開始当初は、IRSはフリーファイルと競合しうる無料サービスを提供しないことを約束しており、これが各プロバイダがFFAに参画する大きなインセンティブになったと言われている 。
州独自の申告が必要な各州においては、独自に申告のためのシステムを提供するか、フリーファイルプログラムに参加してFFAメンバーのプロバイダから無料の電子申告サービスを提供するかのいずれかの方式を採用するのが一般的である。2024年時点で、23州が独自の申告システムを提供し、24州がフリーファイルプログラムに参加している。
3.ダイレクトファイルの概要
ダイレクトファイルは、IRSが2024年申告でパイロットプログラムとして限定的に提供し、2025年申告より恒久的に提供すると発表した無料の電子申告システムである。これは納税者が直接オンラインで税務申告を行えるサービスであり、既存の税務ソフトウェアを介さずに、簡単かつ効率的に申告を行えるよう設計されている。以下に、ダイレクトファイルの具体的内容を説明する。
3-1.機能
無料で利用可能:全ての納税者は無料で連邦税の申告を行うことができる。
多言語対応:英語とスペイン語で利用できる。
デバイス対応:携帯電話、ノートパソコン、タブレット、デスクトップコンピュータなど、さまざまなデバイスで利用できる。
インタビュー形式:各種情報を入力する手間が軽減されるよう、簡単なインタビュー形式で申告を進めることができる。
ライブチャット:IRSの担当者によるバイリンガル(英語とスペイン語)の技術的なサポートや基本的な税法の質問に対応したライブチャットサポートが提供され、申告プロセスの任意のステップでサポートを受けることができる。
API構築:納税者が連邦税申告データを第三者ツールにシームレスに移行できるように、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)が構築されている。
対象となる州:2024年申告においては、12州の納税者を対象としたパイロットプログラムとして実施されている。
対応している申告内容:Form 1040および1040-SR(通常の所得税申告書および高齢者向けの簡易申告書)の全ての申告ステータス(独身、既婚共同申告、既婚別々申告、世帯主など)について、主に以下の申告に対応している。
賃金
利息収入: $1,500以下
失業手当
社会保障
標準控除
学生ローン利息控除
教育者経費控除
児童税額控除およびその他扶養家族のための控除
勤労所得税額控除
対応していない申告内容
自営業所得
不動産所得
外国所得
配当金
医療費、州および地方税、住宅ローン利息、寄付金などの詳細な控除
事業経費控除
非居住者の申告
3-2.州の対応
2024年パイロットプログラムを実施する12州のうち、8州は州所得税がない(例外的に一定額以上の金融所得に課税するニューハンプシャー州、ワシントン州を含む。)ため、特段州としての追加の対応を行うことなく、ダイレクトファイルの対象州となっている。一方で、アラスカ州については、州所得税はないものの、アラスカ州の住民に固有の連邦所得税の申告要件(アラスカ永久基金配当)のサポートがなされなかったため、2024年パイロットプログラムの対象とはなっていない。
州所得税の申告がある4州(アリゾナ州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州、カリフォルニア州)においては、ダイレクトファイルによる連邦所得税の申告を起点として、州が提供する申告プログラムを用いて州所得税申告を容易にできるようになっている。
例:ダイレクトファイルとニューヨーク州申告システムの画面遷移
各州のダイレクトファイルとの連携
4.ダイレクトファイル導入に関するこれまでの経緯
4-1.無料申告サービスの低迷
2のとおり、無料での電子申告サービス提供は、これまでもフリーファイルとして存在していた。2003年の開始以来、フリーファイルは7000万件以上の無料税務申告を行い、申告者に20億ドル以上の価値を提供したとされる。FFAによると、フリーファイルはユーザーの満足度について定期的に調査を行っており、2022年には97.4%のユーザーが再びフリーファイルを使用すると回答した。
それにもかかわらず、フリーファイルを利用可能な納税者は納税者全体の約7割を占めているのに対して、全体の約3%しか当該サービスを利用しておらず、紙での申告やボランティアによる支援を合わせても無料のサービスは全体の約7パーセントにとどまっており、それ以外の大半は有料サービスを利用していることになる。
利用率の低迷について、以下の点が指摘されている。
第一に、広告宣伝不足等の要因により、多くの納税者がフリーファイルプログラムの存在を知らない、またはアクセス方法を知らないことが挙げられる。調査によれば、利用可能な納税者の3分の1がフリーファイルプログラムの存在を知らない、あるいは、アクセス方法を理解していなかったことが判明している。また、フリーファイルが利用可能な要件が複数存在しているため、納税者が利用可能かを自ら判断することが難しい点も指摘されている。
第二に、納税者が、民間事業者から提供される有償サービスとフリーファイルプログラムを混同し、広く宣伝されている有償サービスを無料サービスと誤解することも少なくないと言われている。2006年に行われた調査においては、フリーファイルに加えて有償の付帯サービスを利用したユーザーの半数は有償サービスの利用を意図していなかったとされる。2022年には、Intuit社が自社の提供する税務サービスであるTurboTaxについて、有償サービスへの誘導やフリーファイルの検索結果の非表示などを行っていたとして、260万人のユーザーへの返金が行われるという事態も生じている。
利用率の低迷に加えて、フリーファイルプログラムを民間産業に依存することによるリスクも指摘されている。FFAからは、最近5社が脱退しており、その中にはIntuitやH&R Blockが含まれており、これらの企業は2019年にフリーファイルユーザーの約70%を占めている。そのため、GAOは、IRSがフリーファイル以外の無料の電子申告システムを開発すべきであると推奨した。
4-2.インフレ抑制法に基づく検討
2022年、米国の経済競争力、イノベーション、産業生産性の向上を目指すインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)が成立した。同法には、炭素排出量の削減、医療費の引き下げ、内国歳入庁への資金提供、納税者のコンプライアンスの改善に向けた新たな連邦支出など様々な施策が盛り込まれており、IRS関連では800億ドルもの予算措置が取られた。
IRSの施策においては、サービスの向上、税務コンプライアンスの強化、技術の近代化などとともに、一般に「ダイレクトファイル」と呼ばれる、無料で任意の IRS 運営の電子申告システムの選択肢を納税者に提供することの実現可能性を調査し、議会に報告することが義務付けられた。
2023年、IRSは同法に基づき、議会に報告書を提出した。当該報告書では、多くの納税者が IRSが提供する無料のツールを使って税金を準備し申告することに関心があり、またIRS は技術的にダイレクトファイルプログラムを提供できることに言及された。また、ダイレクトファイルプログラムを効果的に実行するには、継続的な予算投資と潜在的なプログラムの運用上の複雑さに対する慎重な管理が必要であると結論付けている。
同報告の後、米国財務省はIRSに対して、顧客サポートとテクノロジーのニーズ、および同報告で言及された潜在的な運用上の課題への対応について評価するために、2024年確定申告シーズンにおけるダイレクトファイルの大規模な試行(パイロットプログラム)を指示した。
4-3.ダイレクトファイルに関する賛否
(1)各種団体の反応
ツールに批判的な意見としては、アメリカ納税者権利連合(American Coalition for Taxpayer Rights, ACTR)などの税務業界から指摘がある。
既にフリーファイルや民間サービスのうちの無料プランが無料の申告サービスのニーズを満たしており、既存サービスと重複投資が生じていること
ダイレクトファイルの構築・維持・更新に多額のコストを要し、結果的に納税者の負担となること
民間サービスと比べたときに大幅に機能が限定されていること
などの理由からACTRはダイレクトファイルを批判している。
また、連邦の税制はあくまで自己申告制であり、IRSが申告書を作成するのは納税者が申告を怠った場合などに限定されていることと、ダイレクトファイルを自身が提供することの整合性を問う専門家の意見もある。
一方で、納税者の権利を訴える各種団体は、ダイレクトファイルの導入を歓迎している。
自由かつ公平な申告のための連合(The Coalition for Free and Fair Filing)は、無料の納税申告へのアクセスを増やすことで、多くの有色人種世帯が正当な還付金や控除を受けることにつながると主張している。
既存のフリーファイルや民間サービスの無料プランは、事業者が意図的に納税者から排除しており、過去20年間の取組を経ても十分な普及に至っていないこと
IRSによると、技術的コストは申告1件あたり1.23ドルから6.76ドル、顧客サービスコストは約8ドルであり、相当程度抑えられていること
機能の限定はパイロットプログラムであることから前提とされており、今後拡充されていくこと
などとACTRに反論している。
また、ダイレクトファイルについて具体的な効果額の推計を行っている政策提言団体の分析もある。Economic Security Projectは、これまでの先行的な検証結果を踏まえて約5000万人がダイレクトファイルを利用するという仮定を置いた場合、既存の納税者に対するコスト削減(年間約110億ドル)、税額控除の取得ギャップの解消(年間約50億~120億ドル)、連邦政府に対するコスト削減(年間約3億ドル)が見込まれると分析している。この連邦政府に対するコスト削減で、ダイレクトファイルの運用コストの約6割は相殺され、相殺後の運用コストに対して得られる納税者の便益(ROI)は約106倍(1ドルの投資に対して106ドルの便益)があるとしている。
他方、運用コストについて、後述のパイロットプログラムの結果を踏まえた上で、パイロットプログラムは、限定した人数に対してきめ細やかなサービスが提供されており、対象範囲を拡大する場合に同条件での実現が可能なのか、また、コストの見積もりが妥当なのかについて疑問視する意見もある。
(2)連邦議会・州政府の反応
ニューヨーク州のようにダイレクトファイルとの連携した無料の州所得税申告ツールの導入を発表する州がある一方で、ダイレクトファイルについて反対を表明する州もある。
2024年1月30日、モンタナ州をはじめとする13州の司法長官が財務省に書簡を送り、このパイロットプログラムを実施することは議会が与えた権限を超えており、憲法違反であるため、ダイレクトプログラムの停止を求めた。書簡においては、2022年にインフレーション抑制法を通じて、ダイレクトプログラムの実現可能性を調査するために割り当てられた1500万ドルの資金は、独立した第三者による調査に使用されるべきものであり、プログラム自体の構築に使われるべきではなく、財務省・IRSがダイレクトプログラムを開始することには議会からの明確な立法権限が与えられていないと指摘している。
2024年3月25日、18州の21人の州監査官、会計監査官、財務官は財務省・IRSに書簡を送り、ダイレクトファイルがもたらす「重大な損害」に対する懸念を表明し、同サービスを「停止」するよう求めた。具体的には、実際にかかるコストが巨額となる可能性があることや州税を納めているにもかかわらず、ダイレクトファイルが連邦と州の申告をカバーしていると誤って想定しているダイレクトファイル納税者からの支払いを失うことへの懸念が言及されている。
州の反応をまとめると以下のようになる。
州申告への影響が懸念の一つとなっていることからも、所得税を課している州からの反対が多数を占める。独自のアプリケーションを提供している州、フリーファイルを通じて提供している州のいずれからも反対が示されていることから、州の申告システムの形態と反対意見の関係はあまりないと考えられる。
一方で、1月・3月いずれの反対の書簡についても、署名者は全て共和党に所属しており、党派的な立場で反対がなされているとも推測される。
連邦議会においては、共和党が反対の立場を取っている。2022年以降共和党が多数を占める連邦議会下院の歳出委員会が提案した金融サービスおよび一般政府(FSGG)法案は、IRSの全体的な資金を2024年のレベルより22億ドル削減することに加えて、政策付帯条項として「議会が承認していない政府運営の納税申告ソフトウェアをIRSが開発するために資金が使われることを禁止する」とされている。
5.パイロットプログラムの結果と今後の見通し
IRSは2024年のパイロットプログラムの結果について、以下の通り説明している。
(1)登録者数
2024年の申告シーズン中、3,340,500人がダイレクトファイルのエリジビリティ(登録可否)チェッカーを開始し、423,450人がシステムにログインし、最終的に140,803人が申告を完了した。これはIRSがパイロットプログラムの目標として設定した100,000件の利用件数を大きく上回るものであった。なお、パイロットプログラムを利用可能な納税者数は全納税者の12%と想定されており、この落差は想定されうるものと分析されている。
(2)満足度
ダイレクトファイルを利用したユーザーの90%が「優れた」または「平均以上」と評価した。特に使いやすさ、信頼性、無料である点が高く評価された。
(3)納税者にとっての経済的メリット
ダイレクトファイルを利用した納税者は約5.6百万ドルの税準備費用を節約したとともに、約90百万ドルの税金の還付につながったと推計されている。
2024年5月、IRSはパイロットプログラムの結果と関係者からの意見を踏まえ、2025 年の納税シーズンから連邦税申告書の提出方法としてダイレクトファイルを恒久的な選択肢にすると発表した。発表によれば、ユーザーの圧倒的な満足度と納税申告の容易さの向上が恒久化の理由とされており、2025 年の申告シーズンに向けて、より多くの納税状況をカバーし、すべての州にダイレクトファイルとの提携を呼びかけることなど、ダイレクトファイルの利用可能範囲を全国に広げる選択肢を検討していくとしている。一方で、ダイレクトファイルは税務専門家や民間サービスに取って代わるものではないとしており、フリーファイルを継続するために業界との5年間の延長契約を締結したとしている。
一方で、当該発表の数日後に、連邦議会下院の歳出委員会において前述のとおりダイレクトファイルに対する支出を禁止する法案が提出されるなど、今後もIRS予算における焦点となると考えられ、IRSの呼びかけに対する各州の反応(※)とあわせて、2025年申告シーズンに向けた動向が注目される。
※ 2024年6月18日、オレゴン州が2025年申告からダイレクトファイルに参加することが連邦財務省から発表された。
6.終わりに
ここまで米国の確定申告における電子申告の現状及び今回のダイレクトファイルの提供に至る経緯について概観した。米国においては、ほぼ全ての納税者が確定申告を経験すること及び還付・クレジットの形で、確定申告が給付行政のツールとして重要な役割を担っていることから、申告のコストを如何に抑えるのかは重大な課題である。
安価で使い勝手の良い行政サービスを実現するために、政府自らがサービスを提供するのがよいのか、あるいは民間サービスが担うのがよいのか、どのような役割分担が考えられるのか、という点については、我が国におけるデジタル行政にも通ずる論点であると筆者は考える。
IRSが無料ツール提供に踏み切ったことは、こうした論点に一石を投じるものとなると思われ、来年の申告シーズンに向けた恒久化の動きも含めて、今後の展開を注視したい。
参考文献
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ダイレクトファイルデモ https://www.youtube.com/watch?v=X4E1ThXVUX0
FileYourStateTaxesデモ https://www.youtube.com/watch?v=ENUHe6hKj1U
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Kerr Consulting LLC, Bob Kerr, “IRS Is Ignoring Red Flags in Its Love Affair With Direct File” [https://news.bloombergtax.com/tax-insights-and-commentary/irs-is-ignoring-red-flags-in-its-love-affair-with-direct-file]
The Coalition for Free and Fair Filing, “Dispelling American Coalition for Taxpayer Rights’ Myths About IRS Direct File”, [https://betterirs.org/wp-content/uploads/sites/283/American-Coalition-for-Taxpayer-Rights-Myth_Fact.pdf]
Economic Security Project, Gabriel Zucker and Bharat Ramamurti,”The Impact of Direct File—by the Numbers” [https://economicsecurityproject.org/resource/direct-file-report/]
Montana Department of Justice, “Attorney General Knudsen Demands Biden Administration Halt Unconstitutional IRS Program” [https://dojmt.gov/attorney-general-knudsen-demands-biden-administration-halt-unconstitutional-irs-program/]
A letter to the Honorable Janet Yellen, Secretary, Department of the Treasury, the Honorable Wally Adeyemo, Deputy Secretary, Department of the Treasury and the Honorable Daniel Werfel, Commissioner, Internal Revenue Service [https://myfloridacfo.com/docs-sf/cfo-news-libraries/news-documents/2024/irs-direct-file-letter.pdf]
James Bickerton, “Republicans Want to Make Filing Your Taxes More Expensive”, Newsweek [https://www.newsweek.com/republicans-want-make-filing-taxes-more-expensive-1908634]
IRS, “IRS makes Direct File a permanent option to file federal tax returns; expanded access for more taxpayers planned for the 2025 filing season”, [https://www.irs.gov/newsroom/irs-makes-direct-file-a-permanent-option-to-file-federal-tax-returns-expanded-access-for-more-taxpayers-planned-for-the-2025-filing-season]
U.S. Department of Treasury, “U.S. Department of the Treasury, IRS Announce Oregon as First New State to Join IRS Direct File for Filing Season 2025 ”[https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy2416]
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