ハーフガーダーズ

ハーフガードの歴史

ハーフガードとはグレイシー柔術ではハーフマウントとも呼ばれマウントを取られる一歩前のポジションとしてあまり有効ではないポジションとされていた。

それを変えたのはホベルト・ゴルドだと言われている。柔術をやっていたゴルドは膝に大きな怪我を負った際に負担がかからないようなスタイルを求めた結果ハーフガードに行き着いたと言う記述を読んだことがある。

これは私も同感でハーフガードの動きの中で膝を負傷したことは一度もない。

しかしこのゴルドは2000年前後に活躍した選手なので情報が当時ほとんどなく参考にしたことはなかった。

しかし後にハーフガード革命として大きく歴史を変えたのはジェフ・グローバーだと私は思う。

画像1

私がディープハーフガードの存在を知ったのはこの写真が初めてのことだった。

2005年前後からこのディープハーフガードは流行り出し、全身で片足にしがみつくガードと言う印象だったが、当時このディープハーフを使い世界で戦っていた選手は

セルソ・ヴィニシウス IBJJF World Champion (2008/2006/2005)

ジェフ・グローバー  IBJJF World Championship NoGi (2007)

ルーカス・レイチ IBJJF World No-Gi Championship (2014/2011/2009),2nd Place IBJJF World Championship (2011/2013/2015)

ベルナルド・ファリア IBJJF World Championship (2010, 2013, 2015)

代表的な選手を挙げていくと、この4人がハーフガードの有効性を全面的に出していったと個人的には思う。

しかし実際今の世界大会を見てもらえれば分かるようにハーフガードを使う選手は年々減っていき2010年前後には階級に一人はダークホース役としていたハーフガーダーだったが近年は全階級通しても数人しか見受けられないようになってしまった。

しかしそれは近年の柔術におけるゲームプランの中に流行り廃りがあるとは思うが確実に今のゲームの流行りからはマッチしない戦法とされているからだと思う。

しかしハーフガード自体はこの歴史の中でマウント一歩手前絶体絶命と言うポジションからディープハーフガード、ニーシールドガード、コヨーテハーフガードなどの出現により確実に戦いにおいて武器になることが証明された。

それぞれのハーフガード

ハーフガーダーの戦い方は個性的である。

上記の選手たちを見ても一人ずつ違うハーフガードの使い方をし、スタイルへの組み込み方が違う。

例えば、セルソ・ヴィニシウスはトップでの盤石のベースと強烈なパスガードを持ち合わせている。なので序盤で自ら引き込むこともあるがトップから強烈なオーバーアンダーパスを利用して勝つことも多い。彼のハーフガードの使い方はテイクダウンのように使う。先制点を取るために使われることが多いので仕掛けが速い。一度引き込んだら肩車のように担ぎ上げて巻き込んでしまうのを得意とし、バリエーションはそこまでないが強烈なフィジカルを全面に押し出していてスタイル的にはマッチしている。

ジェフ・グローバーはディープハーフを駆使し多くのバリエーションで技を仕掛ける。もちろんスイープも得意だが三角絞めやギロチンチョークなども得意なのでディープハーフで身を守りながら隙があれば形を変化させていきながら極めまで繋げるスタイル。体と思考が柔らかくその場で臨機応変に行うことが多い。彼は2008年以降はどんどんスタイルが変化していき後にドンキーガードなどのリバースクローズガードを考案したり、オンリーサブミッション(一本決着ルール)に進み出し近年ではほとんどディープハーフガードを試合で使わなくなっていった。

ルーカス・レイチは2010年から2015年に活躍した選手でミドル級に長い間君臨し、クロン・グレイシーの連勝記録を止めたり、マルセロ・ガルシアと何度もファイナルを戦ったり(一度も勝てなかったが)後にミドル級ほどの体重しかないのにヘビー級に出場し世界選手権で二回も準優勝するなどの快挙を成し遂げた。彼のスタイルは深い脇差からのバックテイクとロールスイープを得意とし、スイープから直接サイドやバックを取りに行くと言う強烈なスイープから繋げて行くスタイルでコヨーテハーフガードと言う脇差を主武器にしたハーフガードを作り上げた。このスタイルは大型の選手に有効だと気付いた彼は体型、体重を無視しより効果的に戦える場所を選択したためにヘビー級で戦うと言う答えに行き着いたものだと彼のインタビューで話していたのが印象的だった。

ベルナルド・ファリアは世界最強のハーフガーダーだ。文字通り世界選手権の無差別級で優勝した実績もあり、名実ともに本物だと言うことがわかる。彼は2010年で一度優勝しているがその時はディープハーフガードを駆使し強烈なブリッジスイープで相手をひっくり返し彼のもう一つの得意技オーバーアンダーパスに繋げて行く黄金スタイルを作り上げ優勝していた。しかし彼の歴史の中にも変化があり晩年はディーフハーフではなくシングルハーフからのラペラを利用し両足タックルに繋げオーバーアンダーパスに持って行くと言うスタイルを完成させ2015年は優勝している。私自身、彼と何度も交流がありなぜそのようにしていったのかを聞くと「ディープハーフは強いやつをひっくり返すことはできるが賭けになってしまう時がある。でもシングルハーフとラペラのコンビネーションは九割失敗することはないんだ」と話していた。彼なりの体型を活かしたリスクヘッジだった。

今後の展望

このようにハーフガードを駆使し世界で戦った選手は私を含め数人いるが、ハーフガードと言う少ない選択肢で戦うよりオープンガードを駆使しより柔軟に戦った方が幅は広がるし、可能性の幅もグンと広がる。

しかし全てのことにはメリット、デメリットがある。ハーフガーダーが減ると言うことは研究される要素も少なくなり戦闘経験値も全体の層から減って行く。そうなるとハーフガーダーはさらにダークホース色を強めることが出来る。

デメリットはハーフガードは所謂、独立系ガードであまり他のガードとの共存をしにくいと言うデメリットがある。他のオープンガードとコンビネーションで使えないことが多いのでハーフガーダーはハーフガード一本でやって行く選手が多い。あるとするならばクローズガードとの相性は良く組手の使い方などはそのまま使えるのでこの二つを得意とする選手も多い。

世界トップのGFチームではハーフガードとクローズガードの選手の割合が多くそれだけ教えていたら万人が強くなれるからと言う話を聞いたことがある。それだけで良いと言うのはいかんせん大げさだとは思うが、スタイルを突き詰めることで新しいことが生まれハーフガードの場合は使用者のパイが少ないので新しいスタイルを生み出すことに時間がかかるが、歴史はどこかでまた誰かに新しいアイディアを与えハーフガーダーがまた世界一になれるようなそんなシステムがあるのではないかと私自身も期待し日々模索している。


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