タンギングに関する考察

タンギングってどういうテクニックのこと?と聞かれたら、僕は「自らの舌で、マウスピースとリードの間の、息の通り道を塞ぐテクニック」と答える。
サクソフォンのみならず、全ての管楽器にとって、音色やニュアンスに与えるタンギングの影響は計り知れない。
今回は現時点での僕のタンギングに対する考えをまとめてみたいと思います。
※今回はシングルタンギング、そしてそこから切っても切り離せない、ハーフタンギングに限定。
ダブルタンギング、スラップタンギングはまた別の機会に。

STEP1 まずは音の鳴る仕組みを理解しよう!
そして、音が「鳴らなくなる」仕組みも!

タンギングに話を進める前に重要なのが、当たり前すぎるけれどきちんと整理しておきたい、サックスの音の出る仕組み。
※スラップタンギングを除き、通常の音の鳴る仕組み。

サックスはリード楽器なので、当然このリードが振動することによって音が出る。
ではそのリードの振動はどのように行われるかと考えると、息をマウスピースとリードの隙間へ入れていき、それによりリードが振動する=音が鳴る、ということ。
息を入れないことには絶対に音が鳴ることはない。
本当に当たり前だけど。
「タンギングによって音を出す」なんてことは物理的にまずあり得ない、ということを予め、今一度頭の中で理解しましょう。
しかし案外ここが抜け落ちているがために、色々と問題を引き起こしてしまってる人は意外と多い。

さあ、音が鳴る仕組みを整理したところで、ここから逆に考えれば、音が鳴らないようにするには手段は二つあると分かってくる。

①肺のコントロールによって、単純に息を入れるのをやめる。
息を入れようとしないのだからそりゃ当たり前。

②「タンギング」、つまり自分の舌によって、マウスピースとリードの隙間を閉じ、息が楽器へ入って行くことを封じる。

※もうひとつ言えることは、「うまく音が出なかった、当たらなかった」というトラブルは、言い換えれば「うまくリードが振動しなかった」ということになる(きちんと調整された楽器であることを前提に)。
リードを振動させるには抵抗があるため(その抵抗は音域によって異なる)、その抵抗にいかに対処するか、自分の息のスピード(=圧力)のコントロールが重要になってくる。
これについてはまた別のテーマで。

まずはこの②に焦点を当てていく。

STEP2 タンギングの用法

次に、このタンギングを実際にどのようなときに、どのように使うか考えてみると、ざっくり分ければ、

①音を出すとき(発音時)
②音を出すのをやめるとき(処理)

ということになるだろう。

①発音

先に述べた通り、発音に関しては別にタンギングをしなくても音を発することはできる。
出したい音の抵抗に、息のスピード(圧力)や量が適正なところまで達することができればリードが振動する。
では発音時のタンギングは何のためにするかと考えると、
・発音時のニュアンスのコントロール
・発音が難しい、つまりリードが振動しにくい、特に抵抗の強い低音域の発音のサポート

こんなところ。

ニュアンスのコントロールとしては、息を出す(リードを振動させる)前、どういう息のリリースにするかを決定づけるひとつの要素として、タンギングの用法が考えられる。
つまり、マウスピースとリードの特に先端部分の隙間、この左右の端から端まできちっと密閉すればするほど、その扉を開けると同時の息のリリースが明確になる。
リードの振動し始めが俊敏なものになる。

逆にその扉の閉じ具合をゆるやかに(端から端、ではなく中心部分だけ)すればするほど、発音は甘くなり、しなやかなものになる。

抵抗が強い音域の発音のサポートとしては、隙間の閉じ具合を強くすればするほど、その後の息のリリースが爆発的なものになり、一気にリードが振動する。
良くも悪くも粗野な、割れたような発音になる。

②処理

音の処理のときのタンギングの用法としては
・ニュアンスのコントロール
・タイミングのコントロール

に分けられる。

ニュアンスに関しては、先の発音時と同様、リードとマウスピースの先端の隙間に対し、自分の舌がどのような塞ぎ方をするかが、それまで入っていた息の塞き止められ方に直結してくる。
ピシッと端から端まで明確に塞げば角張った処理になるし、甘く塞げばふわっとした処理になる。

タイミングについては、シンプルにどのタイミングでリードの振動を止めたいか、リードの振動をどのタイミングで制限するか、ということ。
クラシカルな奏法においては、特に連続した速いスタッカートでこの手法を使うが、この制限しにいくタイミングのコントロールが重要になってくる。

STEP3 タンギングの種類

さあ、ではいよいよここからより実践的なところに入ります。

①テヌートタンギング
テヌート tenuto はイタリア語で「保持された」というよなうな意味を持つが、音楽の世界では一般にはあまり抜けがなく張った状態を指します。
それでも状況、解釈によって様々なニュアンスが存在しますが。

ここでテヌート・タンギングの考え方としては、「タンギングをしている時間が極短い」と考えてみましょう。
なるべく音が長く保たれる=息が長く入っている=タンギングの時間が一瞬=タンギングによって息を入れようとしていても、わずかにそれが遮られる=息が入らない時間が一瞬生まれる=リードが振動しない時間がわずかに生じる

というような具合。
重要なことは音が鳴るのも、鳴らないようにするのも、息と舌の働きによってのみコントロールされる、ということ。
よくタンギングで問題がある人は、これ以外の要素を余計に働かせてしまってしまいうまくいかない、もしくはタンギングの仕組みをうまく理解できていない場合が多い。

これは次に説明するスタッカートでも共通する理念となります。

②スタッカート・タンギング
スタッカート staccato はイタリア語で「切り離された」といった意味。
ただ単に「切り離される」と考えればテヌートも切り分けられているわけですが、音楽上では一般に、短く演奏することを指しますね。

つまりスタッカートでは、テヌートで考えられるよりも、早いタイミングでリードの振動をやめさせたいわけです。
どうやるか?
ここで思い出して欲しいのが、STEP1で説明した二つの手段。

①肺のコントロールによって、単純に息を入れるのをやめる。
②「タンギング」、つまり自分の舌によって、マウスピースとリードの隙間を閉じ、息が楽器へ入って行くことを封じる。

スタッカートは大きく分けると、この肺か舌かの2種類のコントロール方法がある。
ひとまず「タンギング」ということで考えれば、②の舌でのコントロール。
「短くする」にはタンギングしにいくタイミングをコントロールすればいいわけです。
ある意味、テヌートとは逆の考え方で、「タンギングをしている時間がわずか一瞬のテヌート」に対し、「タンギングの時間が長くなり息の入る時間を短くするスタッカート」ということ。
つまり、テヌートと、②のスタッカートのやり方の違いは、「タンギングをしにいくタイミングや、タンギングしている時間の差ということになる。
決してタンギングの強さや、唇やアゴなどのアンブシュアの影響は一切必要ない、ということ。

ではこのスタッカートの、肺か舌かのコントロール、その二つをどのように使い分ければいいかというと、そこは解釈やスタイル、状況によって違いがあり、一概に言えない。
が、あくまで僕の個人的な考え、目安、スタイルとしては、だいたいテンポが4分音符=85前後以上で、16分音符の刻みをしたい場合は②の舌でのコントロール。
それより遅い場合は①の肺でのコントロール。
もちろん状況によって85より速くても肺でコントロールしたり、その逆もある。

③ハーフ・タンギング
クラシカルな奏法の中ではあまり使われることはないが、ハーフタンギングの仕組みを理解することも、通常のシングルタンギングを適正に理解していくでとても役立つ。

先に説明した通り、通常のタンギングはリードとマウスピースの先端の隙間を舌で塞ぐこと。
当然息の通り道を塞ぐのでリードが振動することができなくなり、音が鳴らなくなります。
しかし実はまだ隙間は、ある。
横にも隙間はありますね。
先端を舌で塞いでいても、そこから思いっきり息の量、圧を上げれば、わずかに空いた横の隙間から入る息でリードが振動する。

もうひとつのハーフタンギングの仕組みは、先端の塞ぎ方を甘くする。
リードだけに触れる。
わずかに舌を横にずらす、という人も聞いたことがある。

ただいずれにせよリードには舌が触れてきるので、その振動(音の鳴り方)はミュートされた状態になる。

STEP4 舌のつく位置、動かし方

この辺りは本当によく議論になるし、プロでも千差万別。
あくまで僕の個人的な解釈として読んでください。

・舌をつく位置

舌の長さには個人差がある。
短い人は特別考えなくてもいいと思いますが、もし長い人が「舌の先端でタンギングしなければいけない」と考えると危険があります。
舌を少し引っ込めるような格好になり、舌にストレスがかかりすぎ、速いタンギングがしにくくなります。
舌は適当に伸びてる状態、結果、舌の先端よりも少し奥の方が、マウスピースとリードの先端に触れるのが良いかと思う。

・舌の動かし方

舌を前後で動かすか上下で動かすか、ここも議論が別れるところ。
僕としては基本は「前後」で考えている。
が、いずれもメリット&デメリットがあって、本人がうまく付き合っていればどちらでもいいと思う。

前後で動かす場合、メリットとしては、マウスピースとリードの先端の隙間をより明確に閉じることがしやすいため、明瞭な発音を作りやすい(上下でも十分明瞭さは作れるが、少し種類やニュアンスが異なる)。
そしてリードへの舌の接地は先端だけに影響され、面で接地することがないので、うっかりのスラップタンギングを誘発することはまずない。

デメリットとしては、スラップタンギングをしたい時、スラップでは必ず舌が上下に、リードから垂直に真下に舌が離れていく必要があるため、ノーマルとスラップの往き来、使い分けにやや不都合が生じることがある。

反対に、上下で動かす場合のメリット&デメリットはこの逆になる。
状況によっていずれも使えるようにするのがベストかと思う。

ちなみに、僕はクラシックがメインの奏者だが、ジャズも勉強して少しかじっていて、この舌の動かし方の考え方は、セッティングによって少し変わる。
クラシックのセッティングに比べジャズのそれは、マウスピースのオープニングが広くなり、噛む力も弱くするため、マウスピースとリードの隙間は広くなる。
このジャズのセッティングにしたときに、クラシックと同様の舌の動かし方(前後)でアプローチすると、やや明瞭な発音がしにくくなる。
これはオープニングが広いため、先端だけでなく、横の隙間も広くなり、そこから漏れ出る息が多くなるためではないかと思っている。
そこで、舌の動きを少しずつ上下に変えていくと、先端も横も塞げるポイントが見つかってきて、くっきりとした発音が生まれる。
自然とリードに触れる面積も増え、クラシックではあまり用いられない「ザッ」というノイズが多く入ってくる。

それと、スラップタンギングは実はめちゃくちゃ苦手で20年以上出来ずに苦しんでいたのが、ここ最近少しできるよつになってきた。
スラップタンギングをするためのヒントはここまでの中にもあるがまた別の機会に。

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