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「CRUISER POP 」 Self Interview

アマネトリルとして初のフルアルバム「CRUISER POP」が2020.11.03にReleaseされる。今回はアルバム完成についてのセルフライナーノーツ的な事を書いてみました。    

-1.アルバムが完成して-

2018年の1月1日にアマネトリルをスタートさせ、2年半でミニアルバム1枚、シングル3枚、そして今回のフルアルバムと、インディーズとしてはなかなか良いペースで作品を発表している。このご時世、サブスクの他にフィジカルとしてCDとLPまで同時にリリースできるのは、正直に言ってかなり恵まれていると思う。特に今年はミュージシャンにとって苦難の1年だった。ライブが出来ないというどうしようもない事実を、いかにポジティブ変換するか、僕らとしてもまずはその作業から始めるしかなかった。もともと今年はフルアルバムをリリースする予定ではあったが、このコロナ禍によるリモート作曲活動をする中で、制作の進め方も昨年同様というわけにもいかず。しかしこの状況を逆手に、緊急事態宣言中に新たな曲がいくつも生まれた。

僕らはシティポップ、和製AORと呼ばれる、いわゆるどこか懐かしいソフトロックを基調としたリアルサウンドを基盤としている。潮風を感じ、波の音が聞こえて、夕凪を過ぎて夜を迎え、街ではネオンが光り出す。そんな当たり前のサイクルの中に潜む、誰かにとっての心地よいBGMのような音を作りたくて。去年までの予定では今年の夏ど真ん中にこのアルバムをリリースしたかったが、当然のようにスタジオに集う事も出来ない期間だったのでレコーディングは延期となり、11月のリリースへとずれ込んだ。しかし今思えば結果オーライ。アルバムのキャッチコピーにもあるように、「閉ざされた夏物語」は、ノスタルジックを感じるこの満開の秋の回想にはもってこいだ。きっと皆が過ごしたかった理想の夏を、このアルバムの空気を通して感じてもらえればいい。
最大のセールスポイントは、「CDとLPとサブスク」という点でもある。レコードマニアの方はLPで、レコードもサブスクもやらない方はCDで、ポケットの中に忍ばせるにはサブスクで。という、すべての音楽ファンが各々の形態で楽しんでもらえる。どれがよくてどれがよくないとかではなく、好きなものを好きな形で楽しめるようになったこの時代に、まさに今話題の「ハイブリッドな」リリースの形を取る事が出来たのだと思う。アナログとデジタルを両極端に置くのではなく、あくまで隣り合わせのイメージだ。

2019年はとにかくアマネトリルの名を関係者に広める為、DJイベントから大規模コンサートからライブバーまで、行ける限りの場所に顔を出した。お陰様で応援してくださる方も少しずつ増え始め、僕らが作りたい音楽が、届いてほしい人たちに届き始めるアルバムになったはずだ。リード曲の「Voyage」をはじめ、「SUNSET TRAIL」と、民放番組のタイアップを2曲もつけて頂けた事も非常に大きな意味を持つ。そしてなにより、一線で活躍するミュージシャン達と一緒に音を出して生まれたグルーヴは、打ち込み音楽では表現出来ない領域が体現された、まさにリアルサウンドなアルバムである。40年後くらいに特別豪華版で再発されている事を切に願うばかりだ。

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-2.制作を振り返って-

向かい合わせにギターを持ってセッションのように生まれた曲、お互いにベーシックなアイディアや断片を持ち寄って、アプローチを変えてレスポンスしたり、テレワークでどちらかが作ったバッキングデータにメロディを入れてメールでDAWセッションデータのやりとりをしたり。楽曲制作における過程では大きなコロナの影響は無かったわけで、むしろそのお陰で今までのアマネトリルになかった新しい曲作りの進み方も生まれて、別の一面を引き出せる事も出来た。今までは2人で向き合って作る事が多かったが、それがすべてではないし、テレワーク形式の方が各々でゆっくり考える時間を増やせるのも吉。基本的にはデモ音源と呼ばれるもので大半のアレンジやサウンドの方向性は2人だけで制作し、ミュージシャンには特筆加えることもなく曲データと譜面のみを送るのがアマネスタイル。「SUNSET TRAIL」のシングルレコーディング(2019年末)と同メンバーで今回のアルバムにも挑んだ。プロデューサーもディレクターもいない現場なので、ミュージシャンとのコミュニケーションをはじめ、レコーディングの進め方も各々自由きままな雰囲気が漂う。なにより同世代のメンバーというのは、僕にとっても心落ち着く要因の一つだ。町田のダッチママスタジオは今回初使用だったけれど、居住性も素晴らしく、ナチュラルな音の響きをストレスなく収録するにはもってこいのスタジオだった。

デモで大半のサウンドの方向を絞ってるとはいえ、細かな音のニュアンスや、使用する楽器の選定、そこはミュージシャンの個性の出しどころでもあり、作曲者の自分としても、どのようなアプローチで曲を誕生させてくれるかを間近で体感するのは、毎度新鮮であり勉強になる。特にキーボードの井上薫とはダビングを含め多くの時間を共有したので、彼の楽曲に対する理解力や音像の構築に対する熱心な姿勢には心打たれた。良いミュージシャンは、自分の音に最後まで責任を持とうとする人だ。責任を「持とうとする」という姿勢なのだ。実際に音を決めるのはエンジニアであり、責任を持つのはアーティスト本人であり会社である。つまり、その受け渡しにおける過程で、どこまで音の責任を注ぐかというのがミュージシャンの仕事。音楽の情熱と人の情熱がイコールに近づいた時、なんともいえない嬉しい感覚になる。それがグルーヴなのかもしれない。あまりに熱すぎると煙たがれるパターンも。
話はそれたが、レコーディングの度に思うのは、もう早く次の作品を作りたいという事だ。というかそもそもレコーディングが大変だという前提のもとレコーディングをしているので、改めて大変だった事なんて1つもない事に気づくのである。

-3.オリジナリティと展望-

元来のオリジナリティとは一体何であるかと考えた時に、1つの答えはない気がしている。
一定の縛りやルールのもと、先人達が奏でてきた楽曲やアレンジの模倣から始まって、削ぎ落としたものがインスパイアとなって、自分流の作品へとなる。何を発するかが楽曲の個性ではなく、何をインプットしたかが個性の元素となり、オリジナルに変わるという感覚に近い。いわゆる70-80’sのサウンド趣向の曲は特にその毛色が未だに根強く、この手の音楽ファンも「ああ、〜〜風ね!」という共通言語から生まれる会話にこそ楽しみを感じている。
僕らも単にプレイヤーとしてだけでなく、いち音楽ファンとしても楽曲制作やアレンジに勤しんでいるわけで、今後もその根本を忘れずに創作していきたい。究極の綺麗事でもあり究極の真実でもある。

昨年は特に鈴木茂氏との共演が非常に大きな出来事であった。世代やキャリアを超えて同じステージに立てるというのは、音楽、芸術活動の中において最強の武器でもある。僕たちが生まれる何年も前から親しまれていたいわば伝説的なアーティストと、時を越えて同じスピーカーから音を発する事が出来るわけだから。音楽トラベルはいつだって出来る。感染のリスクもない。賞味期限もない。むしろ、時が経つにつれて味に深みが出るような、そういう音楽作りを心がけていきたい。アマネトリルの由来にあるように、音楽を効かせたお酒のように、時間をかけてでも一口ずつじっくり味わえるような作品こそが残っていく時代になるはずだ。クルージングは必ず同じ場所に帰ってくる。いつでもそのマリーナに戻ってくる事ができる。大航海ではく、「ちょっとそこまで」くらいのノリでいいのだと思う。ふと深呼吸できるような、決して張り詰めることない余裕があってこそ、風通しの良い心地よさが流れる。

自分たち立ち位置やパフォーマンスを明確にしていく中で、茂さんのような偉大なミュージシャン達とのコラボレーションの幅も広げ、その上でこれからのアマネトリルとしての展望は、「先の時代へ残っていく音楽を作る」という事なのではないだろうか。

2020.11.03
アマネトリル Vo/Gt  Masahiro

アマネトリル OFFICIAL GOODS
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