令和元年予備試験再現答案 民事実務基礎

令和元年の予備試験の科目の中で、一番無難に解答できた科目。特に問題はなかったはず(設問2(1)で「抗弁となる理由」を記載して無益的に紙幅を使った愚かさは別にして)。しかし、順位ランクがB。これは、おそらく刑事実務基礎が足を引っ張ったのかも?

第1 設問1
1 小問(1)
 本件で選択すべき訴訟物は,保証契約に基づく保証債務履行請求権1個である。
2 小問(2)
 被告Yは,原告Xに対し,金200万円及び平成30年6月16日から履行済みまで年1割の割合による金員を支払え。
3 小問(3)
(1)  ①には,「(あ)のBのAに対する200万円の支払債務を保証する旨合意した。」との事実が入る。
(2)  ②は,「合意」が入る。また,③には,「書面」が入る。
(3)  ④には,「9日,Xは,Aから(あ)の本件貸付に係る200万円の債権及び遅延損害に係る債務不履行に基づく損害賠償請求権を200万円で買い受けた。」との事実が入る。
4 小問(4)
 Pは,まず取得した確定判決にかかる債務名義(民事執行法22条1号)に基づき,執行文付与の申立を行い(同法26条1項),その付与を受ける手続を経る必要がある。なお,民事執行の申立を行うに先立ち,費用の予納手続を経る必要がある(同法14条1項)。
 その上で,本件で,Yに対する執行の対象として,Y所有の甲土地がある。そこでXは,不動産執行,具体的には強制競売にかかる差押えの申立てを行うことが考えられる(同法43条1項,45条1項,2条)。かかる申立ては,甲土地の所在地を管轄する執行裁判所に行う(同法44条1項,3条)。なお,Xは,Yによる価格減少行為等を防止すべく,保全処分の申立てを行っておくことも考えられる(同法55条1項,2項)。
第2  設問2
1 小問(1)
(1) 抗弁として記載する事実
ア  Aは,Bとの間で,本件貸付の際,本件貸付にかかるAのBに対する200万円の貸付債権をAが他の者に譲渡することを禁止する旨合意した。
イ  Xは,Aから本件貸付債権を譲受けた当時,アの合意があることを知っていた。
(2) 抗弁となる理由
 債権には,原則として譲渡性が認められる(民法466条1項本文)。もっとも,債務者の便宜を尊重し,これを保護する観点から,債務者が「反対の意思を表示した場合」には,譲渡性が否定される(同2項本文)。他方で,反対の意思表示にかかる合意について「第三者」たる債権譲受人が「善意」である場合は,譲渡禁止の合意を対抗できない(同但書)。
 かかる法の趣旨及び債権の譲渡性にかかる規定の構造からすると,債務者が請求原因に基づく法律効果を排斥するべく自ら主張を行うべきであるといえる。また,イは,債権譲受人は債権者及び債務者の間の合意に関知しないのが通常であるから,むしろ債務者が,債権譲受人が譲渡禁止を知っていた旨主張立証することで,譲渡禁止特約を主張できる地位を裏付けるべきであると考えられる。
2 小問(2)
 (イ)には,「Bは,乙絵画を所有していた。」との事実が入る。
3 小問(3)
(1)  「Bが,Xに対し,本件絵画を引渡した。」事実は,これを主張する必要がある。
(2)  代物弁済(482条)そのものは,「本来の債務に代えて他の給付」をすることについて「承諾を得」て合意することにより成立する諾成契約であると考えられる。そのため,所有権取得原因としては,意思主義(176条)の見地から,かかる内容の合意によって基礎づけられる。
 しかし,本件では,代物弁済を債務消滅原因として主張するところ,法は合意に基づき目的物が「給付」されることをもって初めて債務消滅原因とする趣旨である。
 したがって,「給付」は,目的物の終局的な移転をいい,これを基礎づける事実を主張する必要がある。そこで,乙絵画という動産を目的物とする本件では,引渡し(178条)の事実を主張する必要がある。
第3  設問3
1  Yの言い分の内容は,これを本件答弁書において抗弁として主張すべきではない。
2  Yの言い分は,要するに,Aが連帯保証人であるYに対してXに対する本件貸付にかかる200万円の債権譲渡について通知を行っておらず,かつYがXを債権者として承諾しない限り,Yへの債務者対抗要件具備を欠くとの権利主張をするものである(467条1項)。そこで,保証人たるYが「債務者」といえるかにつき,かかる規定の解釈が問題となる。
この点について,「債務者」という文言上,これは主債務者をいうものと解される。そして,467条1項は債務者の認識を通じて債権帰属主体の公示を図る趣旨であるが,(連帯)保証人は別個の保証債務を負うのであり,保証債務者に対する通知が別個に規定されていない以上,それは主債務に対する付従性に照らし主債務に対する通知で足りる趣旨であると解される。
したがって,467条1項の「債務者」に保証人は含まれない。
3  よって,Yの言い分は,主張自体失当であるから,これを主張すべきでない。
第4  設問4
1 Xの主張
(1)  AB間の本件貸付にかかる金銭消費貸借契約は,平成29年9月1日にされたことについて、XY間で争いがない。そして,Aは,Yの保証意思を確認すべく,平成29年8月下旬,Yの自宅に電話をかけた。これは、平成29年9月1日がBに対する本件貸付日時であることからも,合わせてYとの保証契約締結を行うべく,同年8月下旬に保証意思の確認をした事実を十分に推認させる。
(2)  Aは,Yの自宅に電話をかけた際,Y本人とは話をしなかったが,Yの母親にAのBに対する200万円の債務の保証の件で話したところ,『Yからそのような話を聞いている。』との応答を受けた。そうすると,本件は,Yの母親が主債務者であったわけではないことも考慮すると,子が200万円という,個人としては決して少額でない債務の連帯保証を行ったか否かについて,母親があえて嘘をつくことは考えられない。そのため,かかる母親の応答内容は,信用性が高い。
(3)  したがって,かかる事実から,Yの保証意思を認めることができ,ひいては保証契約締結の事実が推認される。
2 Yの主張に対する反論
(1)  Yは,本件借用証書の成立の真正を否認し,Bによる印章の盗用を主張する。しかし,かかる事実を認めるには,合理的な疑いが残る。
(2)  Yは,Bが印鑑等を寝室にあるタンスの一番上の引き出しにしまっていたことを認識しており,平成29年8月中旬の2日間Bが滞在しにきた際に,Yの不在中,Bが印鑑を探し出し,これを盗用したという。
 確かに,Bは,Yのいとこであり,過去には,Yの自宅に遊びに来ていたことから,印鑑等の所在を知る機会があったといえる。
 しかし,Bは,大学進学と同時に他県に引っ越しており,Y宅への行き来が少なくなっている。そして,YはBと寝室で遊んでいたという主張はないところ,単にBが家に遊びに来ていたというだけで自宅にあるタンスの一番上の引き出しにある印鑑の存在を把握することが現実にできたとは必ずしも言えず,しかもたった2日間のうちにBが盗み出したというには,飛躍があるというべきである。
(3)  したがって,Bが印鑑を盗み出したというYの供述には,およそ信用性がなく,かかる主張は認められないため,印影が顕出されかつそれがYの印章と一致する以上,Yが自己の意思で押印したことが事実上推定され,その結果「本人の押印」があることが認められ,本件借用証書の成立の真正が推定される(民事訴訟法228条4項:法定証拠法則)。
3  よって,本件借用証書は意思表示をこれによってした書面であると考えられ,処分証書にあたり,かつ性質上類型的に信用性が高く,実質的証拠力も認められ,保証契約締結の事実は十分に認められる。
                            以上

【順位ランク】B(民事実務基礎の方は、たぶんA)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?