令和元年予備試験再現答案 民法

令和元年の民法は、設問1が正直得体の知れない部分があり、気味が悪かった科目でした。ただ、要件事実的に主張や事実関係を整理していったことで、論点落ちや法定地上権の話から逸れずに書けました。

設問2では時効取得と177条の話が拾えれば、あとは三段論法で丁寧に論証すれば勝てることは分かりました。であるからこそ、設問1の解答筋を間違えたくないという思考になりました。

法定地上権が浮かんだのは、知識面からの合理的直感が働いたことが大きかったように感じます。

ただし、その分民法で時間を15分ロスしたことは、後に響きました。特に民訴(泣)

第1 設問1について
1  Dは,Cに対し,所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権に基づき本件土地の明渡しを請求する。
2  まず,Dの本件土地の所有権が認められる必要があるため,これを検討する。
(1)  Dは,Bから本件土地に抵当権の設定を受け,その実行後自ら競落人となり本件土地を取得している。
 もっとも,そもそも,AがCに対して本件土地を贈与(民法(以下略す)549条)している。そして,Bは,Aが平成28年3月15日に遺言なくして死亡し,唯一の相続人として同人を単独で相続し,その地位を包括承継している(887条1項,896条本文)。そうすると,Bは,Cとの関係で,本件土地の所有権を有していないのであるから,Dのために抵当権を設定する権限を有しないと考えられる。
 したがって,Dの抵当権は,無効なものとして認められないことになりそうである。
(2)  他方,Cは,本件土地について所有権移転登記を経由していなかった。そして,Dは,平成28年6月1日,同年4月1日付で相続を原因とするB名義の所有権移転登記を経た状態で,Bとの間で抵当権設定契約を締結し,抵当権者となり,登記を経由した。そうすると,Dは,Cとの関係で,「第三者」(177条)にあたれば,Cが本件土地について所有権がないことを主張することができる。そこで,Dが「第三者」にあたるかが問題となる。
ア  177条の趣旨は,不動産取引において,物権の取得,喪失等の権利変動による法律関係を画一的に処理し,公示を通じて不動産取引の安全を図ることにある。そうすると,ここにいう「第三者」は,当事者及びその包括承継人以外の者であって,かつ物権の取得,あるいは喪失等の権利変動を主張する客観的利益がある(法的地位を有する)者に限定され,いわゆる対抗関係が生じる場合が前提となると解される。
 そして,不動産取引の安全保護の観点から,自由競争の取引秩序の下では単なる悪意者であれば保護される一方,悪意であるのみならず取引を阻害するような背信性がある場合には,もはや登記の欠缺を主張し権利を争うことは信義則上(1条2項)許されるべきでない。そのため,このような背信的悪意者は,「正当な」利益を有するといえず,「第三者」にあたらない。
イ  本件で,Dは,Bから本件土地について抵当権の設定を受けている。抵当権は,目的不動産の担保価値を把握してその交換価値の実現により優先弁済を受ける権利である(369条)。ゆえに,抵当権者Dは,目的物の潜在的な処分権限を含んでいるため,物に対する全面的排他的支配権たる所有権を有する者との間で,かかる権利を争う対抗関係にあるといえ,権利を主張する客観的利益を有する。
 そして,Dは,抵当権設定を受けた際,Cが本件土地の贈与を受けていた事実を知らなかったことから善意であり,Cの登記の欠缺を主張する「正当な」利益を有する。
ウ  よって,Dは「第三者」(177条)にあたるため,自己が抵当権設定登記を経ている以上,Cがとの関係で所有権を主張することができない。
(3)  そうすると,Dは,Cとの関係で抵当権の設定を争うことができず,その後抵当権の実行によりDが競落人となったのであるから,本件土地の所有権を取得し,かつその登記がされている以上,Cに所有権を対抗できる。
(4)  したがって,Dの本件土地の所有権は認められる。
3  もっとも,Cに本件土地の占有権原が認められれば,Dの請求は認められない。
(1)  ここで,Dの抵当権設定当時において,本件土地は贈与を受けたCの所有であり,かつ本件土地上には同じくC所有の本件建物が存在していた。そこで,Cは,本件土地について法定地上権(388条)の成立に基づき,占有権原を主張すると考えられる。
(2)  そこで検討するに,確かに,Dの抵当権設定当時,本件土地上には本件建物が存在していた。そして,本件建物は,Cが平成20年8月21日に建築し,同月31日までに保存登記が経由されている。
 もっとも,本件土地について,Cは,Dが抵当権の設定を受け,かつその登記が経由された時点でDに対して所有権を対抗できなくなっている。そこで,本件土地及び建物が「同一の所有者に属する」といえるかが問題となる。
ア  法定地上権の趣旨は,抵当地上の建物収去に伴う社会経済上の損失防止及び建物所有者の保護を図ることにある。他方,抵当権者の把握した担保価値にかかる予測可能性の確保,土地競落人の不測の損害防止を考慮し,成立を限定する必要がある。
 そうすると,法は土地の所有について「対抗力」が絶対的に必須であると規定しているとは解されない上,対抗力を有しない土地所有者が土地上に建物を所有する場合,土地の抵当権者が当該建物の存在を前提に担保価値を把握した場合には,その予測可能性を害しない。また,抵当権者自身が競落人となった場合は,競落人の不測の損害ともならない。したがって,土地所有者が対抗力を有しない場合でも,抵当権者が建物の権利を前提に担保価値を把握し,抵当権者が競落人となったなどの事情があれば,土地及び建物が同一の所有者に属するというに妨げず,法定地上権の成立を認めることができると解される。
イ  本件でも,CはDとの関係で本件土地の所有権の対抗力を有しないものの,Dは対抗力のある借地権の負担があるものとして担保価値を把握しており,かつD自身が競落人として本件土地を取得している。
(3)  ゆえに,本件の事情の下では,Cが抵当権設定時に本件土地及び建物について「同一の所有に属する」として法定地上権の成立が認められる。
4  以上より,Cの占有権原が認められるため,Dの請求は認められない。
第2  設問2について
1  Cは,Dに対し,所有権に基づき抵当権設定登記抹消登記を請求する。そこで,Cの本件土地の所有権が認められるかを検討する。
2  Cは,本件土地の所有権取得原因として,10年の占有継続による取得時効を主張することが考えられる(162条2項)。
(1)  Cは,平成20年4月1日に,Aから本件土地の贈与を受け,同日その引渡しを受け,その後同年8月21日までに本件土地上の本件建物を建てて居住を開始している。そして,平成30年11月1日時点での占有が認められる。そのため,Cが本件土地の引渡しを受けた時点あるいは本件建物を建築し居住を開始した時点のいずれを占有開始時点と捉えるか否かは別論として,かかる期間中占有が否定されるべき事情もないから,10年の占有継続の事実が認められると解される(186条2項参照)。
(2)  Cは,平成20年4月1日にAから本件土地の贈与を受け,同日その引渡しを受けていることから,自己のためする意思をもって占有するものであるということができ,所有の意思が認められる(なお,186条1項参照)。
(3)  そして,本件土地は占有開始時Cの所有であったが,時効制度の趣旨からしてそれが要件充足性を否定するものとは解されない。また,Cは,占有開始時において平穏かつ公然と,権原がないことを知らず善意であったことが推定されるところ(186条1項),なおこれを否定すべき事情もない。占有開始時に自己の所有を疑うべき事情もなく,無過失であることが認められる。
(4)  したがって,本件土地について,Cによる時効取得が認められる(162条2項)。
3  Cは,本件土地について所有権移転登記を経由していない点,所有権の主張が認められないように思える。しかし,Dは,平成28年6月1日に抵当権の設定を受けているところ,いわゆる時効完成前の第三者であるから,Cとの関係では対抗関係に立たない。そのため,Cは,Dとの関係で登記なくして所有権を主張できる。
 なお,かかる結論は,抵当権設定時に所有権を対抗できないCを保護する点不当であるように思えるが,Cは,別に法が制度として定める永続した事実関係に対する法的承認という時効制度の趣旨から保護されるのであって,贈与にかかる所有権の対抗関係とは別の法的根拠から保護されるのであるから,不当ではない。
4  以上より,CのDに対する所有権に基づく抵当権抹消登記手続請求は認められる。
                            以上

【順位ランク】A

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