令和元年予備試験再現答案 刑事実務基礎

設問1から3までは、無難に書けていたはず。しかし、設問4と5で、筋の悪いことを書いた気がします。

設問4は、直後に書いた再現答案でさえも、ざっくりこんな流れで書いたという程度のものしか記憶にありません。設問5は、321条2項ではなく、321条1項1号の話です。今思えば、自分でも裁面調書と書いているのに、愚の骨頂だと思います。

当時は迷ってしまいましたが、インプットの際に、321条2項前段の文言と同条1項1号の文言を注意深く読んで勉強していなかったことが原因だと思います。

第1 設問1
1  「罪証を隠滅するに疑うに足りる相当な理由」の有無は,隠滅の対象,態様,客観的可能性ないし実効性,主観的可能性の有無を総合的に考慮して判断される。
2  本件で,Aについてこれが認められたのは,次のような思考過程である。
(1)  隠滅の対象について,⑧のAの警察官面前の弁解録取書によれば,Aは,約1年前に家を出てから,交際相手や友人宅を転々としているという。このことから,Aには,Aの居候を許諾するような,親密な交際相手及び友人がいることが認められる。そのため,交際相手や友人は,Aに近い人物として,重要な人証であるといえる。
(2)  隠滅の態様について,交際相手はAとの感情的ないしは生活上の利害関係が密接であるため,Aが口裏合わせをしようと説得すれば,応じる可能性が高いと考えられる。また,友人も,Aの居候を認めるほど,親密な間柄であると考えられ,Aからの口裏合わせに応じる可能性が高い。
(3)  隠滅の客観的可能性については,Aは犯行を否認しており,犯人性を争っているところ,交際相手や友人による口裏合わせを通じて,アリバイを作ることができる。また,その実効性としても,交際相手あるいは友人宅を転々としていた点,Aと一緒にいた事実を裏付ける形で,明確なアリバイを主張することができる。
(4)  そして,Aは,犯行を否認している上,執行猶予中の身であり有罪となるとこれが取消され実刑となるなど不利益が大きく,交際相手の存在から,保身のため上記のような隠滅を図る動機が多分にある。
3  以上のような,隠滅の対象,態様,客観的可能性及び実効性,主観的可能性にかかる諸般の事情を総合的に判断し,交際相手や友人への働きかけを通じて「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断される。
第2  設問2
1  Aについて
(1)  ③のWの供述録取書は,Aとの関係では,本件被疑事実記載の暴行に及んだのがAであることの直接証拠にはならない。
(2)  まず,Wは,犯行日時である2月1日午前1時頃,犯行現場となった路上において,男が2人組の男たちと向かい合っている状況を見た。そして,2人組男のうち,1人は,黒色のキャップを被り,両腕にアルファベットの描かれた赤色のジャンパーを着ていた。その人物は,持っていた傘の先端を相手の男に向けて突き出し,相手の男の腹部を2回突いたという。かかる供述内容から,黒色のキャップを被り,赤色のジャンパーを着ていた男が,相手の男Vに対し,傘で腹部を2回突くという暴行を行った人物であることを裏付ける証拠となる。
 もっとも,Wは,黒色のキャップの男の顔がよく見えなかったと言っているところ,警察官が20人の男の写真の中から面通しを行った際も,黒色のキャップを被った男を指摘しなかった。そのため,Wの供述録取書の内容から直接に,上記のような暴行を行った黒色のキャップを被った男がAであることを裏付けることはできない。
(3)  他方,⑥の捜索差押調書から,A方において,傘,黒色キャップ,両腕にアルファベットが描かれた赤色のジャンパーが発見されており,Aがこれらを所持していた事実が認められることから,Wの供述する上記の黒色のキャップを被った男との特徴が一致することから,Aが黒色のキャップを被った男であることが推認される。
(4)  したがって,Aとの関係では,③は間接証拠となる。
2  Bについて
(1)  Bとの関係では,③は,直接証拠となる。
(2)  Wが,上記日時の上記場所において目撃したもう1人の人物として,茶髪で黒色のダウンジャケットを着ていた人物を挙げている。その人物は,相手の男であるVに対し,黒色のキャップを被った男と一緒に,腹部や脇腹等上半身を多数回蹴るという暴行を加えたという。そのため,かかる茶髪の男は,Vに対し暴行を加えた人物であることが認められる。
 そして,Wは,茶髪の男の顔を「近くにあった街灯の明かりでよく見えたと述べており,その顔を認識したものといえる。さらに,20枚の男の写真を使った面通しにおいて,2番の写真の男が「茶髪の男」に間違いないと述べ,これがBであった。
(3)  したがって,③は,Bとの関係では,上記のようなVの腹部等を蹴る暴行を加えた一人である茶髪の男と,Bという人物が一致することで,暴行に及んだことを直接裏付ける直接証拠となる。
第3  設問3
1  傘でその腹部を2回突いた事実について
(1)  弁護人としては,暴行には故意がなかった旨主張する(刑法38条1項本文)。
(2)  暴行の故意は,人に対する直接の有形力の行使に対する認識予見をいう。㋑の主張によれば,Aが当時犯行現場付近を歩いていたところ,いきなり後ろから肩をつかまれたので,振り返った際に,傘の先端が偶然Bの腹部に1回当ったにすぎないという。かかる事実から,Aは,条件反射的に体を反転させた結果,傘がVに当ったにすぎないから,人に対する直接の有形力行使の認識予見を欠いていたということができる。
(3)  なお,もう1回については,事実誤認の主張をすることが考えられる。
2  足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行を加えた事実について
(1)  弁護人としては,かかる暴行について正当防衛が成立し(36条1項),ないし過剰防衛(同2項)による刑の任意的減免を主張する。
(2)  Aが上記のような暴行を加える前提として,後ろを振り返った際に傘が偶然当たったことに対して,VがAに対し拳骨で殴り掛かってくるという「急迫不正の侵害」がされたという経緯があった。Aは,これを単に避けようと,足で蹴るなど反撃したが,なおもVが『謝れよ。』と言いながら肩を掴むなど侵害状態が継続していたため,上記のような暴行に出たという。かかる事実から,正当防衛状況が存在し,かつ手段として相当であったこと,仮に相当性がないとしても,量的に過剰となったにすぎないとして過剰防衛が成立するということができる。
第4  設問4
1  弁護士の真実義務に反するかという問題(規程5条)。
2  主観的真実義務とその限界の判断枠組み及びそのあてはめ
3  したがって,本件では,弁護人が無罪主張したことは,規程5条に反しないと考えられる。
第5  設問5
1  検察官が取調べ請求しようとしたのは,公判廷での公判期日における被告人質問での,「Aと歩いていたところ,・・・本当のことを話した。」というBの供述にかかる裁面調書が考えられる。弁護人に不同意とされた場合は,刑事訴訟法321条2項の書面として取調べ請求をすることが考えられる。
2  また,⑫の弁解録取書について不同意とされているところ,新たに321条1項2号を根拠として証拠調べ請求をすることが考えられる。
                            以上
【順位ランク】B(民事実務基礎は、たぶんA)

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