令和元年予備試験再現答案 商法

令和元年の商法も、民法と同様、なんだかつかみどころがなく、気味が悪かった印象でした。それゆえ、答案構成に時間がかかった記憶があります。

まずは、設問1。「本件取締役会決議の効力を争う」Dの「主張とその当否」ということで、取締役会決議について、何らかの瑕疵を考えていきます。

取締役会決議の招集通知に上程されていない事項を決議していないという点は、瑣末的に思われたので、もっと分かりやすく、かつ典型的なものと思われるものを探す。そうすると、Dの立場から考えたら、自分を排除して行われた決議の無効を主張したということが見えてきました。

それが、①取締役解任に関する株主総会招集に関する議案と解任対象取締役の特別利害関係人該当性と、②定款所定の員数を割る結果となる解任議案の提出が取締役会決議無効事由となるか否かというものです。解説は、別途記事にします。

設問2が、とても厄介でした。最初定足数の話をしようかと思ったが、飛ばしてしまいました。しかし、そもそも行使された議決権が60個で、甲社の発行済株式総数200株からすれば半分未満で、総会の定足数がそもそも問題となるはず(会社法341条、309条1項参照)。最終的に、答案のランクはBでしたが、その原因はこの1点が大きかったと思います。

なぜなら、この論点を落とすと、会社法108条本文の話(権利行使者の指定に関する論点)がごっそり抜け落ちしてしまうからです。今思えば、なぜここを落としたか、当時の自分に問い詰めたいところ。

株式の譲渡に関する130条1項の話は、応用的な論点かと。吸収分割に伴う株式の譲渡が、組織再編行為の法的性質と関連して両説あるらしいですが、ここでも考えすぎてしまいました。組織再編行為の法的性質は、包括承継であると考えるのが一般的らしいです。そして、130条1項の「譲渡」には、包括承継も含まれるのが一般的な考え方です。ただ、もう一歩深く立ち入ってしまったのは、H29の司法試験が頭にあったからだと思います。いずれにしても、深読みは本当によくないと痛感。

なお、最後の名義書換の話は、適当になってしまった印象。

第1 設問1
1  本件取締役会決議において,取締役であるDが,議決に参加させられないまま取締役からの解任を目的とする株主総会決議の招集が決議されている。そこで,Dを排除して行われた本件取締役会決議が,会議体の構成員を排除して行われたものとして,会議体の一般原則に照らし無効であると主張することが考えられる。
(1)  Dが排除された根拠は,「特別の利害関係を有する者」(会社法(以下略す)369条2項)にあたるとされたことに基づくと考えられる。そこで,Dの特別利害関係人の該当性が問題となる。
(2)  法が取締役会の決議において,特別利害関係人たる取締役を議決から排除した趣旨は,取締役会設置会社における会社の業務執行の意思決定が会社の利益を最大化するものとなるよう,個々の取締役が忠実義務(355条)に基づき私心を払った議決権を行使するよう担保する点にある。そうすると,取締役会の決議にあたり排除されるべきは,取締役会が株主総会に比して少数の会議体であることからも,かかる忠実義務に基づく議決権の行使を期待できないおそれのある地位にある者をいうと解される。そのため,特別利害関係人とは,取締役会決議の議案との関係で,忠実義務に基づく議決権行使を期待できない類型的危険のある地位にある者をいうと解される。
(3)  ここで,判例は,このような観点から,代表取締役の解職決議において(362条2項3号参照),解職の対象となる当該代表取締役は自己保身のために忠実義務に従った議決権行使を期待できない地位にあるといえるため,特別利害関係人にあたるとした。
 他方,本件取締役会決議は,代表取締役の解職決議ではなく,取締役の解任を内容とする臨時取締役会の招集を内容とする議案とする事案である。取締役の解任は,もとより株主総会における決議事項であって(339条1項参照),取締役会での決議事項ではない。そのため,取締役の解任議案の決定は,それ自体,取締役会の決議での意思決定をもって完結するものではない。すなわち,取締役の解任議案については,個々の取締役の議決権行使が,それ自体,対象となる取締役の解任の是非そのものを決定するものではない。そうすると,解任対象となる取締役の議決権行使が,会社の利益に反する結果となるかどうかは別に株主総会の意思決定に委ねられる以上,法の趣旨に反するとまではいえない。
 そして,特に本件のような閉鎖会社,特に従業員出身の監査役Fを除き,BないしEが全員家族であるという同族会社においては,会社の経営権を巡り,真に会社の経営上利益であるかどうかという観点を外れて,感情的な争いが生じることは往々にしてある。そのため,このような場面においては,解任対象となる取締役の議決権行使が,忠実義務に従って行われないおそれがあるとは必ずしも言えない。
 したがって,判例の射程は及ばないと考えられる。そして,Dは,本件で,丙社において全株式を有し代表取締役を務めるところ,乙社から甲社株式を譲受けたことからCとの軋轢が生じ,本件取締役会決議において解任対象とされるに至った。かかる経緯からすれば,CがDを個人的に警戒し,経営権維持のためにDを取締役から排除することを画策した可能性があるといえるため,Dによる議決権行使が,甲社の利益のためであることを期待できないものとはいえない。
(4)  以上より,Dは特別の利害関係を有する者にあたらず,Dは議決に参加できる取締役であるから,Dを排除したことは369条1項に反し,Dの主張は正当である。
2  また,甲社定款によれば,取締役の員数は3名とされているところ,Dの解任を内容とする議案を提出している反面,その代わりに選任する議案がない。そこで,このような定款で定められた事項に反する役員の選解任にかかる議案を決議する本件取締役会決議は,内容に定款違反があるとして,無効事由とならないか。
(1)  取締役会の決議事項は,法が特に株主総会での決議事項としたものを除いて,基本的に制限はない。
 もっとも,会社の定款自治の原則からすれば,会社内部の意思決定においても,基本的には定款に反する事項を決議することは許されないと考えられる。このことは,法が,定款変更において株主総会の決議事項とし(466条),特別決議を要求しより厳格な多数決を要求していることからも,裏付けられると考えられる。そうすると,取締役会設置会社において,取締役会が定款に反する事項を決議することは,許されないと解される。そうすると,かかる場合,取締役会決議は,その内容に定款違反があるとして,会社組織法秩序全体の趣旨から,無効事由となると解される。
(2)  本件取締役会決議では,取締役であるDを解任することを目的とする株主総会の招集を議案とする決議が行われている。そうすると,取締役はB及びCのみとなり,員数が定款で定められた3名を割り込むことになりそうである。
 しかし,前記の通り,あくまで取締役の解任議案について,本件取締役会決議が最終的な意思決定の内容となるのではなく,議案の「提出」を内容とする議決にすぎない。そのため,それ自体が,定款違反に該当する結果となるものではない。
(3)  したがって,本件取締役会決議は,定款違反の決議をするものとはいえない。
3  よって,取締役の員数割れを内容とする決議である点は,無効事由とはならない。
第2  設問2
1  Dは,本件株主総会決議の取消事由として,丙社の甲社株式にかかる議決権行使を認めなかったことが法308条1項に反し,決議の方法に法令違反がある旨主張することが考えられる(831条1項1号)。かかる主張は認められるか。
2  株式の譲渡を受けている。もっとも,名義書き換えをしていない(130条1項)。しかし,本件で,丙社は本件会社分割という組織行為に基づいて甲社株式を取得している点,「株式の譲渡」にあたらず名義書換を要せず,甲社が丙社を株主として扱わなかったことが違法となるかが問題となる。
(1)  130条1項の趣旨は,会社が株主との法律関係を画一的かつ明確に処理する事務処理の便宜を認め,会社は株主名簿に権利変動が反映されている株主を株主として扱えば足りるとすることにある。そのため,ここにいう譲渡は,株式にかかる権利関係が移転した場合,すなわち特定承継の場面を前提としていると解される。他方で,非公開会社の場合には,株主の個性に着目しその変動を予定していないから,特定承継のみならず,相続等一般承継が生じた場合も含めていると解される。
(2)  本件で,丙社は,本件会社分割により,甲社株式を取得している。会社分割,事業にかかる権利義務を包括的に承継するものである。そして,甲社は,前記の通り,取締役会設置会社である。
(3)  そうすると,本件では,丙社が本件会社分割より甲社株式を取得したことについて,名義書換えを要する「譲渡」にあたると解される(130条1項)。
3  そうだとしても,Cが本件会社分割に基づく丙社の甲社株式取得にかかる名義書換を認めなかったことが不当拒絶にあたらないかが問題となるも,本件では否定される。
 なぜなら,甲社は株主個々の個性に着目した会社であるため,株主として好ましくない者を構成員として認めるか否かについて,取締役会での承認により決定することが予定されているから,必ずしも譲渡を受けた者からの請求があれば必ず応じなければならないものではないからである。
4  したがって,本件ではCの名義書き換え拒絶は不当拒絶にあたらず,よって丙社を株主として扱わなかったことは,308条1項に反せず取消事由にかかる主張は認められない。
                           以上

【順位ランク】B

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