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AIがベテラン生産計画担当者を超えるために必要だったこと

こんにちは。スカイディスクSaaS事業部長の畑村です。

Web開発チームマネージャーの徳丸が、これからプロダクト開発開始するぞ!のときで最適ワークスの開発経緯を述べていますが、今回はこれに絡み、開発初期にお客様とともに取り組んだトライアンドエラーについてお話しします。

最適ワークスのAIは何をしているのか?

最適ワークスはある製品をいつまでに何個作るのかという製造指示をあたえれば、製造に関わるルール(制約条件と呼ばれます)を遵守した上で一番効率のよい生産計画をAIが考え提案するサービスです。
(より詳しい内容はAIエンジン開発チームのマネージャーの近藤の記事をご確認ください)

製品の製造には時に数十もの工程が必要になり、各工程を処理できる設備、設備や工程を扱えるスタッフの出勤状況、同時に処理すべきオーダーなど、生産計画を立案するためには膨大な組み合わせの可能性を考慮する必要があります。

多くのお客様はエクセルなどを使いながら丸一日、場合によっては毎日多くの時間を計画立案や調整に費やしていますが、最適ワークスのAIは人間では膨大な時間がかかる組み合わせの可能性を瞬時に評価し、与えられた条件下で最も効率のよい生産計画を提案することができます

スマホの地図アプリではAIが渋滞や通行止めなどの様々な条件下で最適なルートを提案しますが、イメージとしてはそれに近いかもしれません。

全く使えないと評価された生産計画

AIを用いることで、もっとも効率のよい生産計画を提案することができる想定で開発を進めていった最適ワークスですが、開発当初、お客様の提示されるまま製造ルール等の必要な情報を登録して算出した生産計画に対し、プロトタイプから現在に至るまでお付き合いいただいている、とても大事なお客様から最初にいただいた評価は辛辣なものでした。

【お客様からの辛辣な評価(当初)】
・ベテランの担当者が作成する計画に比べて生産できる量が少ない
・スタッフへのタスクの割付けが歯抜けになっていて全く効率的に見えないし実際に使えない
・担当者ならこんな計画の組み方はしない

地図アプリの例で言えば、車なのにありえない遠回り。それでいて人しか通れないような細い道を指示され、とてもじゃないけどこんな提案は受け入れられないといったところでしょうか。

高すぎた目標設定

当時お客様と弊社で目標としていたのは「AIでしか立案できないより効率的で精度の高い生産計画の自動立案を1年以内に実現し運用する」です。

お客様からすれば、せっかくAIに投資するからには人間以上の成果を期待したいとなるのは当然で、弊社もお客様のご期待に応え実績を上げ、さらなるビジネス拡大につなげるぞ!という意気込みで目標に取り組みました。

その結果、従来の計画立案手法を改善するために開発当初から細かい仕様を盛り込むことになったのですが、いまから振り返ればこれが当初予定を超えて1年ものプロジェクト延長につながる悪手になりました。(そんな状況にも関わらず今もプロジェクトを継続いただいているお客様には感謝しかありません)

【後に最悪と分かった仕様の追加】
・従来は実施していなかった、スタッフ個別の設備や工程の対応可否等のスキルを細かく設定し、計画作成時に考慮する
・従来は人間が考慮できる要素の限界などから余裕をもって数時間単位のブロックで組んでいた生産計画を、1時間単位に細分化する

屈辱の目標下方修正

前述のように理想とする高い目標に向かって開発を進めた結果、いただいた評価は最悪になり、試行錯誤の日々が続くことになります。

お客様からいただく設定値等の指示が間違っていたのか?最適ワークスのアルゴリズムに問題があったのか?

ときにはエンジニアとカスタマーサクセスがお客様と2日がかりで双方の認識相違がないかを洗い出したり。ときにはAIがアウトプットするタスクの割付けを一つづつ再生して生産計画担当者からフィードバックをもらい違いを考察したり。

補足になりますが、開発当初は弊社社員が直接お話を伺って条件を設定していましたが、現在は「工程デザイナー」というツールを開発し、製造ルールの設定はお客様ご自身で実施いただけるようになっています。

お客様にも大変な労力を割いていただき問題を炙り出そうとしてみたのですが、根本的な解決にすぐに至ることはできませんでした。

そこで不本意ではあるものの、一旦お客様とも相談の上、目標のレベルを下げ、従来と同じ条件でAIが生産計画を立案するという方針に切り替えることになりました。(このときのお客様の心境を想像すると今でも胸が痛みます)

まず取り組んだのは、スタッフのスキルを考慮しないことです。従来の計画は出社予定のスタッフの人数だけを考慮し、すべてのスタッフがすべての設備や工程に対応できる想定で立案されていました。

当然ですが、より条件が緩くなるために、生産量の不足やスタッフのタスクが埋まらないといった問題は一定改善することになったのですが、お客様の顔は曇ったままです。

AIがベテラン生産計画担当者を超えた

深ぼって理由を聞いて明らかになったのは、従来の余裕のある生産計画で実施できていた作業が、最適ワークスの忙しすぎる生産計画では実現できない、実際に現場では使えない生産計画に違和感があったというものでした。

【余裕があった従来の生産計画の運用例】
・工程Aは本当は5時間で終わるが、計画上は8時間で組まれていた
・工程Aを担当するスタッフは計画上8時間ずっと工程Aを実行することになっているが、実際は工程A終了後に後片付けと次の工程の準備を実行していた
※上記を最適ワークスで計画するには5時間の本工程と後段取りで3時間の設定が必要となります。緻密な計画を組もうとするなら緻密なルールの設定がセットで必要となり、特に初期段階では避ける方がベターです

そこでお客様と相談し、今よりも生産量が減り、スタッフのタスクも埋まりづらくなる可能性は高いのを承知の上で、従来の余裕のあるスケジュールで生産計画を立案するように最適ワークスの設定を変更したところ、明らかにこれまでとは異なるフィードバックをいただけるようになり、ここからプロジェクトが好転することになります。

これも今となっては当たり前の話ですが、お客様にとっては従来の生産計画と同じ基準で最適ワークスの生産計画を比較することができるようになったため、なにが以前と違うのかをよりイメージしやすくなり、結果として問題の可視化〜FIXのサイクルが加速。改善を重ね、違和感がなく、かつ従来を上回る生産計画を立案することができるようになりました。

前述のケースでは、まずスタッフのスキルを考慮しない従来の生産計画立案手法に変更したことににより、最適ワークスが立案する忙し過ぎる生産計画への違和感(=問題)が可視化されました。

そこから従来の計画には後片付けの時間等が含まれていたという関係者しか知り得ない暗黙知が可視化され弊社スタッフも理解がすすみ、さらにこの問題を解決するために生産計画の立案方法を修正。お客様と弊社の議論が絡み合うようになり、一気に最適ワークスの立案する生産計画のクオリティを改善する結果につながりました。

ローマは一日にして成らず

AIエンジン開発チームマネージャーの近藤が最適ワークスで暗黙知を形式知へで述べていますが、生産計画作成担当者は本当に複雑なことを頭の中で展開しながら計画を立案されています。

最適ワークスを利用して満足のいく生産計画を作成するためには、製品毎にこのケースはどういうルールで計画すべきか?を言語化し、設定していく必要があります。

AIは味方にできれば人間をはるかに上回る成果をあげることができる頼もしいパートナーですが、このパートナーを活かすには正しく指示を出してあげる必要があります。

現時点ではコンピューターは人間とは異なり、適当な指示を与えてその意を汲むということはできません。このときはこうするというルールを明確に指示できなければ何もすることができないものです。

ローマは一日にして成らず。遠回りに見えるかもしれませんが、まずは今できている生産計画がどのようなルールの元に成立しているのか?最適ワークスを活用しながら一つ一つ言語化し、整理していくことが重要です。

製造ルールの言語化はお客様にしかできません。フルマラソンのようにやる気と根気が要求される作業ですが、スカイディスクではカスタマーサクセスがお客様の作業をお手伝いしますのでお一人で悩まれる必要はありません。

もしこの記事を読まれて最適ワークスにご興味を持たれたようでしたら定期的にウェビナーを開催していますのでぜひご参加ください!


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