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【人材開発研究大全⑤】第9章 組織社会化研究展望と日本型組織社会化 尾形真実哉

 今回は、組織社会化研究をレビューし、全体像を俯瞰し、日本型の組織社会化モデルも考察した甲南大学の尾形先生による論考を取り上げたい。
 尾形先生の先行研究の分析・分類がとてもわかりやすく多面的で、組織社会化についての理解が深まった。なぜレビュー論文を読むように指導されているかが理解できた気がする。
 また日本型の組織社会化モデルについてもとてもリアリティをもって捉えることができた。 


組織社会化の定義

 本章で、いくつかの定義を紹介するが、高橋(1993)による以下の定義が、組織社会化に関する定義の最大公約数として適用することが可能であるとする。

組織への参入者が組織の一員となるために、組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していく過程

  この定義の背景には、高橋(1993)が社会化に関する多くの文献をレビューし、社会化の共通的な見解としてまとめた以下の3点がベースになっているが、とても理解がしやすい。

①社会化は成員性の習得である
②社会化はそれゆえに基本的に学習の過程である
③社会化は他者との相互作用を通じてパーソナリティを社会体系に結び付ける過程である 

組織社会化の分類

  組織社会化は、様々な切り口で分類されてきたが、この分類を見ていくと、組織社会化の概念理解が深められるなあと思う。

(1)内容による分類

職業的社会化 仕事に関する知識やスキル
文化的社会化 組織の価値観や行動規範
役割的社会化 他者から求められる社会化 

(2)時間軸の設定による区分


 予期的社会化=組織に参入する前の社会化
組織内社会化=組織参入の時点から始まる社会化

 この2つの時期に渡る社会化課題が、リアリティショックである。

リアリティショックとは、「組織参入前に形成された期待やイメージが組織参入後の現実と異なっていた場合に生じる心理現象で、新人の組織コミットメントや社会化にネガティブな影響を与えるもの」

 リアリティショックを抑制するには予期的社会化段階が重要とされるため、組織社会化を組織参入段階から捉える傾向が一般的とのこと。
 
 リアリティショックを抑制する方法として、RJP(Realistic Job Preview)がある。
採用プロセスの際に、ネガティブな側面も含めた、現実に基づく職務情報を正確に提供することである。
 
RJPにより若年層の早期離職を抑制できることが実証されているという研究結果がある(Philips 1998)。

(3)環境レベルによる区分

 社会学的な分析で、4つの領域に分類している。

第1次的産業適応:国民性や教育制度への適応
第2次的産業適応:産業への適応
第3次的産業適応:所属する組織(会社)への適応
第4次的産業適応:所属する職場への適応

(4)程度による区分

個人の社会化の程度があまりにも過剰な状態を過剰社会化と呼ぶ(Wrong 1961)。
一般的な組織社会化の成功は、組織へのコミットメントを高めたり、職務モチベーションを高めたりするが、過剰社会化は、個人を会社人間に仕立て上げ、反社会的な行為に無神経になったる、バーンアウトやワーカホリック、さらには過労死まで引き起こす可能性も否定できないという。
 
過剰社会化は、洗脳と変わらない位の水準なのかなと思う。

組織社会化の分析視角

 次に組織社会化をどのような観点から捉えているのか?分析視角の面からの分類を行う。
これも捉え方でいろいろな考え方があるとなかなか興味深く読んだ。
著者は、6つの観点に分類する。

(1)ラーニング・パースペクティブ
   新人の学習課題・学習手段に焦点
(2)エージェント・パースペクティブ
   新人の社会化を促進するエージェントに焦点
(3)インフォメーション・パースペクティブ
   新人の社会化に必要な情報内容や情報源、情報探索行動に焦点
(4)コグニティブ・パースペクティブ
   新人の環境変化や環境の意味づけに対する認知的側面に焦点
(5)プロセス・パースペクティブ
   新人が社会化されていく過程に焦点
(6)アクティブ・パースペクティブ
   新人が主体的に環境に働きかける行動に焦点

 なかでも(6)アクティブ・パースペクティブは、新人自らが環境に能動的に働きかける側面に注目したプロアクティブ行動に関する研究であるが、近年蓄積が増えているとするが、とても興味深かった。

プロアクティブ行動は、個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先験的な行動であり、未来志向で変革の行動と定義されている(Grant & Ashford 2008)

そして、Ashford & Black(1996)は、プロアクティブ行動を以下の4つに分類する。

・意味形成行動  情報探索、フィードバック探索
・関係性構築 ネットワーキング、上司との関係性構築
・職務変更の交渉
・ポジティブフレーミング

 これら以外にも「キャリア戦略とイノベーション行動」「問題解決行動」「学習と自己開発活動」(Grant & Ashford 2008)、「発言行動」「革新行動」「政治的知識獲得行動」「キャリア手動行動」(Seibert et al. 2001)などをプロアクティブ行動と捉えている研究もあると紹介する。

 著者は、アクティブ・パースペクティブの研究は、今後有望であるとする。欧米では、プロアクティブ行動に関する研究蓄積が増えてきたが、我が国におけるプロアクティブ行動の研究蓄積はまだまだ少ないとも言う。

我が国においては、どのようなプロアクティブ行動が、若年就業者の組織への社会化を促進するのか(プロアクティブ行動の内容と成果)、またそのような行動を喚起する先行要因は何か、さらにそのような行動ができる個人に育成するためには、組織としてどのような教育が求められるのかなどの研究はまだ乏しい。

組織社会化の成果

  組織社会化の成果についての先行研究のまとめであるが、本章では、2つの表でまとめてくれている。
 
まず表の1つ目は、以下の表である。

人材開発研究大全 第9章 表6

 さらに近年では、短期的成果長期的成果に分けて捉える傾向にあるとして、以下の表の通りまとめてくれている。

人材開発研究大全 第9章 図6 

日本型組織社会化研究の展望

 組織社会化研究は、多くの研究蓄積がされているが、欧米の研究が基礎となっており、日本型の組織社会化過程を捉えることが必要であるというのが著者の主張である。
 
 新卒一括採用・終身雇用制度・年功序列型賃金制度や集団主義・長期的人材育成は、日本企業の特徴である。
 これらの特徴は、昨今崩壊しつつあるが、著者は、いまだに日本企業に強く根付いているとして、それらの特徴を踏まえた日本型の組織社会化モデルを探求することが求められるというのが、著者の主張である。

 日本型の組織社会科モデルを著者は「探索型社会化モデル」と呼んでいる。

我が国におけるホワイトカラーの組織社会化過程は、職場の既存成員と新人の双方が相互に探り合いながら、適応していく探索型のモデルである。

欧米企業や専門職従事者の組織社会化モデルとの比較を以下の通りまとめている。

人材開発研究大全 第9章 表8

相互に探索が必要であり、新人と既存メンバーの相互作用に着目することが重要な分析視角(インタラクティブ・パースペクティブ)になるとしている(尾形 2007b)
 
 著者は我が国における若年就業者の早期離職などの問題は、欧米流の組織社会化の知見では見過ごされている部分やとらえきれない部分があるとしえ、今後、日本型の組織社会化過程においてさらなる研究蓄積が求められるとして本章をしめる。

感想

 人事異動を3~5年の周期で繰り返してきた身としては、その都度、組織社会化を図ることで、成長してきたような気がする。またプロアクティブな行動の重要性は身にしみてわかる。
 入社した時が、一番顕著であったが、若い時にはそれが苦手で組織になじむのに時間が掛かった。そのことで損をしてきたと思っている。
  JTC(Japanese Traditional Company)で働く私に取って、著者が言う日本型組織社会化モデルはとてもしっくりときた。

 また本章を読んで、レビュー論文の面白さ、先行研究の面白さもわかった。非常に多角的にまたわかりやすく分析・分類してくれており組織社会化についての知見が深まった。ありがたい一章であった。
 



 


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