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不慣れさと過ごす生活。不在と遭遇。

ここ一週間は、ありえないほどバタバタしていた。会社の大きなイベントがあったので、その準備に文字通り奔走した。備品を買いにダイソーへ走り、でも打ち合わせも普段通りつまっているので、遅れながらも参加した。妻の誕生日もかさなっていたので、ホテルでビュッフェを食べて温泉にはいったあとに、会場の準備等にかかりきりでまだ手がついていない、じぶんの企画したワークショップでつかう用紙をつくったりした。

ようやく最初の山場を抜けて、ほっと一息つける。まあ、色々べつの仕事も詰まっているが、一旦わすれたい気持ちがある。

なぜ仕事をしていると本が読めないのか、みたいなタイトルの本が流行っているらしい。うろ覚えだからまちがっているかもしれない。でも、わかるよなと思う。一息つく、ってとても身近な、ちょっとやすむための表現。一息って呼吸しないってことで、息を止めることでぐっと注力している状態だ。でも、呼吸しないと死ぬ。息を吐いて吸う、そのなかに小さな循環がある。
こうやって、一息つけない状態ではしっていると朝、ものを書くこともなかなかできない。不思議なもので、1週間なにかを書いていないと、久しぶりに書こうって思った時に何を書きたいのかわからなくなる。だから今、とりあえず浮かんでいるものを吐き出しているわけだけど。吐き出しながら、一息ついているんだろうな。あんまり仕事のことを書きたいと思わないので、イベントやワークショップや展示であった色んな風景はおもしろくて、すてきで、ふかくて、よかったけど、それを今書きたいわけじゃあない。一旦離れたいお気持ちなんだろうな。

以前から書きたいネタはいくつかあるけど、それを持ち出して書こうって気にもなれない。だから、ただキーボードを走らせる。

大阪でイベントをずっとやっているので会期中は、11Fの団地に滞在している。11Fともなるとさすがに、日の入り方がちがうというか、明るい。京都の狭い一軒家は2Fが寝床なので多少はあかるいが、1Fは日差しはほぼない状態だから、今こうして書いているときにも、朝7時なのだけど、電気もつけないで、窓からの日差しだけでやっていける。

直射日光でもなく、漏れてくるような光が入る部屋っていいなあ、と新鮮である。この団地の一室は、べつのプロジェクトで使うから借りている、というか一緒にやっている友人が借りているところを使わせてもらっている。最低限寝泊まりはできるように布団はあるし、食卓もある。

ただ、滞在初日はじめて泊まる夜は、はじめての空間に当然不慣れだった。そしていろんなものがない。まず、寝室となる和室の電気のスイッチがわからない。壁づきのスイッチではなく、床にポンとおかれた、白くて丸いボタンが結果、電気のon/offボタンだとわかった。モダンすぎて、わからなかった。わかるまでに、スマホのライトでなんとか布団を敷いた。なくても、まあやっていけるものだな、ともおもった。

そして、ドリップコーヒーバッグも買ったけれどマグカップもない。マイボトルはあるけれど、熱いコーヒーをマイボトルに注ぎたくないので、結果のでいない。だから、朝ごはんも家で食べる気がしなくなる。初日はパンも買って、翌朝食べたけれど、コーヒーに合わせたい。コーヒーを飲む習慣があれば、マグカップは欠かせない。でも、ない。ふしぎなもので、それがないだけで、滞在中は団地で朝ごはんを食べなくなった。ちかくのモーニングをやる喫茶に通う。朝、おじいちゃんたちがけっこう集っている。

たくさんの不在から自分のなかで透明になっていたものが、こうやって見えることがある。一方で、予期せぬ存在との遭遇もある。団地はいろんなひとが住んでいる。昨夜は、へとへとになって21時過ぎにエレベーターで11Fまであがろうとしたとき、腰の曲がったおばあちゃんが降りてきて「けーさつしらんか?」と聞いてきた。一瞬、話しかけられたことにまずびっくりして、何を聞かれたのかもわからなかったが「警察かな」と思う。とはいえ、この土地も普段すんでいるわけではないので「ごめんなさい、わかりません」と返す。「そうか、悪いね」と不確かな足取りで、小さな歩幅で歩いていくおばあちゃん。咄嗟にGoogleマップで調べて、「駅の北口すぐにあるみたいだよ」と伝える。

そしてエレベーターへ乗った。長年すんでいるだろうし、駅の場所は流石に知ってるだろ、団地から出てきた人だし、と案内までは不要かなと思った。そして何より疲れ果てていた。そしたら、おばあちゃんが「悪いね、あんたのお母さんもごはんとか待ってるだろうに」と謝りながらエレベーターに乗ってきた。よく事情がつかめないまま、エレベーターは押されていた11Fに向かう。おばあちゃんは「1Fおしてくれますか」と言った。「さっきいたところが1Fだよ、おばあちゃん」と答えた。11Fについて「このまま1F今ね、おしたから。乗ってついたら出ればいいよ」と言って、部屋に帰った。

部屋に帰りながら認知症なのかもとも思ったし、もっと話をもっと聞けばよかった、と思った。後悔した。突然の出来事にびっくりし、対応の仕方もわからず、何より疲れていて一息もつけていなかった自分の状況と、自分の人間性を恨んだ。なんであれ、大変な状況の時にこそ、じぶんが問われるのだなと思った。住み慣れない場所では、慣れない出来事がたくさんおきるのだ。

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