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おひとりさま入院記(グルグル七転八倒篇)4日目

ちゃんとした一般病棟のお部屋にうつって2日目、わりと眠れたし、窓もあり明るく、安心できる環境である。ただ大変なのはめまいがおさまっていないので、1人では移動出来ない事だ。トイレも全てナースコール、診察室への移動もヘルパーさんにお願いして車椅子。お忙しいご勤務のなか心苦しいが致し方ない。日々入れ替わるカワイコちゃんにお世話になりながら、それとは対象的な頭ボサボサ、レンタルパジャマの出で立ちで、点滴棒につかまりながらヨチヨチ移動する姿を見守って頂いた。

ご飯に関しては、とにかくお粥に味がついていないことが中々食べすすめない原因であり、これをどうしていくかが課題。今日の朝ごはんは冷や奴と卵焼き、全粥にお味噌、お漬物という質素な組み合わせだったものの、冷や奴用になんとお醤油が付いていた!!これはお粥に使うしかないだろうと思い、冷や奴はお箸で切り分けてお味噌汁に投入してそちらの塩味で食べることにした。
お醤油ってなんて美味しいんでしょう。
食べすすめなかったお粥が一気に半分くらい食べられるようになった。ありがとう、ソイソース。偉大なる日本の調味料。

そして食後はヘルパーさんに売店に連れていってもらう約束だった。これは昨日の夜から決めていた事で、何より今日の最大の楽しみだった。ただ、ヘルパーさんが忙しいのか一向に来てくれず、こちらから看護師さんに何度も売店の話をして催促しまい、きっと看護師さん達の中で私はふらついてて1人で動けない割に売店に行きたがる女というレッテルを貼られてしまった事だろう。でもそんなの関係ねー!
売店、買い物は最大の楽しみであり、急務だった。
とにかく歯を磨きたいし、食事用のお箸なども欲しかった。

待てど暮せど来ない中、先に診察の時間になったので三浦友和の息子さん先生のところへ。今日は大した検査はせず帰されそうだったので、ふと気になっていた「けっきょくのところ病名って何なんでしょうか?大体でも知りたいのですが…」と恐る恐る聞いて見たところ、前庭神経炎とみてほぼ間違いないでしょう、との事!!
はじめて聞いたゼンテイというワード、、どういう漢字書くんですか?と聞いてしまった。前の庭だそう。
forward garden?

部屋に戻って検索してみると、要はバランス感覚みたいなものを司る脳と耳の間の神経?が炎症を起こしてひどい回転性のめまいになることがあるとのこと。その場合脳には異常なく命にも別状がないが、めまいはひどく、しかもすぐには治まらず数週間、数カ月完治まではかかる。ただ脳の病気と違うのは難聴やろれつが回らないなどの症状は無いというのが最大の特徴だそう。これだ!!これだよ!
やっと病名がわかって安心した。

原因はわからない事が多いから誰にでも起こりうるし、めまいはしばらく続くってのも合ってるし、しごく納得。
めまいが凄いので救急車で運ばれるケースも多いとの事。
ようやくビッグスッキリに会えた気がした。
もうしばらくペンギン歩きでヨチヨチだけど仕方ない!
連絡していた友達や職場の人にも病名を伝えた。
ありがとう先生!祐太朗じゃない方の息子さん!

そうこうしていたらヘルパーさんが車椅子を持ってやってきて、お楽しみの売店へ。割り箸と歯ブラシ歯磨き粉、顔を洗うときのターバン、そして念願のプリンとヨーグルト、そしてポテロングを買った。あんなに弱ってたのに、もうおやつ買うの?と誰もが思っているでしょうね。
そう、それで良いのです。いつ食べられるようになるかわからないけど私は先に楽しみを作っておきたいタイプなもので。テヘへ。
まずは食後に歯磨きを。歯磨きって何と気持ちいいのだ。
スッキリしたー!「カイ、カン…」これわかる人は昭和。
顔も洗えるって素晴らしい。日常の有り難さの極みだった。

部屋に戻ると点滴の取り替えとなった。点滴の入口は左手の甲に刺されている。たしか病院に着いたときには両手の肘裏を試されたが血管に刺さらず、苦肉の策で左手の甲を叩かれて血管を浮き立たせ、そこに刺すことになったのだった。ん?そういえば、あの処置をしたのは三浦の次男坊先生じゃなかったろうか?声の記憶では。しかしあの時にはもう目も開けられない程の状態だったので認識しておらず。
そうか、最初の初日にもう出会ってたんだね、把握できておらずゴメンなさい先生。

今日の難関はこの点滴だ。点滴には生理食塩水的なただの水分とめまいどめの薬、そして吐き気どめと三種類入れていくのだが、最初は点滴痛くなかったのに2日前より日を追うごとにどんどん痛くなってきている。
しかし我慢するしかない。めまいどめの薬は必須だから、ここは耐えよう。と思ったものの、今日の看護師さんは小池栄子風のガタイの良いクールビューティーでSっぽい気質。私が「ちょっと痛いんですけど、、」と控えめに訴えても、「お薬が入っていってる時は仕方ないですねー」と共感や寄り添いは得られず。。いやー、それにしても痛いよ、激痛!しかしここはまた無の境地、時間にしてどれくらいだったかわからないがひたすら耐えた。

その日の夜はテレビでミュージックフェアがやっていた。
中島みゆき特集で、名曲「ファイト」を大竹しのぶが歌っている。大竹しのぶは冒頭から歌いながら人目もはばからず号泣していた。私の個人的見解だが、亡くなった三浦春馬くんの事を思って歌っているんじゃないかと感じた。
何かの記事で2人は舞台で共演して仲良しだったと書いてあった。きっと亡くなった春馬くんを今でも応援しているという強い気持と、何で私をこんなに悲しませるんだというような恨みのような情念が混ざっている、そんな感じだった。
とにかく一本のお芝居をみてるかのような凄まじいエネルギー量で、それは同時に今の私にも「ファイト!」と言われてる気がして、泣けた。そうか、私は闘っているのか。そう思わされた。1人病室で号泣しながら味の薄いご飯を食べて鼻水をかんだこと、絶対忘れないと思った。
生きてるって、いいことばっかり、美しいことばっかりでもない、こういうドロドロの感情も出来事も全部ひっくるめて生きてるって事だよなぁ、とそんな事を思った。

そのあと、本当だったら今日一緒に旅するはずだった友達から旅先から連絡がきて、「治ったら絶対旅行しようね!」とのメッセージ。嬉しくて身に沁みて、また泣けた。今日はよく泣く日だな。デトックスか。

夜更けにはご褒美が。看護師さんが、わたしが歩く姿を見ていたら、まだふらつきはあるけど、1人で大丈夫だと思うので、消灯後以外は1人でお手洗い行っていいですよ!との事。そして売店なども体調良ければナースステーションに声かけて行って大丈夫だと。やったーー!!こんなに嬉しいなんて。。1人で出来るって事だけがこんなにも有難い事なのかと痛感させられた。当たり前なんてない。
いつもそう思ってたつもりだったけど、足りなかったな。
嬉しくてペンギン歩きのままヨチヨチ、廊下にゴミ捨てに行ったり、自動販売機で水を買うなど用事を作っては部屋の外に出た。

そして今晩も消灯の時間がやってきた。
今日もぐっすり眠れるはずが、なぜだか全然眠れない。
身体を動かしてないからだよね。うーん、仕方ない。
そうこうしてるうちに、前のベッドのおばあちゃんから、グー、グー、グー、スピっというなかなかエモーショナルなイビキが聞こえてきた。ちゃんとテンポよくグーを刻んだあと、「スピっ」や「ンガッ」や「ピルルル」などのフィルインを入れてくれる。ナイスドラミング!!
ちゃんと観客ここにいますから、演奏続けて!と願っても、曲と曲の間はしばらく開いたりする。うーん、焦らすなぁ。ドラミングおばあちゃん、眠れぬ夜のエンタメをありがとう。
      ー4日目終了。5日目へ続くー

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