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おひとりさま入院記(グルグル七転八倒篇)2日目

朝起きてみても、昨日とめまいの状況が変わっておらず心底ガッカリした。
震度5が4くらいになってるかもとの淡い期待も、立ってすぐに打ち砕かれた。そうか、昨日と同じか。
では今日は耳鼻科に行ってみようか。
昨日差入れしてくれた友達が話していた、お母さんが耳の中の石が動いてめまいが止まらなくなった話を思い出す。
また昨日と同じ方法で近所の耳鼻科の口コミと外観写真をチェックし、西大井駅前にあるせいの耳鼻咽喉科に行くことにした。昨日よりも自宅からは近いのでヨチヨチ歩きでも歩いて行けるかとも思ったけど、やはり動くと吐き気が止まらないので、いったんおさまるのを待ってから、午後タクシーを呼んで病院へ向かった。

タクシーの車内でまた左上の取っ手につかまると、また丸い吊り革タイプだった。最近の車はこれが主流なのかな?2日目の今日は、昨日の混沌よりは覚悟が決まってるのでこちらが醸し出すジーザス感は増していたかもしれない。
運転手さんよ、ちゃんと目に焼き付けたかしら。
最後の姿を。

そしてまた病院に最も近い交差点で降ろされた後、石ころ女となり病院へ向かう。乗りこんだエレベーターには先客が2人いて、降りたあとは全員同じ耳鼻科に向かったが、先客2人とも石ころの私には目もくれず、何事もないかのように追い越し、受付をされた。そりゃあそうか、みんな早く診察を終えて帰りたいよね、石ころを見て、「大丈夫ですか?お先にどうぞ」なんて展開を期待した私が浅はかだった。
受付椅子にも座ってられないひとり震度5が続く私はまたもや奥のベッドに案内され、診察の順番を待つこととなった。吐き気はあるもののもう水すら出なかった。

ようやく診察の順番が回ってくると、本日の医師は亡き名優大杉漣さんのような威厳があり声がよく通るタイプの先生だった。私に軽く検査したのち、一般的なめまいの原因となる2つを声高々に語っていたが、こちらはもう意識は朦朧としているので正直声の大きさと圧が辛かった。
ただ、私の状況は良くわかっていたようで、「うちの病院じゃあなたムリだから大学病院に今日入院する?紹介状書きますよ」と言ってくれた。まさか入院する事になるとは全くもって頭に無かったので、「ちょっと家族に連絡してみます」とワンクッション置こうとしたら、「いやいや、大学病院に移動するならもう今の時間がリミットだよ、どうする?今決めて」と言われたのと自分でももう限界だったので「ではお願いします」と答えた。
呼んでもらったタクシーでそのまま大学病院へ向かった。東邦大学病院と言われたが、どこだろう。
薄れる意識の中、マップで調べると場所は大森とのこと。
へー、そうなんだ。知らなかった。
また目を瞑って、黙ってジーザスの形を取り身体を預けた。

大学病院に着いたのはもう薄暗い夕方だった。受付入口まで何とか転がるようにたどり着き、スタッフの人に紹介状を渡すと、前の椅子でお待ち下さい、とだけ冷たく言い放たれた。こんな尋常じゃない状態の人をみて病院のスタッフでも何もしないんだなーと思いながら空いてた椅子3脚に身体を横にして待った。どこか海外の小さな空港でバックパッカーがトランジットを待つようなスタイルだ。意識は遠のく中、しばらくすると車椅子を持ったヘルパーさんか看護師さんがやってきて乗せてもらい診察室に進んだ。この辺の記憶はあまりない。
簡単な診察を終えた後は、入院する前のPCR検査を受けた。結果は陰性だったので入院できるとのこと。その後は車椅子で連れて行かれたが、その時に言われたのは今日は一般病棟は空いておらず今晩だけ救命病棟で過ごしてもらいます、との事だった。そのときはこの先にとんでもない苦行が待っていることなど知らずに。。

ついた救命病棟とは、本当に救命病棟ドラマにありそうな薄暗い平場にただ簡易カーテンで仕切られただけの空間に横にズラッとベッドが並び、奥の救命コーナー?みたいなところだけがこうこうと明るい、そんな場所だった。
ただ江口洋介や松嶋菜々子みたいな人の気配は全く感じられなかった。

意識は朦朧とするなか、家族には入院した事を伝えなければとスマホを手にしメールを打とうとしたところ、看護師さんが飛んできて、「ここ救命病棟なんで、電波のでる電化製品は使用禁止なんです、ごめんなさい」と言われた。手早く端的に入院したことと病院名だけ入力し、送信した。
ベッドに横になってると全粥の夕ご飯が運ばれてきたが手をつけられる余裕も食欲も全くなく、そのまま放置した。そうだ、さっきの処置室でもう点滴されて左手に繋がってるんだった、これでいいだろう。とにかく動かない泥のような身体をベッドに横たえた。

そして消灯の時間、9時になった。もうずっと目を瞑っているので電気が消されても明るさの違いはよくわからなかった。
ただここで一つ大きく不安を感じることが。
来たときからずっと鳴っているけたたましいアラーム音は消灯時間を過ぎても一切止まない。例の救命ドラマでよく聞く、ピロピロン、ピロピロン(音階でいうとBG♭BG♭みたいな不協和音的な警戒音)がほぼずーっと鳴っている。しかも自分の頭上で大音量、自分のとこが終わったかと思えば近くのベッドで。ドラマの中だと心電図が乱れたりしたときに音が鳴って看護師さん達が「急変です!」なんて叫んで集まってくるイメージだが、現実では特段人が集まってくる気配はないものの、大音量のそのアラーム音はずーっと鳴っていて、しばらくすると誰かが止めるのか心電図が戻ればアラームが止まるのか。そのアラーム音が鳴り響く中、遠くのベッドからはおじいちゃんが大声で「おばあちゃん、おばあちゃん」とうめき叫んでいる。ほぼアラーム音と交互におじいちゃんの叫びが飛び交い、ドラマだったら中々エキサイティングなシーンが延々続く。わたしが元気なら眠れなくて発狂しそうだが、そんな体力も気力ももうないし、どうせ家には帰れないのだから、心を無にしてこの夜をやり過ごそうと決めた。正直ハードな1日の終わりでぐっすり寝てしまいたかったが、ここはメンタルで乗り切るしかないのだから、1日くらい寝なくても死なないと自分に言い聞かせ、目を瞑り続けた。
そして次に自分にいま出来ることを考えた。
そうだ、最高にハッピーな想像をしてみよう。
ここは夜空の下に広がる野原で、草むらに身体を横たえて星を眺めている。周りには仲の良い友達たちが同じく笑顔で星空を見上げている。友達はたまに私の顔をのぞき込んできた。みんな眩しいいつもの笑顔だ。何だかあまりの幸福感に泣けてきた。ありがとう、みんな。みんなのお陰で私生きてるよ。おじいちゃんの叫び声とけたたましいアラーム音の中で、流れてくる涙もぬぐわず、ただ水分を顔に流したまま横になり一睡もせず夜は終わった。
    ー怒涛の2日目終了。3日目へ続くー

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