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やってみました、ジオパーク・オンライン

こんにちは、こんばんわ、山崎真流子です。
阿蘇ユネスコジオパークでガイド活動をしています。
現在、日本ジオツーリズム協会という組織で、全12回のオンラインツアーを行っていまして、先日第四回、山崎の担当回が終わりました。
ツアーの募集をしていたページのリンクが↓こちら↓です。

このツアーを作るにあたって留意していたことや苦労話、これから作る誰かに向けてのあれやこれやを覚書にしておきたいと思い、この記事を書いています。
だれかの目に留まり、お役に立つなら幸いです。
それではスタート。

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TOREに沿って作るツアー

ガイドとして楽しいツアーを作るために留意したい4つの要素、というものがある。
TORE。それぞれ、Thematic(テーマがあるか)、 Organized(構成されているか)、 Relevant(参加者に関連しているか)、 Enjoyable(楽しいか)の頭文字となっている。
「TOREが結果的にできていたよね」では、なんのために勉強しているのか分からないよな、と、私は素直に考えた。
そこで今回このツアーをつくるにあたって、最初から精密に理論に基づいてツアーを組み立てていくことにしたのだが、これが難しかった。

どう難しかったかって、普段の自分のガイドスタイルとあまりにかけ離れた作り方だったからだ。
私のガイドツアーに参加した方は、多分どこかのタイミングで、川や水源、滝の水に触れる機会があっただろう。あるいは、くさっぱらに寝転がされた人もいるはずだ。温泉をはしごし、ソフトクリームやコーヒーを味わい、風に吹かれ、風に乗って、いやさヘリコプターに乗って、空から阿蘇の姿を楽しんだはずである。
私は参加者の興味の向きに応じて、けっこうコロコロと話の切り口や筋立てを変えていくほうだ。楽しみ方も体当たりのものが多い。お客様が驚き喜ぶ顔を見るのが好きだし、そのとき動いた感情が、阿蘇の思い出を強くお客様の中に留めると信じている。
オンラインツアーでは、お客様の顔色を見て話の筋を変えたり、体験してもらうことが、ほんとうに難しい。事前にお土産でも送っていればカバーできることかもしれないのだけど、話の内容だけでお客様に自分事として楽しんでもらう、ということの、ハードルの高さというか、今まで考えたこともない角度からジオツアーをとらえ直さなければならなかった。

とにかくTOREを固めることにした。メモではこうなっている。
T……地域の食文化に目を向け親しみ理解することは、地域の地質と文化を守ることに繋がる。
O……四部立て。
○神話の話に含まれる土地利用の知恵について 
○実際の地形の利用の仕方について 
○草原文化の活用について 
○地形と地質、コメの品種の分布から、現代の阿蘇人の米作りの知恵を探るR……お米は日本人と切っても切れない。お水も生きる上で必要不可欠。神話が現代へ知恵を運び、今の私たちもその知恵の恩恵に与っている。
E……神様にお祈り。クイズに参加してもらう。炊飯器をアシスタントに置き、お米を炊いてもらって食レポし、食欲をかきたてる。

さて、果たして、理論通りにオンラインツアーは組みあがるのだろうか?

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下見と下調べは違う

対面のガイドツアーのときには、私は現地を下見する。ひとつのツアーにつき、2度3度と行うこともある。現場を踏んだ数だけ、色々な状況を把握することが出来る。危険に対応するため、また、その時間でないとみられないものを見つけるため、時間や環境を変えて足を運ぶ。最終的には、設定したツアーの予定通りに現地を見て回れるか、というオンタイムリハーサルを行い、話す内容や準備物をブラッシュアップしていく。

しかしオンラインツアーにとって、下見は何に相当するだろうか?

オンラインツアーでは、PowerPointで景色や素材を見せていく。やみくもに集めても時間ばかりがかかり、足りないものを回収しようとすると結果的に時間が足りなくなるのは容易に予想がついたため、まずはシナリオを書き、それにそって素材を集めて回った。

普段はお米については門外漢のため、資料を当たってお米についての理解を深め、また現地の水の調査や、農家の方への聞き取りも行う予定だった。
予定だった、のである。できなかった。
なぜなら、このツアーを準備しはじめた6月から9月いっぱいまで、熊本県はまん延防止措置の適用を受け、様々な活動に制限が出たからである。

まず図書館で調べ物ができない。長時間の滞在をしないようにと、図書館という図書館で椅子を片付けてしまっていた。ソファにもテープやロープが張られる有様だ。座って資料を引き写すことができない。
図書館は本当に有り難い施設で、役場の教育委員会にも残っていないような昔の資料が整頓され、閲覧できるようになっている。阿蘇の一の宮図書館では、昭和初期の阿蘇の様子までは一の宮町史などの資料からあたれるようになっている。人から聞いた不確かな話だけではツアーは成り立たない。実際に数字や文字で残っているからこそ、安心して人に話せるのだ。だからこそ普段から図書館に通い、資料を集めているのだ、が。
図書館が……使えないのである!
まん延防止措置の解除をギリギリまで待ったが、制限が解除となった10月は既にツアー実施月。資料作りの追い込みをかけるのに時間を割いたため、図書館で調べ物をすることはとうとうできなかった。図書館が使えていたら、ツアーの内容は大きく変わっていたことは間違いない。

そして、人に話を聞きにいけない
ワクチンの接種は自分も含めて大方済んでいる、とはいえ、通りすがりに農家のオジサンに話を聞きに突撃したり、教育委員会や農業関係者にアポを取って取材したりということができなかった。やはり、自分がコロナを広げるかもしれない、という恐怖は大きかった。
「大丈夫なはず、多分」で、お話を聞かせてくれた方に感染させてはいけない、という想いから、人に話を聞きに行くということに、いつになく消極的であった。
ただ、そんな中でも、火焚き神事を取材に行ったところ、祭りの関係者の中に知人がいて、ようこそようこそと輪の中に入れてもらい、参道の掃除を手伝わせてもらったり、火焚き乙女のお嬢さんにお話を聞けたり、今の祭りの実施状況を話してくれたりなど、おおらかに受け入れられる場面もあったことを申し添えておく。地元生まれ地元育ちのアドバンテージが生きた場面だった。

さて、そんな中であるから、取材はもっぱらメールで済ますことになる。昭和の女山崎、メールでこんな大事なことを訊いてしまってごめんなさい、という気持ちがなくもない。それでも、熊本県の農業政策課のKさんには、数度にわたって貴重な資料をいただき、色んな角度から調べ物をしていただいて、本当に助けられた。Kさんありがとうございました。
一方、メールで問い合わせをしたのに、その返答が電話がかかってきて、少々難儀だったこともあった。対応してくれたのは有難いが、同じ組織の違う部署から、5回も電話があったときには、さすがに言葉が出なかった。

ツアーに使う素材写真を探すのにもとても苦労をして、秋に入ってからは天気がいい日を狙っては阿蘇に飛んでいき、あちこちで写真を撮る日が続いた。ストックしていた写真では足りないことが多くて、9月ギリギリまで粘ってようやく写真を揃え切ったか、と思ったら、やはり落とし穴があったんだなこれが。

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阿蘇の谷の中、田んぼと人家の分布、それに地形がわかる、できれば阿蘇の外輪山の淵が見えるような写真。話の流れの中で、そんな写真があれば、という話になった。
そういった条件で写真を撮れる場所は、そう多くない。阿蘇カルデラきっての名勝地、大観峰は、その多くない場所のひとつだ。大観峰は普段から通って写真を撮っているし、素材は豊富に揃っている、と自分では思っていた。
しかし、大観峰の写真を改めて見てみると、真夏の青い草原の時期だったり、阿蘇五岳に雲がかかっていてナンノコッチャとなる写真だったりしたのだ。9月10月に撮影時期を絞って探せば、全部雲海。
全部、雲海。

雲海と夜明け大

……確かに雲海ハンターでしたけどさぁ。もうちょっとさぁ、秋の時期の、昼下がりの、山が綺麗に見えるようなタイミングの写真、撮っておこうよね……
自分で自分を殴りたい、と思いながら、秋の始めに撮った城山展望所からの写真を使うことにしたのだった。

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下見と下調べは違う。下見は自分で足を運びさえすればいいが、下調べは普段の人間関係や、施設、組織の使いこなしができているかどうか、そして日頃のストックがモノをいう。
なんなら動画もちゃんと撮っておいた方がいいな、とも思う。
これが、オンラインツアーで勝手が違うと強く感じたところのひとつだった。

Organized(構成)

TORE理論では、ツアーを構成するにあたっては、要素は4つまでで納めること、となっている。人間が一度に把握できる限界の数だ。起承転結、とも言われる通り、要素が4つあると、その中でストーリーを作りやすくもある。
私も最初から、要素は4つで考えていた。
○神話の話に含まれる土地利用の知恵について 
○実際の地形の利用の仕方について 
○草原文化の活用について 
○地形と地質、コメの品種の分布から、現代の阿蘇人の米作りの知恵を探る
これは、お客様にとっても把握できる限界の数であり、また、自分が扱える限界の数でもある。これ以上要素を増やすのムリィ……というのは作ってみてとても実感した。
これは、最初のシナリオを書いた時点では、ただの独立した要素でしかなかったが、後に内容を見直した結果、

○神話の話に含まれる土地利用の知恵について
 →昔の人は、神話の中に阿蘇の谷の土地の利用の知恵を残していました。じゃあ実際はどんな風に利用していたのでしょうか?
○実際の地形の利用の仕方について
 →阿蘇の人たちは、人が住む場所、稲を植える場所を上手に切り分けていました。それぞれの場所の高さの違いがほとんどないことで、人間が安全な場所に住みながら稲を容易に管理できる、という条件が揃い、これが、古代の人がここで田んぼを作ることが出来た大きな要素になりました。
それでは、ここは本当に最初からお米を作るのに恵まれていた土地だったのでしょうか?
○草原文化の活用について
 
→火山が降らせる灰によって、酸性の火山灰土壌となっていた阿蘇の谷。土の質を変えるために、草原の草花を鋤込み、草を燃やした灰を混ぜ込んで、土壌の改良をしていました。阿蘇の人たちの草原文化は、田んぼの改良まで含んでいたんですね。
となると、現代の人はどのように今の阿蘇の地形や地質を活かしてお米を作っているのでしょうか?
○地形と地質、コメの品種の分布から、現代の阿蘇人の米作りの知恵を探る
 →コシヒカリ、ヒノヒカリ、あきげしきの主力品種3つの分布から、現在の阿蘇の人たちが地形や地質を活かしてお米を植えわけ、たくさんの収穫を目指していることがわかりました。県の農業政策や県民性という部分も関連しているかもしれません。

……という具合に、それぞれの要素が何故この順番で並んでいるかがわかるように内容を繋いでいくことにした。これによって、構成が際立ち、整理されて分かりやすくなったと思う。最初のうちこそなんとなくで並べていたが、実は地味に時系列でもあったなぁ、と見返して思った次第。

Relevant(関連)

ここで参加者との関連についてである。
R……お米は日本人と切っても切れない。お水も生きる上で必要不可欠。神話が現代へ知恵を運び、今の私たちもその知恵の恩恵に与っている。
とメモでは書いている。

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ところが、一口にお米、と言っても、日本全国一律に同じコメが育てられているわけではない。
土地の質が致命的にコメ作りに向いておらず、野菜や果物を作る地域もあれば、阿蘇と同じように火山がありながら、その火山のせいでお米が作れない場所もある。また、稲の品種改良を進めた結果、一大稲作地域の地位へ躍り出たケースもある。人によって愛着のあるお米、好きなお米は違うし、その理由も千差万別だ。
私が阿蘇のお米を語りたいのと同じように、参加者も、お米について語りたい気持ちがあるはずだ。だからこそこのツアーに参加しようと思ったのだろうし、参加してくれたのだろう。
コメが関係する人が多いことは間違いない。しかし、参加者のコメとのかかわりを拾えなかったことは、致命的なミスだったと思う。

実際、最初のリハーサルの時点では、参加者に呼びかけて、知っているお米、好きなお米の銘柄を入力してもらう場面も用意していたのだ。
ツアー全体を見たときに、お客様にコメント欄に入力してもらう機会が多くないか、というところが気になり、削ってしまった場面だが、ここは大きな判断の誤りだったと言わざるを得ない。

なぜ、コメント欄の入力機会を私が気にしたか、という話を少しさせてもらう。
zoomで行うオンラインツアーでは、コメントが動くとバッジが出て、その瞬間のコメント内容がフロートしてくる。そのフロート窓が、画面に映したPowerPointのスライドに干渉してきて、見たいものが見えない、という瞬間が発生する。それはお客様にとってストレスになるのでは、と考えたのだ。
実際、私がコメント欄を動かすように呼び掛けた場面では、実はコメントのフロートがあっても気にならないように画面を構成していた。具体的には、画面の余白を大きめに取り、また別窓でコメント欄を表示しても見たいものが見られるように、要素を左寄せにしていた
コメントの入力機会が多い方が、参加している感じが出やすいのは確かだと思う。
参加している実感を得られる場面と、見たいものが見えないストレスの軽減、のバランスを取ったつもりだったが、結果的に参加している感覚を削ったことになってしまったなぁ、お客様に最高の体験を提供できなかったなぁ、というところが心残りになった場面だった。

そして、水について、阿蘇の水がなぜ大手飲料メーカーの採水地に選ばれるほど美味しいのか、という話が入れられなかったことがこれまた悔やまれる。全体的に軟水でクセがなく、コーヒーを淹れるのにも最適という論文が出ているほどだ、という話は、どこかで入れておきたかった。

神話については、10月神無月(神在月)というところも絡めたつもりだったが、参加者が果たして普段からどれくらい神話に親しみを持っているかというところを考えずにやってしまったかも、という気持ちがなくもない。
しかし神話の部分は、阿蘇の人たちが神代の時代から米作りに精を出していた証拠でもあり、阿蘇で生まれ育った私がガチでシンデレラと同じくらい聞いてきた物語である、そこに是非、参加者、お客様を巻き込んでいきたい、という気持ちがあったパートだった。つまり、「関係している」ではなく、「関係させる」ことを狙った、とも言える。

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「鬼八の魂を慰めるために、一緒にお祈りしてください」は、たぶんあのツアーの中で一番私の気持ちが乗ったフレーズだった。一緒に関係されてくれたら、嬉しかったな。

Enjoyable(楽しさ)

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オンラインツアーならではの楽しさとは、なんだろうか。
現地とカメラで繋がった、空気感がそのまま届きそうなツアーが楽しいのか。
それとも、離れた場所に一瞬で飛んでいくような、非現実的な動きが出来るのが楽しいだろうか。
今までの3回のジオパーク・オンラインでは、既にこの2つのタイプが出てきている。
現地とカメラで繋がっているような、川の流れと時系列がリンクしたツアーは、南紀熊野ジオパーク。
離れた場所にも飛んでいけるダイナミックな内容だったのは、桜島・錦江湾ジオパーク。(島原半島ジオパークもこっちのタイプと言える)
私も、タイプとしては後者だ。谷の中から田園風景をながめつつ話を始め、外輪山の上へ、そして草原の中へと背景を変え、最後にはスタート地点の田園風景に戻ってきた。
最初と最後の田園風景は、時系列を感じられるように、稲刈り前、稲刈り後の写真を使った。ちょっとしたアハ体験。
そして、オンラインツアーならではの楽しみ方として、私は炊飯器をオトモにツアーをすることにした。
20時50分に炊き上がるようにタイマーセットし、自分の脇に置いて炊飯器と会話をしながら進めていくツアー。これは、実施者である私が、「電源が使える環境にいる」ことを逆手に取った表現だった。現実のツアーでは炊飯器をオトモにツアーをすることはできない
これはタイムキーパーとしても優秀だったし(笑)、なかなかいいアイディアだったと思う。いい意味で空気を読まず、話が盛り上がっているところに炊き上がり音が入ったのも、アクシデント感があって楽しかった。

ここで、もうひとつの楽しさの要素の登場である。
アクシデント感。
予期せぬことが起こる。意外な結末を迎える。不意に目の前で起きた現象に驚く。アクシデントは隠し味のようなもので、ほんのひとさじ加えるだけで、いつもと同じ内容のツアーが一気にたったひとつの思い出になる。
(もちろん命にかかわるようなアクシデントはいけませんが)
何が起きるか分からないライブ感に、お客様は引き込まれる。それはもう間違いなく。
ここで、オンラインツアーとアクシデントの致命的な相性の悪さが発覚する……お気づきになっただろうか?

準備されたオンラインツアーでは、アクシデントが起きようがないのだ。

お客様に伝えようと、内容をブラッシュアップし、練習をすればするほど、全てが予定調和になってしまう。自分がその予定調和に慣れてしまってお客様と一緒に驚けなくなるのもヤバイし、あまりに綺麗に流れすぎると印象にも残りづらい。
アクシデントをどうオンラインツアーに入れ込むか、というところは、かなり大きな課題になりそうだ、と、私は結構早い段階から薄々感じていた。

だから、炊飯器にしてみれば、指定した時間の通りに炊き上がるよう炊飯するだけなのだけれど、その音が私の話し中に突然鳴ることで、若干のアクシデント感は出せるのでは、と考えた。
実際には自分が一番驚いて狼狽えたので、着想は良かったけど心の準備ができてなかったという結果に終わった。お客様の驚きに繋がらなかったので、中途半端だったかと思う。
けど、あえて失敗する、アクシデントになりそうなところを残す、というのは、オンラインツアーにとっても必要な要素である、という考えは変わっていない。
ここをいい塩梅でできた人がいたら、ぜひコツを教えてほしい。

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お客様の楽しさといえば、見せる資料に味があって親しみが持て、世界観に引き込まれる、というのも一種の楽しさに数えられるかもしれない。
阿蘇の開拓神話を語るときの絵は私が自分で描いたが、遊び心も加えられて自分が楽しかったし、ツアーの参加者からも楽しかったと言われる部分になっていたので、よかった。

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ただ、今回、

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このナマズさんを出せなかったのは、とっても心残り(笑)。

当初はもっとリアル寄りの絵柄で、白黒仕上げの絵だったが、画面で見ると圧が強くて夢に出てきそうだったので、総入れ替えをした。
自分で作った資料は捨てる判断も早くできる。このツアーのために様々な情報を集めたが、自分が作った絵などを含めて、削ぎ落した要素も多かった。だが、それで情報がとっ散らからず、お客様が安心して楽しめるように仕上がったのなら、捨ててよかったと思う。

ちなみに1枚の絵の制作にかけた時間は長くて10分。
①水色や黄色の色鉛筆でアタリを描き、
②筆ペンで線を入れる。
③色を塗る。
これで完成。線を入れるのは一発描き。アタリの線を消してもいない、とても雑な作りだが、自分はこれでラクに資料を作れる、という方法をひとつふたつ持っていると、思い切りが良くなって強くなれるな、と感じた。

Themetic(主題)

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T……地域の食文化に目を向け親しみ理解することは、地域の地質と文化を守ることに繋がる。

このツアーを作るために掲げたテーマはこれだった。
このテーマを言いたいから、このツアーを作った。
そうしていたはずだった。

しかし、結局、ここを伝えきることができなかった。

阿蘇の人間が、阿蘇のお米を食べる。
地産地消であり、サスティナブルな活動であり、また、当たり前のことでもある。
一見なんでもないことに思えるこの行動には、しかし、色々な働きが含まれている。

阿蘇地域は昔からお米を作っていたが、それはたやすい道程ではなかった。令和3年の現代日本、国道も鉄道もカルデラにひきこまれ、インターネットも当たり前、きれいで豊富な水資源を求めて多くの企業が工場を建てる阿蘇の谷。しかし今もなお、農業は阿蘇の基幹産業の座に君臨している。
同じ広さの土地なら、工業の方が農業よりもお金を生み出す。痩せて枯れていく阿蘇の社会を支えるために、阿蘇は工業化への道を歩むこともできたかもしれない。
なぜ、田んぼについて知るのか。阿蘇の農業を理解し、自分のルーツを理解し、遠い祖先からのメッセージである阿蘇の神話を、未来の子どもたちへ伝える、すなわち文化を守ることにつながるから。そして、阿蘇の谷に田んぼがあることで水資源が地中に還元され、未来の水資源となるから。
他の地域にも、きっと同じことが言える。自分の地域の食文化を深掘りすることで、未来に向けて守れるものに気付くことができるかもしれない。

前半はツアーの中にメッセージとして残ったが、ツアーの面白さを優先し、カタい話になりそうな後半を削り、挙句時間切れで話せなくなった結果、このテーマがぼやけ、ただのお米自慢になった。ここまで繊細にTOREを積み上げてきたのに、残念な結末である。

また、のちのガイド勉強会では、
「なぜ、阿蘇なのか」というところが語れるともっと強いメッセージになったかもしれない、
という指摘もいただいている。
その土地ならではの話に価値がある、と、日本ジオパーク全国大会霧島大会で作った宣言文に入っている。その文章を作ったのは自分たちの分科会だった。この宣言文を作った頃の初心を思い出し、なぜ阿蘇なのか、というところを、もっとしっかり語ればよかった。――とは思うのだけど。
ここ広げると阿蘇豪族と古墳の話になって遺跡から発掘された石器やその石材がどこで取れたかという話になって阿蘇神社・国造神社・古神社の関係と健磐龍命のご神体とされているお山の話にまでいって阿蘇豪族の権力の源となったリモナイトの話になって装飾古墳の話を挟みつつ3万年前の阿蘇谷湖の湖底層の堆積物と採掘している日本リモナイトの話にまで広がるから……削ったんや……(長いわ)
なんか必殺技とか変身を残しているラスボスみたいになるんや阿蘇のお米の話……!

【結論】もう現地来て私から聞いてよ……

テーマについては、ガイドのTORE研修会まで誰にも明かしていなかったが、もしリハーサルのときにこの部分を共有していたら、もっと根本的なフィードバックがもらえていた可能性がある。
少し話が脇に入るが、自分がガイドTORE研修会でOREの要素を参加者に聞くときにも、実は心のどこかで「自分はちゃんとツアーのテーマを拾えているのだろうか……」という不安がつきまとっていた。
事前にテーマを知っていたら、ORE要素をきれいに聞き出そうと誘導的になる可能性はあるけれども、それはそれとして、オンラインツアーを作ったガイドが何をテーマにしているかは、事前に共有しておくほうがいいように感じている。

それでも、やってよかったオンラインツアー

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今回はツアーの内容や組み立てなどでも大変な思いをしたが、オンラインツアーでなければできないこと、オンラインツアーだから楽しいことは何か、ということも模索してもいた。
たぶん、まだここには明確な答えは出ていないのだと思う。
現地で、ガイドさんに連れられて歩く楽しさを知っている。お客様と一緒に吸い込む空気の美味しさを知っている。オンラインでいくら工夫しても、生の体験を越えることはできないのではないか、という気持ちが、ずっとどこかにあった。
だが、それでも、オンラインツアーにチャレンジしてみて、よかったと思う。未来にオンラインツアーを作る誰かのためには、間違いなくなる、と自負しているし、このツアーの内容を現地で行う自信もついた。いろいろなツールや機材の取り扱いも覚えたので、次に作るときにはもっと多くの工夫を入れることが出来るだろう。

いつだって最終目標は、「お客様と自分が楽しむこと」
大事なのはツアーを実施することではなく、参加した方が楽しいと感じて、次は現地に行こうという気持ちになってくれることだと、再確認した。

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カメラの上に顔を貼って、目線を意識。

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この炊飯器の中には、阿蘇谷西部で採掘されている褐鉄鉱リモナイトでできた「大地の環」というセラミックのリングが入っていて、遠赤外線の効果でごはんがふっくら炊けるんですよ、というネタも実は仕込んでいたりして。

色々考え、準備し、チャレンジした、私のとってのジオパーク・オンライン。次の誰かの礎になれば幸いです。

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