秋山と、ハック。
山に来た。
沢山ホテルの周りを歩き、どんどん下に降りて行く。
前に来たのは夏だったから、もうすっかり秋色だ。黄色の木々から光が差し込む。落ち葉を踏む音がかさかさ響く。
みんな出かけたりしてるし、ホテルの周りの山を下っているのは私だけだった。誰も人は居ない。
心地良い。
川の見えるとこまで降りてみた。川に行きたかったのだけれど、川はだいぶ下だった。
良いポイントを見つけた。座って下の川、その上の山、もっと目を上げて周りの木々や葉っぱを眺める。
しばらく居た。多分、ずっと居られた。川が好きだから水の音が聞こえて、流れが見えて光が当たってきらきらしていて、嬉しかった。
寒暖差不調で頭が痛かったけど、嬉しい。
寝転んでみた。誰もいない。
お節介な虫さんが来て起きたけど、とても良かった!
誰も居ないから宝塚の鴛鴦歌合戦の歌を口ずさんでみた。
巨大な木々たちに吸収されていく様で、何となく大きな声で歌うのは気が引ける。ちょっとだけ口ずさんだ。
大きな川をジムと星空の下下る、ハックことハックルベリー・フィンの体験に憧れていたのだけれど、ちょっとだけ彼等の気分が分かった気がした。
「大河を漂い下るのは一種荘厳な気持ちがし、僕たちは大きな声で喋る気になれなかった。ただ低い声でくすくす笑うぐらいだった。」
そんな気持ちに憧れつつ、多分私は真夜中のミズーリ川を筏で下って星空を見ることは一生ないんだろうなと思っていた。
多分これからもそれは叶わないと思うけど、少しだけ、似た様な体験が出来た、と思った。
元気良く鴛鴦歌合戦を歌う気にはなれなかったのだもの。私の声は木々に吸収されていったし、何か憚れた。
名残惜しく気に入った場所を離れて、登ってホテルの近くに帰ってきた。
良い感じの木々の下に用意されたベンチに座って、これを書いている。久々に書きたくなった。
お掃除の人が近くに一人いるだけで、相変わらず静かだ。
金色の秋山も良い。
マークトウェインもミズーリの近くで、或いはアメリカの大自然の下、何か書きたいと思ったのだろうか?
、、、なんて言うと、まるでマークトウェイン気取りみたいだけど。勿論、そんなことは、ない!
それにしても、静かな木々の中にいると考え事がすーっと鎮まり消えていくのは何でだろう。