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今から推すには遅すぎた

先日、KANさんの訃報に触れたのをきっかけに、曲をたくさん聞き直している。

知ったきっかけはもちろん『愛は勝つ』だったが、その後に発売されたアルバム『野球選手が夢だった』を聞いてみたらこれが癖になって、かなりリピートしていた時期があった。特に『言えずのI LOVE YOU』が好きだった。あのね、うんとね、と続く、片思いの相手になかなか肝心なことが言えないシャイなひとの歌だ。

いまだに一発屋だったと思っている人がいるかもしれないが、アルバムを聞いて、決して一発で終わる人ではないと感じ、実際その通りだった。その後の活動は長年追いかけてた人なら十分ご存知だろう。

そのCDはずっと持っていたはずなんだけど、いつの間にか手放していた。深い意味などないが、なんとなく聞かなくなったとか、引っ越し等で処分してしまったか、記憶がない。

そのうち、私はどちらかというと別のアーティストに熱中し始めていたのでKANさんのCDはごくたまにしか聞かなくなっていた。

それから何十年も経った現在、KANさんが闘病生活に入ったことをTwitterで知り、病名を見て言葉が出なかった。メッケル憩室がんの罹患率はわずか1%だという。なぜそんな確率の低いものにヒットしてしまったのか。爆発的ヒットソングを出した人ゆえ、低確率なものに当たるのか。私は現実から目を逸らすように、YouTubeで彼の楽曲を探して聴いた。何十年ぶりに。そして先日の訃報に触れた。

SNSで見る限り、長年のファンの人たちは嘆き悲しみつつも、いっぽうで彼のことを思い出し笑いしながら慰めあっているようだ。Xで見つけた長年のファンである人はKANさんが好きだったというレストランに訪れたり、過去の発言を思い出して自分を奮い立たせたりしているようだった。また、「まゆみ」という名であるらしい人は、歌を聴いて涙が止まらないとYouTubeにコメントしている。「まゆみ」というタイトルの曲があるからだ。

それに引き換え私は今頃になってひたすらライブ映像を見たり、YouTubeの公式チャンネルで彼の曲をリピートしたりといったことのみ。これまで作られた曲はこうして残り、いつまでも聞けるだろうけど、新曲は出ないし、何といってもこの世で生の声を聴けるライブが開かれることはもうない。絶望的だ。推しは推せるうちに推せ、という言葉が歯にキンとしみる。

これを聴いていたらまさに今の自分が「エキストラ」だと思った。長年彼を愛してきたファンたちと比べて、私はずっと遠いところにいる。

「愛は勝つ」の頃からずっと変わらない、切なさをこめた声、なめらかなピアノ、鍵盤に触れる手の動き、すべて胸に染みていく。

今から追いかけて、どこまで追いつけるだろうか。ライブ配信をしていたようなので、再度有料配信をやってくれたりしないだろうか。ホールに響く彼の歌声を聞きたい。だが、それだけでは物足りない。どれだけ追っていれば、あの世に行ったときにピアノを弾き歌い、おどけるKANさんを見られるのだろうか。そんなことを考えている。

YouTubeの公式チャンネルには過去の歌が大量にアップされている。公式さん、ありがとう。助かりました。

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