「距離」

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数年前からドイツで長期研修できないか考えはじめ、いくつもの山あり谷あり、今年の3月15日から助成を受け、ベルリンで滞在制作できることになった。2つあるうちの最後の助成金の結果が出たのが3月の頭で、その日にトータルでの滞在期間が1年半ということが確定した。お世話になっている方々に頑張って行ってこいと送りだしていただき、3月15日にYcatから成田行きのバスに乗った。ちょうどコロナが騒ぎ出していた頃だった。
ベルリンまでは、格安LCC券を購入し、アブダビとベルグラードを経由するルートだったのだが、アブダビ行き飛行機の乗客数は3分の1ほどで拍子抜けしたものの、ベルグラード行きの便の中では、いよいよドイツ語の会話も聞こえて来るようになり気分が高ぶるようになっていた。そんな中、いよいよベルリン行きの便に乗り継ぎのため、飛行機を降りる際に機長からアナウンスがあった。セルビア人のみ飛行機を降り、外国人は中で待てという。飛行機の中でパスポートを没収され、かれこれ4—50分ほど待たされた。若い女性が、スマホ見ながら、状況は一刻一刻と変わっている、昨日は、問題なく入国できたはずだ、とつぶやいている。それから、飛行機の外に出るよう言われ、空港の建物と飛行機をつなぐ通路でまた1時間くらい待たされた。細長い通路に3-40人くらい並んでいた。私は、列の最後の方で、右隣は、インド人系の夫婦だった。英語で会話をしていたと思う。唯一のアジア人同士ということで、なんとなく目があう回数が多い。左隣は、残りの全員、ヨーロッパ系の方々だった。英語やドイツなど知らない言語が入り乱れていた。話をしたり、本を読んだり、スマホを見たり、思い思いの時間が経つにつれて、心なしか私から左の人までの距離が離れてきている感じがした。アジア人とマスク、だからだろうか。と。飛行機を掃除するというので、作業服をきた方々が飛行機に乗り込む。空港の扉から紙を持った男性が出てきて、紙に書かれた外国人乗客者の名前を読み上げ、当人が取りに行く。渡された紙は、入国拒否書らしい。セルビア語と英語で、感染症の疑いがあるので、入国できませんと書いてある。フライトアテンダントさんが、拒否された外国人に水をサービスしてくれた。一人のおばあさんが、私はずっとセルビアに住んできた、だから入国させてくださいと何回も訴えている。一人の男性はフライトアテンダントに抗議しているようだ。フライトアテンダントは、国が決めたんだろう。僕たちのせいじゃない。僕たちも被害者だ、などと説明しているようだった。それから新たな航空券の挟まったパスポートを返され、飛行機の中に戻る。航空券には行き先がTOKYOと書いてあった。戻るの?ここで初めてドイツに行けないという実感がわき始める。スチュワーデスさんは、ニコニコしながら、お手上げのような感じのポーズをしている。  
我々拒否された外国人を乗せた飛行機はアブダビに向かった。3月16日であった。その日の夜20時頃到着したアブダビ空港では、ウイルスチェックが待っていた。鼻の粘膜を採取され、パスポートに蛍光緑のシールを貼られた。飛行機会社は入国拒否を受けた我々たちのためにホテルと食事を用意してくれていた。部屋では、インターネット、と携帯をフル活用して、日本のお世話になっている方々に協力していただき、情報を集めた。3月17日にはEUが封鎖するという情報が入る。ドイツ大使館に連絡すると、封鎖するという情報はあるが、はっきりと公言されてはいないと返答が来た。アブダビからミュンヘン行きの飛行機を検索するが、飛行機にチェックインした荷物は東京に行ってしまうのではないかと思い、日本に到着時間して一番早く行けるベルリン行きのチケットを取り直した。ホテルの食事では、アジア人男性とヨーロッパ系の男性が、コロナについて話している。空腹が満たされ、部屋に戻り、ベッドに横になりながら日本行きの飛行機を待っていたらウトウトと寝入ってしまった。  
目が覚めたその時、全身がざわざわした。飛行機の出発する時間だったのだ。急いでカウンターに行くと、もう飛行機は飛んでしまったという。自分の情けなさに激しく落胆。しかし、万が一ということもあるので、飛行機会社の受付の男性にドイツ直行便の飛行機のチケットは買えないか聞いてみる。すると、EU諸国には入国できないという。しょうがないので日本行きのチケットを購入。新しいチケットを持ってチェックインカウンターに行くと、違う男性が荷物の対応をしてくれた。もう一度、聞いてみる。ドイツにいく直行便はないか。ドイツの国境は封鎖されていないか。3月17日の夜23時ころである。こちらの男性が検索してくださった結果、このすぐ後にミュンヘン行きの飛行機が一つあるという。なんと!   
急いで、日本行きのチケットをドイツ行きのチケットに交換してもらい、その対応してくれた男性に、心からお礼を言って、 搭乗口に向かった。   
2:40発のミュンヘン行き搭乗ゲートは、ヨーロッパ系の人々でごった返していた。入り口でパスポートと搭乗券を見せると、日本のパスポートに反応する。入れないという。カウンターの隣で待つようにと言われた。でも、チケットはさっき買えたのだと主張すると、そうは行っても、只今から外国人を封鎖すると通達が来たからだめだと言われた。信じられない。   
係の人は一度搭乗ゲートに入った乗客全員、外に出し、再度、パスポートチェックをおこなった。EU住人のパスポートチェックが終わり、搭乗が終わると、はじかれた我々4,5人に向かって、カスタマーセンターの場所を指示した。   
3月18日 朝5:00 日本行きのチケットを購入。   
22:00出発の飛行機を待つ間に、空港の飲食店が、一つ一つ営業を停止して行く。人のいない搭乗口のベンチに横になりながらコーランを聞く。
日本行きの帰りの飛行機は満席だったが、予想と裏腹にすんなりと入国できた。




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