魔女の鍋 Witch's Pot - 図書館は紙のAI

 図書館は紙のAIとみたてると、これまでの図書館の歴史の中での取り組みへのリスペクトと同時に、これからまだまだやらなければならない未開の地平が広がっていることを感じたりする。そんな僕のイメージの中に「図書館は知識を煮込む魔女の鍋」というものがある。

上のリンク先にあるような、いわゆる西洋の魔女が、あれやこれや煮込みながら、なにやらあやしげな薬?料理?得体の知れないスープを作っている。実は図書館もこんな風に考えると、おもしろいのかもしれない。

 図書館という鍋の中に、選書してきた本をぽとぽとと入れていく。魔女はもちろんライブラリアンだろう。そうしていつの間にか、野菜や肉が溶けてスープになるように、知識もまた本という原型をとどめないほど溶けて…あるいは煮込んで、程よい感じの「知識のスープ」になっていく。魔女であるライブラリアンは、そこに放り込む材料の本を選書し、図書館ごとに違う味の知識のスープができあがったりする。もしもなんらかのレファレンスのオーダーがあれば、かき混ぜている大きなしゃもじに必要な検索語を書いて、煮込んだ鍋をかき混ぜながら掬って、食器によそったりする。

 現状の図書館のように、一冊一冊の本を検索して貸し出しているうちは、まだ入れ込んだ野菜が煮込まれていない状態にも似ている。よ〜く煮込んで形がなくなるまでよ〜く煮込んで、そのスープの中から知識を掬い出す感じだ。

 かつてこの地球が誕生して海ができ、その後そこには濃厚な「有機物のスープ」が生まれたという。生命はその有機物のスープから誕生したという説があるが、図書館もまた「濃厚な知識のスープ」状態にすることで、そこから「生命」ならぬ「新しい知識」や「新しい物語」が生まれると思う。いまでこそ、人が関わることで図書館を使った新しい知識や新しい物語が、論文としてあるいは新しい本として誕生するが、将来的には図書館という濃厚な知識のスープに、人が「テーマを与える」くらいの介在をするだけで、AI必要な資料を掬い出し、執筆し、新しい知識を半自動的に生成する環境が生まれると思っている。

 あるいは、知識を求める人に対して、その場で図書館といリソース=濃厚な知識のスープから、その人のためのオーダーメイドの資料を自動的に生成してくれるようになるかもしれない。

 そう。図書館は「魔女の鍋」であり、「知識の製造マシン」になっていく。そのためにも、現在のような「書名」「著者名」「出版社名」加えて「件名」程度では…十分ではない。全文検索の時代がくるかもしれないが、それまでの間、せめて[目次]と[索引]くらいには煮込んでおきたい。時間をかけて、よ〜く煮込んで、煮込めば煮込むほど…おいしい「知識」が生まれるのが「図書館は紙のAI」のイメージするところだったり[も]します。

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