ホロ・テーブル - 図書館は紙のAI

この動画は、海外ドラマ『エージェント・オブ・シールド』に登場する「ホロテーブル」を操作するシーンだ。映画『アイアンマン』や『アベンジャーズ』などマーベルスタジオの製作するMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のシリーズだ。
映画としてはVFX(特撮シーン)、ドラマの中では立体映像として研究者の思考を助ける道具として登場する。少しも「紙」じゃないじゃん!って言われそうだけど、僕のイメージする「図書館は紙のAI」においては、このビジュアルはとても重要なビジョンだ。このシーンだけでみると、これはひとつの図解百科事典の到達目標かもしれない。紙の図鑑にある様々なイラストはもともと3次元立体の平面表示だ。図鑑に登場する生き物や機械、微小な原子構造から宇宙に至るまで、ありとあらゆる3次元に存在する対象を、写真や絵/イラストなど、平面に置き換えたものだが、理想的にはこれは3Dの表現が望ましい。しかも現実世界では拡大や縮小することができないものだったり、分解して内部構造を理解したりすることは不可能に近いことであっても、こうした図鑑の表現では地球の内部や火山の断面図などの表現で知ることができる。多くの紙の図鑑は「本当ならこう表現したいという理想に対して、現在の技術的経済的に表現可能かカタチで提供する」最たるものだと思っている。それはこのドラマの中では、現在よりももう少し先の未来の技術としてCGを使った特撮で表現しているのだ。

VR/AR技術による実現

 いまのところ、何もない空間にホログラムを表示する技術は…ない(すごく小さいものなら、空間に映像を投影する技術は落合陽一さんが作っていたりする)。ただ、昨今はやりのVR(仮想現実)やAR(拡張現実)により、ゴーグルを装着するかたちで実現することは不可能ではない。もうすでに、3次元VR技術…平たくいえばGoogleストリートビューで、遠く離れた場所にある博物館や美術館の館内を歩き回ることはできる。館内のウォークスルーならば、国内の一部の図書館でもすでに可能だ。ただ、そこは360度写真によるものであって、書架から本を取り出すことはできない。

いつかこれも、デジタル化技術の中で「仮想図書館づくり」が行われると思っている。未来の図書館ばかりではない。いまは失われてしまった過去の図書館も技術的には再現可能だし、作り込めば、その図書館の過去に遡ることもできるだろう。すでに図書館のサイン計画のシユレーションなどで3DCGによる図書館づくりは取り組まれているようだ。

仮想空間で本を分解する

 こうしたデジタル技術、仮想化技術、VR/ARなどの技術を用いても、図書館の資料が「本」を単位にしているだけでは、その技術の本当の恩恵はうけられない。その中身にどれだけアクセスできるかが問われている。著作権法改正による「全文検索」のためのデジタル化は可能になっているが、現状としては、誰が全文検索用のデジタルデータを作成するか/提供するか…などの課題がある。それ以前できることとして、「目次」や「索引」「グロッサリー/用語集」など、紙の本の構成要素として分解可能な要素がある。それらの本を分解する要素をいまのうちにどれだけ蓄積できるか。そのことが、近い将来技術的に比較的安価で実現できる時になって役に立つ。仮想図書館の蔵書は、ゴーグルの向こう側で手に取ることができ、しかもページを開くことができる。必要に応じては仮想空間内で知識をバラし、他の本の知識と結合し、新しい知を生み出す。そうそんな操作が、最初の動画「ホロ・テーブル」を操作するイメージで実現する。そんな図書館を超えた知の拠点づくり…というのが、ある意味で「図書館は紙のAI」が目指すところなのかもしれない。


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