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食のこと

もう二週間、アルコールもカフェインも菓子も摂取していない。

雷が落ちてきたかのようだった。
ある日思ったのだ。
いかん。血流が悪すぎる。虚弱すぎる。このままでは、無理だわ。なんか、きっといろいろ。
その足で鍼灸診療所へゆき「うわあ不健康ですね!」と思ってた通りのことを言われる。
「冷えてますねえ!これじゃ頭痛も酷いでしょう」
そうなんですよ。
物心ついてから私は偏頭痛と肩凝りが酷い。小学生の頃は体育の先生に肩を触られてビックリされたことがある。あなた、子どもなのに凝り過ぎよ!と。

鍼灸診療所の先生が言うにはやはり血が巡ってないとのことなので、体を動かさないと…と一念発起してスクワットとジョギングを始めることにした。その矢先であった。
心の師のような方からメールが届く。

するとなんとそのメールにも事細かに血流のことが書かれていて、やはりやはり!!運動と食べ物だ!
そしてこんなタイミングでその方から連絡がくるということは
進め、ということなのだな。
生き方を変えるチャンスだ。
いざ。体質改善!と取り組み始めた。

今までは朝起きたら必ず甘いお菓子みたいなものかパン、それにコーヒーだった。
それをまず、朝一番には良い塩を溶いたコップ一杯の白湯、
それから発酵玄米と納豆と味噌汁に代えた。

けっこうこれが最初はきつかった。
甘いものとコーヒーはおそらく私が一番快楽を感じる取り合わせだ。
朝のそれがないなんて、もう一日を生き始めたくない…とベッドの中で絶望にうちひしがれウダウダとすること数日。

しかし面白いことに嫌々ながら食べ始めてみると、それら和食は美味しい。
美味しいので、今のところ続けられている。

『鬼滅の刃』全巻一気読みしていたのも、この時期にはよかった。
なぜなら異形のモノたちとエグ過ぎる死闘を繰り広げた後、半分死んだような身体を存分に休ませてからいざ復活のために英気を養う主人公たちがガツガツと食べるご飯が、ほぼ簡素な握り飯のみ、なのである。
あれだけの超人的な体力の源となる食べ物、それが米なのである。
実際、昔の人は米と漬物と味噌汁で生きていたんだものな。

つまり握り飯さえ食べていれば大丈夫であろう。
発酵玄米ならなおさらだ。
食後にコーヒーではなく、番茶でもつければよいし。
ほんとはただあたたかいものを飲んで、ホッとしたいのだ。
なんにせよ鬼滅隊の彼らみたいに私はこのあと鬼たちと死闘を繰り広げなくていいんだ!天国じゃないか!!とおおいに己の幸せに気づけて気が楽になった。
漫画って、ほんとうに素晴らしい。

そうして朝の和食関門を通り抜けた後は、昼と夕は今までどおりふつうに食べる。
添加物と白砂糖だけ気をつけて、肉も魚も野菜もモリモリ食べている。

だが白砂糖と果物は体が冷えるから避けたいので、間食したいときはお結びにシソなんかを混ぜて食べる。美味しい。

これを数日続けたら、基礎体温が驚くほど高くなった。
いきなり食べ物が変わって体もびっくりしたのだろう、最初は便秘がちだったが今は滞りなく出すものは出せている。

しかし。
さあ、これで血も通い始めて体も心もスッキリしたかな?と思いきや、そうはスンナリいかなかった。

コーヒー飲みたいいいい、甘いものつまみたいいいい、アイス食べたいいいいい、、、
ゾンビのようなそれら根強い欲求が、毎日毎日私の中で荒れ狂うのだった。
さながらアルコールを止められた人の禁断症状のようである。
つまり中毒なんである。昔タバコを吸っていたが、私にとってはタバコをやめるよりきつい、それが甘いものとコーヒーだった。

今はそのきつい波が来るたび、酵素ジュースを飲んだり(常温で) 、水キムチを食べたり、ちょっと季節の果物をかじったりして気を紛らわせている。

今までどれだけ、体ではなく思考がものを食べたがっていたのだろう。
気晴らしのためだけに、どれだけ日々、甘いものとコーヒーとアルコールを摂取してきたのだろう。
多分好きなのは味だけでなく、イメージなんだということもわかってきた。
コーヒーの良い匂いと、それを甘いものと共に味わうリラックスした優雅なイメージ。あのイメージが欲しいんだ。

だが嗜好品としてなら時々は楽しんでも良いと思うので、ニンゲンだもの。落ち着いたらそれらもまた摂取する気は満々である。

そんなこんなでそろそろ二週間たつ。
昨夜そしてほとほと、思い知った。
私は、発酵玄米と栄養たっぷりのごはんに、贅沢にも飽き飽きしているのである。

ああもうなんか、ぶっちゃけると。
キラキラした霞みたいなものしか食べたくない。

キンキンに冷えた黄金のシャンパンで喉を潤して、桃とチーズのカルパッチョをつまんで鈴懸の苺大福とマルコリーニのパフェ食べたい。
そんな高級じゃなくてもいいの。
ビール飲んでベビーチーズと菓子パンかじりてえ!!!
冷えとか血流とかどうでもいい、
自分の体のことなど顧みず今までどおり霞みたいなものしか食べたくない……

そこでハタと気づいた。
ん?今までどおり?

そうなのだった。今までは、私はほとんど霞みたいなものしか食べて生きてこなかったのである。
大好きなものはビールとワインとコーヒー、それに甘いもの、目がないのは菓子パンとアイスクリーム。
気持ちをパッ!と高揚させてくれるものばかりを追い求めて生きてきた。

それが今や体質改善のため、
甘いものに代わって発酵玄米と納豆と味噌汁の日々である。

昨夜、それでも口に入れると美味しい玄米をもそもそ食べながら、夫に呟いた。

こんなに、こんなにね、
エネルギーの高い実のあるものばっか私は食べたくないんだよ。ほんとは霞みたいなものしか食べたくない。
ちゃんと生きたくないんだよ!

そう言った瞬間、うわ、そうだったのか!私はちゃんと生きたくなかったんだ。なるほどなるほど、だから霞みたいなものしか食べないで、虚弱になってたんだねえ…と気づいてしまった。

タバコは緩慢な自殺だと思いながら気持ちよく昔は吸っていたけれど、ビールや菓子ばかり食べているのも緩慢な自殺だったんだなあ。生きたくなかったんだね。
でも言い換えれば、「生きたくない」という私の「生きた叫び」でもあったんだな。

そうか。わかった。それはしかと受け止めた。
私は今、生きたい。
地に足つけてこの世界で血肉の通った人間として生きたいと、思い始めたの。
協力してくれる?

ビールと菓子パンが大好きな私の中の女の子と、今ようやく話し始めたところだ。

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