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宮崎駿の「水」とは?

水の下は地獄だけか?

今週のヤンサンは「ルパン三世 カリオストロの城」でした。

メインは宮崎作品の「水」について。

人はいつも何かについて騒いでいるけれど、いつも物事の表面しか見ていない。

「本当の事」はもっと深いところにあって、それを見なくてはいけない。

宮崎駿にとってのアニメとは、そんな「隠蔽された真実」を観客に見せて、何かを変えることなのだろう。

彼の作品は社会を暗示する「構造」があって、それが「城」などの建物だったり「国」などで現れる。

そのほとんどが「縦」の構造を重視していて、主人公は「上」にいる者たちや「下」に広がる世界を見せる。

特に機関室、腐海、ボイラー室、地下水路、遺跡など「下」の見せ方は凄まじい。

それらは「歴史」であり「犠牲者」であり「浄化をするものたち」だったりする。

出来上がった美しいアニメが「上の世界」(飛んでいるキャラクター達)だとすると、下の世界はそのために血と汗を流すアニメーターなのかもしれない。

宮崎作品はやたらと「水の中」に入る。

そこには「真実」が隠されている。

人はそこに飛び込むことで「水面の上の虚構の人生」から開放されるわけだ。

放送でも言っていたけど、彼の描く「水」とは「世の中の空気」みたいなもので、それは常に真実を見えづらくする。

僕も漫画で「隠蔽を剥ぐ」というテーマを描いていたけど、宮崎作品はそれを70年代から続けてきたわけで、本当に頭が下がる。

【見えている】

僕は午前中にBSのニュースをなんとなく見ることが多い。

テレビはほぼ見ないけど、海外の放送局が流すニュース報道は見る。

どの局もそれなりに恣意的な印象は受けるけど、国内メディアよりははるかにマシに見える。

最近衝撃的だったのは「パキスタンの洪水」だ。

毎年世界中で洪水は頻発しているので、大洪水には見慣れているけど今回のパキスタンの洪水はレベルが違うものだった。

国土の約3分の1が水没したのだ。

政府当局によると、死者数は1486人で、うち約530人が子どもだと言う。

当然その後に猛烈な感染症と飢えが彼らを襲うことになるので、被害は数字では簡単に表せない。

この桁違いの水害は明らかに気候変動が原因だと言われていて、記録的なモンスーン雨と北部山岳地帯の氷河融解がもたらしたらしい。

ニュースでは家も村も流され行き場を失った人達が映る。

「避難テントも食べ物もない」と泣いているお母さんは「私も娘と一緒に流されて死んでいたら良かった」と言っている。

パキスタン政府は「この水害は先進国が引き起こした気候変動が原因だ」という声明を出した。

これらの展開は2008年頃に僕が、漫画「ココナッツピリオド」で描いていた「未来予想」そのままの光景が起きている。

「水の上」の世界で「ビットコイン」だの「改ざん」だの「汚いオリンピック」だのをやってる間に「水の下」では地獄の扉が次々に開いていたわけだ。

そしてテレビは報道を終え、華やかにアメリカメジャーリーグが始まる。

水に飛び込まなくても「構造」ははっきりと見えている。

見えているけど「見ない」ことに慣れてしまっている。

メジャーリーグ中継は、パキスタンの人達から見たら「気候変動を起こした犯人たち」が幸せそうに野球を観ている悪夢の光景だろう。

そして「大谷」や「ジャッジ」の活躍を楽しんでいる僕も同じ「犯人」で、これも昔から変わらない構造だ。

「じゃあどうしたらいいんですか!」

「野球を楽しんだらダメなんですか?」

「そもそも地球温暖化は作り話で・・」

なんて反応も昔から変わらない。

いつの時代も「水の下」は見たくないのだ。

面倒なものは川に捨てたい。

「豊かな暮らし」が生んだ「汚染物質」も海に捨ててしまおうなんて言ってる。

宮崎駿はそれが許せないのだと思う。

【水の下は地獄だけか?】

この2つだけ見ると絶望的な気分になるだろうけど、現実はそんなに単純ではない。

パキスタンの人の中にも環境破壊で儲けている人はいるだろうし、メジャーリーグを見ながら環境問題の解決に動いている人達もいる。

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「パリ協定」が結ばれるときに、フランスは「4パーミル・イニシアチブ」を提案した。

これは現在の地球上の土壌に炭素を増やそうという話だ。近い中の陸地には「1兆5000億~2兆トンの炭素がある」とされ、うち「表層の30~40センチには約9000億トン」の炭素があるとされる。 この「表層にある9000億トン」の炭素に年間ほぼ0.4%だけ増やすことができれば、43億トンの排出分の大半を帳消しにできるという計算だ。

(中略)

では今から土壌に「炭」を混ぜることで解決できるだろうか。可能だ。農地は深く耕さず表面から15センチ程度にし、収穫後の土地は裸地にせずに植生で覆う。さらに砂漠や湿地のような荒れた土地では、まさに「炭」のまま混ぜ込めばいい。「炭」は人間が作ることができる「化石燃料」なのだから、燃やさない限り「炭素」のままでいるからだ。

(メルマガ持続する志より)

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これは田中優さんのメルマガからの引用なのだけど「この地中に炭素を0・4%増やす」という(気候変動の)具体的な解決作は実にパワフルで、実際に動いている人達もいるのだけど、これまた「水の下」で見えてこない。

まるで「美しいアニメ」の陰で汗だくになって働くアニメーターがいるのにも似ている。

世界は「パキスタンとメジャーリーグだけ」ではないわけだ。

「見えないものたち」もまた宮崎作品には沢山出てくる。

「彼らを見ろ」と宮崎駿は言っている。

彼の仕事は技巧的でエンタメの要素(メカと女の子)が強烈なので、ついついその話ばかりになりがちだけど、僕は彼の「ちゃんと見ろ」という思想を讃えたい。

僕らには偉大な先輩がいる。改めてそれを幸せに思う。

山田玲司のヤングサンデー メルマガより


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