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人口増からの撤退の技術

モー大変です、という話です。

人口減が叫ばれて久しいですが、実際いつ頃が日本の人口のピークだったかご存じでしょうか?総務省のデータを見るとこんな感じになっています。

これを見ると、あくまで推計ですので2007年~2010年くらいにピークを打っていることになります。ただ、実際には高齢化と少子化が進んでいるのでお爺さんお婆さんの比率が上がっており、首都圏集中が続いていますから、更に地方では若者を中心に人が減っている、というのが大方の人達の肌感覚では無いでしょうか?私もそうです。

人口減によって起こること

人口が減るという議論になると、真っ先に言われるのが「人手不足」であるとか「年金・健康保険の破綻懸念」とか、果ては「国の衰退」とかそういう話になりがちなんですが、大都市に人口が集中していく以上、そういった国レベルの話よりも、地方では早くやってくる切実な問題があり、それが「人口増でやってきたことの後始末」ではないかと最近思うことが増えました。

人口が増えている間は、何事も拡大するものですから誰も反対しません。組織のポストが増えたり、近くでサービスが受けられたりして便利になるからです。ところが人口が減り始めると、「撤退する・閉める」という議論が必要になります。当然ポストは減りますし、サービスは不便になりますから、「反対!反対!」という大合唱が出ます。しかしそのまま継続するにはお金が足りないことが多く、結論が出せないままズルズルと問題が深刻化することが多いのです。

その最たる例が行政サービスです。例えば、人口10万人だった市区町村が人口8万人に減った時に、役所は同じ人数で回していていいのかという話になります。何故なら人口減により税収は減るのでそのままだと人件費などで財政を圧迫するからです。

真っ先に出るのが支所の統合や窓口業務の統合です。最近は銀行さんがよくやっていますね。銀行は私企業なので勝手にやればいいですが、役所となるとそうはいきません。閉じる窓口のエリアの自治体からクレームが付きます。大モメ必至です。

一方役所の方も簡単な話ではありません。人口が8割になったからといって仕事も8割になるものは限られているからです。例えば、図書館の利用者数は減るかもしれませんが、道路の補修は人口に比例せずに変わらず発生します。工事業者との交渉や確認などを人数減らせと言われても難しいのは想像に難くありません。

公共性を帯びているものは役所関係だけではない

当社は醬油製造業を営んでいますが、私達には「全国醤油工業組合連合会」という業界者団体があります。別に利権とかそういうイカしたものがあるわけではなく、農水省や厚生労働省と業界代表として交渉したり、連携して調査を行ったり、伝統的醤油文化のPRをしたりする仕事をしています。

当然活動費用は各企業から一定割合で集めたお金が充てられるわけですが、以前触れた通り醤油の生産量は右肩下がりで、毎年廃業企業がでている有様ですので、組織の維持は大変な問題です。
では無くしていいかと言えばそういうわけにも行きません。各社が輸出に努力するにはどんな政策が良いかを相談させて頂いたり、行政側もコロナの様な未曽有の事態にあって「消費者の混乱を呼ばぬために生産の継続をお願いします」という指示を出す業界窓口が必要です。ですから連合会もなんとか人のやりくりをして費用を切り詰めながら頑張っておられます。

この様な問題はどんな業界でも同じことが起きていると思われますし、学校の廃校問題や、私企業であっても病院などは公共性も強く、経営も大変だと聞きます。人口減による問題、特に地方での「縮小・撤退」はとても難しく、まとまりません。

発展的な解消

こういう問題に際してなるほどな思うケースが北海道夕張市のケースです。確かどこかに特集記事があったのですが、見つからなかったので関連記事のリンクを張っておきます。

夕張市は一度財政破綻した市として有名ですが、今は北海道知事となった鈴木さんが総務省からの派遣を経て市長となって財政の立て直しをされていました。その実績には賛否色々あるようですが、私は総じてよく頑張られたのではないかと思います。その中で私が驚いたのは「コンパクトシティを作った」ことでした。

コンパクトシティとは村落の様に散在するものをまとめて作り直し、少ない費用で支え合ってやっていけるようにする、という構想です。夕張市は上下水や介護といった公共サービスが市中に散在する住宅で非効率になっていた為、市長が訪問して何度も頭を下げて回って、市が用意した団地に移住・集住してもらったという経緯があります。

何とかそれが奏功し、市の費用も抑えられたのですが、実は団地をつくることによって若い世代が安く住居を手に入れることができ、また高齢者から子供までの世代のミックスが出来たので、防犯や見守りやご近所のコミュニケーションの増加など、想定されていなかった効果が出たとされることが私の目を引きました。

つまり、移住を迫られた高齢者は元の生活空間を失いましたが、便利さと快適さを得たことになります。若い世帯も「不便でも夕張に住む」という選択をしましたが、子供の防犯の目を高齢者が担ってくれるメリットもあったということです。「損や心理的抵抗もあるかもしれないが、全体としてバランスを取って継続できるようにする」というアイデアは「人口増の時に拡大したものの撤退」という問題には不可欠です。勿論今に至っても夕張市は財政立て直しを継続していますし、人口が減り続けている問題は解決していません。しかし時間を稼ぐにしても何か対策が必要な状況ですから、こういったケースをモデルにして、みんな少しずつ不便や損はするけれども、今より良い状態に持って行く為の決断を考えねばなりません。地方にいると特にそれを感じます。

みなさんの周りでも人口減によって負担の押し付け合いになっていることはありませんか?「今自分がいる間だけこのまま乗り切ってくれれば」という発想は捨て、次の世代の為にどうするのがよいのか、少しでも発展的な要素を盛り込んだ「みんなでちょっとずつ損する」案が必要だと思います。


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