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食料事情と国際ニュースのあれこれ

醤油屋をやっておりますと、どうしても海外のことが気になります。食品製造に携わらない方々はあまり海外のニュースなどに興味は無いかもしれませんが、ここ10年くらいで様相が変わってきた様に思いますので、皆様見た方がいいですよというお話です。

醤油は大体輸入材料で出来ている

醤油の原料は主に大豆と小麦と塩と水と麹です。塩と水は国内で何とかなりますが、少量生産の蔵でなければ大豆と小麦は国産ではどうにもなりません。特に、醤油にとって油は不純物ですので(醤油の「油」とはとろりとした液体という意味だそうです)、大豆もそのまま使うのではなく、搾油したあとの脱脂加工大豆を使います。それゆえ大豆の作柄のみならず海外の食用油の生産にも左右される原料です。今だから言えますがコロナ時の供給危機では大変な目に遭いました。
蛇足ですが、ビンの原料である珪砂も輸入だし、ペットボトルやキャップの原料の原油も輸入なので、大体輸入原料で出来ているのが醤油です。ですから、醤油屋をやっていると海外の事情にソワソワしてしまうのです。

油を搾ってべちゃんこになります(愛知の御同業、イチビキ株式会社さんのサイトから拝借)

そもそもの日本の食料事情

醬油に限らず日本は食料のかなりの部分を輸入に頼っています。食物そのものもそうですが、畜産で使っている飼料と農業用の肥料を含めるととんでもないことになります。
あまり悲観的な「だろう話」をしても仕方がないので、まずは指標として政府が用いている食料自給率を見てみましょう。これはカロリーベースと金額ベースの2つがありますが、どちらも捉え方が難しい指標です。カロリーベースだとカロリー(熱量)が少ない野菜などの比較が難しく、金額ベースにすると飼料や野菜の計算は出来るのですが、価格変動や為替変動など自給具合と関係ない要素でバンバン上下に振れてしまいます。

農水省の報告書から抜粋。各品種縦幅がシェアで横幅がそれぞれの自給率…分かりづらい

全体としてカロリーベースなら自給率は38%、金額ベースなら58%となります。政府の目標は令和12年度までにカロリーベースで45%、金額ベースで75%となっています。専業農家の平均年齢が75歳に達しようかとしている中、なかなかハードな目標です。

食品関係の輸入元

さて、輸入に頼っていることはお分かり頂けたかと思います。スーパーやパン屋さんに行けば好きなものが買える、ファミレスなど飲食店に行けばいつでも美味しいものが食べられる、という世界でも絶賛される日本の食事情は輸入なしには成り立ちません。
それではこういった食料(飼料含む)はどこから来ているのでしょうか。

三菱総合研究所のHPから拝借

穀物類と肉類についてはおよそこの様な形になっています。三菱総研としては「同盟国が多く、そうそう簡単に輸出制限などはかからない」と結論付けています。それは勿論そうなのですが、価格変動がないとは言っていません。
またどんなご飯を作るにも熱は必要です。その他、容器やキャップ、段ボールを作るにも化学品やエネルギーが必要になります。それはどこから来ているか統計をさらいますと。

日本原子力文化財団のHPから拝借

こんな感じです。オーストラリアは同盟国ですが、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、マレーシアは違いますね。ロシアは論外です。

そして忘れてはいけないのが肥料。米を栽培するにも法蓮草を栽培するにも肥料なしには出来ません。有機農法という方法もありますが、著しく収穫量が落ちるので日本の食卓を支えられません。自給率を上げたいなら肥料は必須です。しかし実態として肥料はそのほとんどを輸入に頼っており、その輸入元は

NHKの記事から拝借

こんな感じです。何かあったら輸出制限をかけそうな国ばかり並んでますね。事実ウクライナで開戦した際、肥料価格が暴騰して大騒ぎになりました。

リスクは何処にあるのか?

「輸出規制をされてしまうかもしれない」というリスクは私達が考えても対策の仕様がありません。備蓄をするのも政府の政策の問題ですし、外交で解決するにも政府間で話し合ってもらわねばどうにもならないからです。コロナ時のインドの港湾のロックダウンなどもそうでしたし、ウクライナでの開戦時にパーム油が不足してインドネシアが輸出禁止したりしたケースがこれに当たります。

それ以外のリスクでまず思いつくのは「天候不順」です。気候変動もあって、昨今では急激な雨や気温上昇で農作物がやられるケースがあとを絶ちません。オレンジジュースを店頭で見かけないのも、この春に大幅なオリーブオイルの価格改定が入るのもそのせいです。
この他ハリケーンがテキサスを直撃すれば石油の価格が上がるし、ブラジルで雨が少なければ砂糖の価格が上がります。

加えて昨今問題になっているのが海運です。食品関係は単価が安く重量が大きいので空輸には向きません。空輸に向いているのは食品では鮮度を要求される精肉や魚介に限られています。要は食品にとって空輸は高いわ沢山運べないわで大変なのです。なので穀物や肥料、ワインなどの瓶缶詰、重たい果物などは海運、つまりコンテナを使った海上輸送が使われます。

皆様ご存じこういうやつです。

今は温度管理が出来るリーファーコンテナなんて便利なものもあるので野菜や果物、ワインなど繊細なものも送れるようになりました。これまでは赤道をまたいだ時に全部熱でダメになっていたんですよね。
当然のことながら船は水のある所しか通れません。そこでネックになるのがスエズ運河とパナマ運河の二つの運河です。
以下の画像はこの二つの運河が問題を抱え始めたことを報じる記事からの引用です。

日経記事から拝借、2運河の場所はここです。

現在スエズ運河はイエメンのフーシ派の船舶に対する攻撃で通行がほぼとん挫しており、パナマ運河は注水する淡水の水不足(太平洋側と大西洋側で水面の高さに差がある為、せき止めて注放水しながら船を渡す)で通行量が限定されています。目下世界の海運は大混乱です。船賃も上がっています。

食品も作りが複雑になっている

醤油=大豆+小麦+塩+麹+ペットボトル+キャップ
というお話は冒頭で触れましたが、これが麺つゆになると、
めんつゆ=醤油+砂糖+みりん+鰹節+昆布+塩+アミノ酸+アルコール(保存料代わり)+ペットボトル+キャップ
という様な構成になります。格段に必要な材料の種類が増えます。
当然つゆを使った総菜となるとさらに原料表示に出てくる原料の種類は増えてきます。何度もこのnoteで触れている様に、だんだん家庭での自炊が減って総菜利用が増えると在庫も含めて確保しなくてはいけないものがどんどん増えます。家庭で自炊していると「あ、焼肉のたれ切らしてるから他のもので味付けるかー」って融通がききますけど、スーパーやコンビニの売り場は欠品させるとクレームになりますからね。「○○が無かったけど代わりのもので代用して適当に作ればいいでしょ」とはならないのが今の総菜文化です。

何にどこまで備えるのか

現在私達和風調味料の業界では鯖節が手に入りにくくなっていますが、だからといって過剰に買い占めても使い切るまでに酸化して美味しくなくなります。置き場スペースにも困ります。「食品は傷む」という点が石油などと違って備蓄を難しくしています。冷凍食品は傷みませんが、たくさん持っていると冷凍庫のエネルギーが大変なことになります。常温で長期保存できるのは缶詰瓶詰めとレトルト食品くらいでしょうか。
絶えず欠品せずに生鮮や乳製品が流通し、外食が楽しめるのは、生産者に加えて、商社や卸の人たちが積み上げた安定して輸入して分配するシステムのおかげです。あまり人目に触れませんし目立ちませんが、そうなのです。

各家庭でもいつ起きるか分からない欠品や価格高騰に備えて大量に買い込むことは現実的ではありません。ただ、こうやって食品の流通を知っておくと、極端な気象現象が海外で起きたり、紛争が起きたりしたときに、自分たちにどんな影響が出そうか考えることになるでしょう。これが第一歩だと思います。手に入らなくなったという事実が起きてから不満を言っても何も解決しません。
海外のことに関心を持つようになってもいいですし、環境保護のためにもう少し省エネしてみるのも良いでしょう。あるいはTwitterなどを使って懸念を発信していくのも良いと思います。何故か?マスコミも政治家も、案外SNSのデータを見てるんですよ。マスコミは視聴率が、政治家は選挙での勝利が必要ですからね。言えば対応してくれるかもしれませんが、言わなければまず対応なんかしてもらえません。地元の政治家に伝えるっても案外大事なのです。

スーパーで買い物をする時、パッケージの裏の原産地や野菜などの産地を見てみると、案外それだけでも知らなかったことがたくさん出てきたりするので面白いですよ。子供の夏休みの自由研究くらいには簡単になるくらいの情報量が載っています。(メーカーにそういう義務が課されている)

私たち日本人は食べることが大好きな民族ですから、食べ物がどこからきているのかにも意識を払いたいものです。

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