見出し画像

日本の食糧事情はご存じ?

前回はSDGsに触れましたが、その中でも飢餓に関わるテーマは色々あります。とはいえ、他国、特に貧困国がどうかよりも、まず自国の食糧事情がどうなっているか皆さんご存じでしょうか?TVではこんな地味な話あまり扱いませんし、新書なんかで語られる内容は結構極端な話が多いので論調が激しくて避けられているかもしれません。

こういう時に便利なのが統計です。特に国内の話については政府が出している統計が客観性があり、無料で公開されているものも多く、大変使えます。といいますか、これを改竄だ陰謀だ言い出すと、世の殆どのデータが使えなくなってしまうのですよね。政策の成果については表現が盛ってあるなと思うことも有りますが、データに嘘は無いだろうと思って見ています。

白書って見たことありますか?

政府が国会に対して現状分析や政策の成果を報告する為にまとめたものや、内閣に対して同様のモノを出すためにまとめたものを「白書」といいます。昔イギリスでその手の書類が白い表紙だったので「白書」と呼ばれるようになったんだそうです。防衛白書や経済白書なんかは出稿されるとNHKのニュースになったりしますね。マンガの「幽遊白書」は全然本家の白書とは脈絡なく名付けられたそうです。

そして白書は種類が結構たくさんあります。防衛白書、経済財政白書、原子力白書、厚生労働白書…もう山とあります。これをまとめる為にどれだけの人が仕事をしているのかと思うとくらくらしますね。お疲れ様です。

農業白書

さて食料といえばまずは農業です。「食料・農業・農村白書」としてまとめられています。中身は膨大ですが、「概要」としてまとめられたものがありますので、まずはそちらを見るのが「目に優しい」かと思います。笑

食糧自給率の話は世間でも話題にされることがありますが、個人的には食糧全体で考えることに意味はあるのかなぁと疑問に思います。というのは基本的にカロリー換算で考えられていて、小麦を大量に輸入しており、パスタやパンの消費が年々伸びている日本でカロリーベースで議論しても意味があるのかと思ってしまうのです。逆に例えば「ほうれん草の自給率」などなら現状をよく表していていいのではないかなぁと思うのですが。

そんな私がここ十年近く一番興味を持ってみているのが「農業人口統計」です。令和三年の白書ではこんな感じになっています。

画像1

画像2

画像3

ざっくりまとめますと「ここ10年で農家は約60万件廃業、農業法人は9千件の増、従事者は4割減、平均年齢は上がりっぱなしで既に68歳近い。49歳以下の新規就農者は毎年2万人以下で、法人での雇用者を除くと惨憺たる状況」ということになります。さらにこの新規就農者から廃業した人がどのくらい出ているのかはまとめられていません。ただ、食べていけなくて廃業するという話はしばしば目にします。

ちなみに畜産業の数字がありませんが、農林水産統計を見ると、鶏以外は飼育数は減少傾向で、大規模化は進んでいるものの畜産農家件数は減っています。

水産白書

続いて水産庁が出している水産白書です。

画像4

画像5

こんな感じですね。漁港の後背地=漁村です。漁村の人口はどんどん減っていますから、漁業や水産加工に就いている人の数も減っていると考えるのが自然でしょう。自給率も下がっていますが、そもそも水産品の消費量がここ20年くらい下がり続けています。

食品業界では「魚など水産物より牛豚鶏といった畜肉が好まれる」というのは誰しも耳にする話です。畜産でも国産は鶏以外減っていることは先述の通りですが、水産はもっとしんどいということです。最近では地元、瀬戸内海でも漁獲から収入が上がらないので、まだ人気があり安定する牡蠣の養殖に鞍替えする漁師さんが結構おられるなんて話も聞きます。

コロナの影響

直近のコロナ禍の影響はまだ集計・分析がなされている最中では無いかと思いますが、食品業界の片隅に居る身としては「家庭用消費は増えたけど、業務用(飲食店用)が大きく減ってトータルではマイナス」という話を良く聞きます。養殖魚が大量に余ってしまい、ネット通販で格安で販売されたなんて話はネットではニュースになっていましたし、ふるさと納税や食べチョクなどではそんな案件が乱立していました。

その後も非常事態宣言が施行されたり解除されたりの繰り返しで飲食店の営業が安定せず、「安定供給」を前提にしてきた農水産業としてはかなり振り回されているようです。(受注が減ったので作付けや繁殖をへらしたら注文が殺到して価格が高騰・欠品した、など)

農水産業の環境は難しいのに、コロナはさらに試練を与えていると言えます。

そもそもの問題点はどこに?

私達の会社は調味料を作っています。調味料とは食材があって初めて存在価値があります。ですから、農水産業の衰退は他人事ではありません。何かできることは無いのかというのが常日頃から思う所です。ラジオで地元産の農水産品をテーマにしたり、不揃い品をジェラートにしたりするのはその一環です。

そもそも農水産業が衰退する原因はどこにあるのでしょうか?過疎だの仕事の苛酷さだのいろいろと理由は上がりますが、私個人としては収入がよくないことが大きな原因の一つではないかと思います。例えば政府の統計をみますと直近の農家の販売収入平均は600万円を超えて来たようですが、その経費が400万円を超えていますので、実収入としては200万円ありません。これでは兼業農家でないと正直かなり厳しい。

やりがいがある無いの話は二の次にして、それなりの収入が得られる職業には人がある程度あつまってくるものです。収入が高いことが知られておらず、人が来ないということはあっても、収入が低いのにどんどん人が集まってくるなんて話は古今東西聞いたことがありません。

要は商品価格が上がればよいのですが、食品は日々の生活に直結するものですから、安い手ごろな商品が横にあれば、輸入品でも手に取ってしまうでしょう。すると小売りはデータで「安い方が売れるな」と判断してもっと安いものを沢山仕入れるようになります。そうするとなかなか末端価格は上がりませんが、安いものを求める気持ちを否定するわけにも行きません。

しかしそれを追い求めた結果が現状ですので、このままだと先ほどの統計の示唆する行きつく先は「作ってくれる、獲って来てくれる人が居ない国」であることもまた間違いないかと思います。

良い生産者が報われるように

農水産業にも色んな話があります。非効率だったり、変な補助金がついていたり、批判されるべき点も少なくないでしょう。その点は他の産業と同じですね。ですが、そんな中でもなんとか良い生産者が報われるようにするには、私達消費者が「ただ安いものを追い求める」のではなく「この品質でこの価格ならすごくお得じゃないか!」ということが分かる賢い消費者になることが第一歩ではないかと思います。

有り体に言えば「となりに100グラム10円安いお肉はあるけど、一度食べて見たらこちらの方が美味しかったから、この価格差ならこっちを買うよ!」ということです。手間暇をかけ、良いものを作る生産者が以前より収入が上がる様なら、そういった生産者が増えるのではないでしょうか。

コロナがあったり色々で、誰しもの生活が大変です。しかし食料はいつでも手に入るものでは無く、その生産者がいてこそであることを考えれば、「いいものに正当な評価を与える(つまり良いものは買う)」という姿勢を意識することは、実はとても大切なのだと思います。

こういう因果関係や取り組み方がキチンと説明されないことも、SDGsが片手落ちだと私が思う所以の一つです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?