醤油の規格の話

JAS規格(日本農林規格)って知ってますか?

日本にはJAS規格(じゃすきかく)というものがあります。通称JAS法と呼ばれる法律によって定められており、日本の食品や農林水産品の取扱いや品質について国が規格を決めています。そしてちゃんとチェック機能があり、それを満たしていると定期的な監査をパスしていれば、商品ラベルや広告に使用して良いことになっています。

農林水産省ホームページより抜粋

代表的なのはこれですね。見たことありませんか?当社の醤油製品にも記載されています。


JAS規格の役割

JAS規格の役割は、品質や性能などが定められた基準を満たしていることを指しています。例えば私達の醤油であれば色の濃さや、美味しさのバロメーターとしての全窒素量のほか、製造方法を守っているかどうかや醤油の種類などたくさんの項目が対象になります。
JASマークをつけられるということは、品質や製造方法をごまかしていない、つまり有体に言えば薄めたりズルしたりせず、ちゃんと作っているという証明がなされているということになります。

JAS規格の対象は本当にたくさんあって、即席めんや林業の木材など実に幅広くなっています。また、国としてはこの基準でもって輸出も促進したいという考えですが、海外には海外の基準があるので、一つ一つ理解を深めてもらえるように政府と業界で取り組んでいるところです。

JASが厳しいゆえに

このようにJASは管理され、消費者の皆さんが安心して購入、利用できるように作られているわけですが、厳しく定められることによっていい加減なものを排除したり、日本の産品が守られる一方で、厳しければ厳しい程「差がつかない」という悩ましい問題が発生します。

例えば上述のように醤油のJAS規格は厳格に定められていますが、そうすると、変わった穀物原料を使ったり、塩分濃度を変えたりといった変化がつけられなくなります。正確には、変化をつけることはできますがJASマークはつけられませんし、大体が「しょうゆ加工品」という扱いになります。
鰹節を使ったり、すりおろしたニンニクを入れたりするのは全て「しょうゆ加工品」です。

JASマーク無しで販売すればよいではないかと言われてしまえばそうなのですが、輸出などを促進することを考えるとホントはJASマークがあった方が良いはずです。ではしょうゆ加工品にもJASを定めればよいではないか、というと、実はしょうゆ加工品は種類が膨大であまり現実的ではありません。

品質を規定して、偽造品を防止して安心して買って頂くにはJAS規格は有用ですが、それだけに変化がつけられないとどうなるか、結局価格勝負になってしまいます。実際に食品加工事業者の方の中には「醤油なんて規格が同じなんだから、採用するかどうかは価格次第」と言われてしまった経験も私達にはあります。

新規参入の無い業界

私達醤油業界はもう何十年も新規参入のない業界です。ライバルが増えなくて良いではないかと思いますか?でも実際は昭和50年ころには6000社くらいあったものが現在では1300社くらいに減っているのですから、つまるところ「事業として稼げるかというと正直魅力の無い業界」ということになります。

「海外に行くと日本の醤油がなつかしくなるよ。やはり醤油は日本の心のひとつだよね」という様なお声を頂くことはしばしばあり、とても嬉しく思うのですが、他方その品質を守るために規格は厳しく、国内では洋食化もすすむなどいろんな原因もあって業界は縮小しています。

誤解の無いように書きますが、JAS規格があるから業界が盛り上がらない、というわけではありません。第三者的にJAS規格で決められているからこそ、おかしな商品でもっとひどい価格のたたき合いにならないで済んでいる現実がある一方、今の消費者のみなさんが「あ、最近の生活考えるとこんなのがよかったんだよ」って言って頂けるような商品アイデアをひねるには、足かせになってしまう場合もあるということで、あちらが立てばこちらが立たないという難しい問題です、というお話でした。

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