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スズキ(鱸)をいかに美味しく食べてもらうか

KissFM朝の番組シャカリキ内の「はいこちらひょうご食材丸天開発室」のコーナー、今回はテーマがスズキでした。先日無事メニュー提案の様子が放送されましたので、裏側を少しお話します。

「じゃなくてもいい魚」スズキ

今回兵庫県農水産部さんから指定の食材は魚のスズキ(鱸)でした。

「ブリと同じく出世魚、有名な料理は「洗い」」くらいしか私も知らない魚で、周囲に聞いても「あー、結婚式で出て来たかも」くらいしか話題になりませんでした。そう、「一般家庭ではほとんど食べない魚」ということです。

「洗い」という料理は結構特殊で、刺身状に仕立てたスズキの身を氷水で〆て臭いを取り、美味しく食べるという調理法です。水につけすぎると味は薄くなるわ身はブヨブヨになるわで素人がやれるものではありませんし、まずスズキの刺身が売ってません。

上手に塩焼きにすると身の水分が適度に抜けて、丈夫な皮がパリッと仕上がり、熱いうちに食べれば夏のスズキの脂の旨味だけ感じられて臭いは気にならない、そんな美味しい魚なんですが、塩焼きではコーナーの「美味しく食べる調味料を作る」というコンセプトが達成できません。塩はどこでも売ってますからね。

「結婚式で出る」というのはその通りで、スズキは淡白でクセがないのでフランス料理のソースに合わせやすく、細長いから同じサイズ・形で身が取れるので大量調理がしやすいと考えられ、宴会にはもってこいなのではないかと想像します。

従ってホテルなど宿泊施設やレストランに卸されがちで、一般家庭からは縁遠くなっているのではないでしょうか。世にスズキ目の魚は多く、魚の種類の46%くらいがスズキ目とも言われ、鯛がその代表格です。まぁ一般家庭ならどう調理するか悩んでしまうスズキ食べるなら親戚筋のタイ食べますよねという。手ごろな価格の養殖ものもあるし。

結局、スズキはタイやヒラメやカレイやタラ、さらに夏ならコチやアイナメといったような「白身魚」の一つでしか無く、また料理としても「スズキじゃないとダメ」という料理を持たないために、今回のテーマとしてはかなり手ごわい素材となりました。

リスナーさんに「普段どうやってスズキ食べてますか?」とメッセージを募集しても過去一メッセージ数が少ない有様で、普段の家庭の食卓との距離感を強烈に感じた素材でした。笑

過去にアレもやっちまったコレもやっちまった

水産系の素材はこれまでいくつか指定されてきました。サワラ、牡蠣、鯛、ハモ、は既にヤッツケたリストです。先ほど述べたように白身魚としてはスズキは扱いやすいので、鉄板の料理に持ち込めないかと思いましたが、サワラでアクアパッツァをやってしまい、鯛でポワレとソース(この時はマッシュルームのヴェルヴェットソース)をやってしまい、ハモでムニエルをやってしまい、ほぼ出尽くしに近い状態でした。調理場所が会議室なので揚げ物はNG、手軽ではない料理は敬遠されるので味噌漬けの様な時間のかかるものもNGです。
塩釜焼き、パイ包みみたいなエキセントリックな料理はオーブンが必要で、これも持たない人が居るのでNG。

今考えると柚庵焼きとかでも良かったのかなぁとも思いますが、個人的に柚庵焼きは固くなるイメージがあって、マナガツオとかもう少し脂のある魚じゃないと美味しさに欠ける気がするんですよね。料理がヘタクソなだけかもしれませんが。

助けてYouTube

色々と料理をお褒め頂くことはありますが、正直私の腕が上がったとするならば、それはコロナになって様々なプロの料理人がYouTubeで発信を始めてくれたからです。ということで、今回私の知識の中では限界があるのでチャンネル登録しているプロを中心に「助けてYouTube(検索)」することにしました。とはいえ、スズキの動画なんてそうそうないので、白身魚でもいけそうなものを片っ端からさらうことになりました。

日本ではあまり見ない組み合わせ

色々見て回っていて、「そういえば以前一度作って面白かった食べ物があったな」と思い出しました。魚とジャガイモの組み合わせなのですが、あまり日本では見られないんですよね。海外では「フィッシュアンドチップス」を筆頭に案外あるんですが、日本では肉じゃがとかステーキのマッシュポテトとかカレーライスとか、ジャガイモは肉と一緒のイメージが強いのではないかと思います。

ということで引っ張り出してきたのは「ブランダード」という料理です。フランスの郷土料理というか家庭料理の一種だと思いますが、火を入れて潰したジャガイモとタラを混ぜてパンに載せて「カナッペ」にして食べるというのがスタンダードの料理です。
しかし、カナッペは前回のナスでやってしまいましたので、さらにひと手間加えてグラタン状にするものを自分でもやったので、そちらを採用することにしました。当時私が見てやったのはこちら。

今回はタラではなくスズキでやるわけですが、ウチのスタッフがこれを見てさらに簡単に作れるようにすべてレンチンにしてくれました。調味料としての特徴を出すためにハーブのタイムを入れるように指示を出していたので、結果その香りで牛乳で臭み抜きをしなくても気にならないものになりました。

こちらについては現場で少し変更を加えていて、スタッフの指示の2倍以上バターを加えました。だってバター多い方が美味しいんだもん。しかたない。

もう一つが難産

1つは何とかなりました。もう1つ作らないといけないのですが、これが結果難産になりました。元々実は意中のレシピがあり、こちらだったのですが、

これは麻婆豆腐の御先祖筋の料理で、肉料理だけどさらにご先祖的には魚だったという話が動画内でも出てきます。使われている泡辣椒という素材も使って見たかったので、最初はこれを考えていたものの、市販されているものが中華料理店向けの業務用しか無く、しかも種抜き作業が必要になるということで、忙しいスタッフにそこまではやらせられないということで断念しました。

辛味のある塩漬け食材つながりということで、代わりにザーサイ炒めにしてみようかと思ったのですが、自宅で作ってみて正直感心するほど美味しくは無かったのでボツとしました。

さあ困りました。「ええい、やはり洋食しかないか」と思い直して検索しなおしです。基本に立ち返って間違いのない料理に走るしかない。突飛な組み合わせとかやっても投票で嫌われてしまうので。

死んだ魚みたいな目で動画リストを見ていたのですが、ちょっと気になったのがこれ。

「イカ、イカならスズキと置き換えてもイケんじゃね?!白いし!」とかちょっと錯乱気味に食いついてみたんですが、御覧の通り、家庭になかなか無い調味料はアサリのブイヨンだけで、だったらユウキ食品さんの貝柱だし粉末でいいじゃないかということになり、上手く行かない。ぐぬぬ。

そこでレシピの悪魔合成を考え始めます。小倉さんのレシピはどれもとても美味しいのですが、前にやって美味しかったものの一つがこれ。

「イカスミは美味しい、がクセが強い、しかし白身魚なら上手く乗っかってくれるのでは?!」ということで、イカ墨で煮るという調理法を探したところ、「イカの墨煮」という料理が存在することが分かりました。親子煮みたいなもんですよね。「ホラ、やっぱイカならスズキに変えたって大丈夫だって」という謎理論を脳内で構築して、これで行くことにしました。小倉さんのレシピをそのままというのは遠慮もありましたので(ミョウガを加えるアイデアはそのまま頂いています)、隠し味に入れるトマトソースとの相性からオレガノを忍ばせることにしました。

スタッフにまとめて貰ったところ、大層美味しく仕上がったので、これで完成となりました。

あーしんど。

更に待ち受ける落とし穴

ようやく収録に臨む準備が出来たわけですが、ここでスズキの呪いというか、落とし穴にはまります。いや、前から懸念はしてたんです懸念は。今までもその懸念があった素材はあったんですが、何とかなって来たんで、今回も何とかなるだろうと思っていたんです。

甘かった。

そう、収録前日にスーパーを何軒ハシゴしても「スズキが売っていない」という状況に直面しました。家庭であまり食べられることが無いので魚売り場の担当者や魚屋さんも仕入れたがらないようです。

こればっかりは泣いても喚いても状況は変わりませんので、仕方ないので「スズキの味がする鯛で収録する」ということにしました。

なんじゃあそりゃあ。私の苦労は一体…。

盛り付け含めてこんな感じになりました。グラタンの方はもうちょっと焼き色を追い込んでも良かったかな。イカスミの方はソースの広がり方が汚らしいですね。盛り付け難しい。

でもこれだけ見てもスズキじゃなくて鯛だってのは分かんないですよね。よかったよかった。(よくない

これで収録・放送となりました。実際どうだったかのかはまだradikoのアーカイブにありますので、興味のある方はどうぞ。どちらが良いかの投票も是非宜しくお願いします。

はー、次は何が来るのやら。

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