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私達は製品をこう作る

学生も企業も就職活動時期に入ったという話に前回触れました。私達が説明会を開催すると、あるいは面接の際に質問を受け付けると、かなりの回数聞かれるのが「開発部ではどうやって製品を作っているのですか?」というものです。

学生に限らず、外部の方にはきっと興味を惹かれるポイントなのだろうと思い、今回はそれに触れることにしました。「ノウハウをバラしてしまって大丈夫ですか?」と心配されそうですが、製品づくりのノウハウの肝の部分はウチの開発部員の一人一人の中に「どうやって思い描く味を実物に落とし込むか」という形で十人十色の形で存在しており、正確なものは私にだってわからないので大丈夫大丈夫。笑

では家庭用調味料の場合に沿ってお話します。

開発会議までの道のり

私達は月一回のペースで開発会議を開催します。開発部員が一番胃がキリキリする会議です。私達調味料の世界は年二回のスーパーマーケットの棚替えがあり、春夏と秋冬で分かれています。当社で言うと春夏はそうめんつゆ、秋冬はポン酢、というようにイメージして頂くと売り場の季節感が分かりやすいかと思います。

年間を2つに分けて棚構成の見直しが入りますから、新製品発売は年二回ということになり、それ目がけて商品開発を進めます。飲料やインスタント麺、お菓子などは年がら年中なのでもっと熾烈な競争をされていますね。

まず開発部では総出でアイデアを提出しています。調味料売場にかぎりませんが、スーパーマーケットの棚はすぐに思いつくようなアイデアは既に製品化されて存在しているので、このアイデア出しが最も難産だと聞きます。確かに世界の珍しい料理を持ち出したりなんてことは可能ですが、一般消費者が慣れないものを出しても全く売れないどころか、まずバイヤーに採用されませんので、変わり種を出せばよいというものでも無いのです。「よそには無いけど売れそうなヤツ」という無茶な要求にすこしでも応えられるように頑張るわけです。

出たアイデアを絞って試作に入ります。当然思った様な味にできる出来ないが発生したり、製造工程の制約で実現不可能だったり、原価が高くなりすぎたり、部内で試食したら不評だったり、様々な理由で更に絞り込まれます。

そして、試食できるレベルまで来たらようやく開発会議に出されるのです。

開発会議で言われたい放題

開発会議には営業部から数名、製造部長と私が出席します。提案されたものを試食して、味についてのコメントをしますが、それ以外に営業から見たアイデアの良し悪し、そして製造部長から製造工程についての懸念が無いかどうかなどのチェックを入れます。

ところが、当然ここまでの苦労は誰も知りませんので、全員が言いたい放題を言うことになります。ツライなぁと思うかもしれませんが、これは大切なことで、もちろん丁寧に言葉を選んでコメントするわけですが、情に流されて販売に苦労しそうな新製品を出しても廃棄が増えるだけだし、製造部門が苦労する製品を作っても計算された利益が実現しません。消費者のみなさんにお出しするクオリティも大切ですが、全員がキチンと納得して販売に向けて責任を取る。即ち製造部はモノをしっかり作る、営業部は引き受けたからには全力で営業するという約束をするということです。

しかし実は最大の問題はそこの議論ではなく、「ちょうどいいアイデアがいつもあるわけではない」という点です。私は「如何なる状況であれ、年二回の新製品発売はやるべきである」という持論の持ち主です。最大限努力した後の売れた売れないは結果として受け止めるとして、企業として「今期はこういうものを考えて出してきました」という発信をすることは何よりも優先すると考えているからです。
ところが、アイデアというものは人から出てくるものであり、定期的に配達されるものではありません。当然「今出てきているアイデアに販売できそうなものが無いぞ?」という状況もまま起きます。参加者全員が困る状況です。笑

お客様は消費者だけではない

営業部でもない製造部でもない私がいつも心がけているのは「開発者の希望は出来る範囲で尊重した上で、なんとか形にする」ことです。使い勝手や味は勿論ですが、開発のテーマとなっている仮説や需要予測などにも注文を付けます。我田引水になっていないか、データの出典が安易ではないか、見せ方は適切か、そういったことも含めて注文を付けます。

同じ製品でも見方を変えてみたり、見せ方を変えれば、アピールしやすくなることも多々あり、そうすれば営業部も受け入れやすくなります。「しんどいアイデアを、ただ否定して捨てるのではなく、ちょうどいいアイデアに進化させる」ということです。

何でもかんでもこじつけて製品化すればよいというものではありません。ここで忘れてはならないと思っているのは、「最初のお客様は卸企業の担当者や小売りのバイヤーである」ということです。一般消費者の皆さんに手に取ってもらうにはスーパーマーケットの店頭に並ばなければなりませんが、それを決めるのは卸企業の方のプッシュであり、バイヤーさんの決断によるものです。当然彼らが求めているのは「売れるもの」ですが、どんなものが売れるのかは誰にも正解は分かりません。かといってみんなが知っている定番製品やプライベートブランドばかり並べていてもつまらない売り場になってしまうことも分かっています。ですから、私達メーカーはアイデアを磨き込むことは勿論のこと、「あー、確かにそういうお客は居そうだな」と思わせる様なコンセプトや資料が必要だということです。正解かどうかは分かりません。外しても責められるわけではありません。でも、そう思わせるものが無ければ決断もまた難しいのです。

勿論時には「これは業務用として発売した方がよいのでは?」ということもハッキリ言います。開発担当者は家庭用として棚に並ぶことを夢見て提案しているわけですから、厳しい結論になりますが、それでも使って頂ける機会に結びつけられたらまだ救いがあろうというものです。営業も様々なところで商談のネタになりますしね。

長くなりましたが、こうやって会議メンバーのツッコミに耐えてようやく一つの製品の製造販売が決定されます。開発担当者はこの後製造部と一緒に工程設計をして製品立ち上げまでつき合います。そして営業部員が商談し、店頭に並ぶ運びとなるのです。

開発会議の大変さは、アイデアを思いつき、形にすることだけでは無く、それを買ってくれる人たちのことを精一杯想像して、一緒に利益を上げていくことを目標にすることにもあります。ビジネス全般に何でもそうかもしれませんが。笑

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