塩の扱い

塩というのは人間が生きていくために無くてはならない物です。というか、動物全般に言えることです。鹿が岩塩舐めに来たりしますしね。
人類と塩の歴史は大変古いもので、メソポタミアだのインダスだのといった古代文明の時には既に使われていたという話もあります。

人間と塩の付き合いは長いものですから、洋の東西を問わず、塩にまつわる故事なんてものもたくさんあります。
「手塩に掛ける」
「敵に塩を送る」
この辺りは定番ですよね。日本ではこのほか「清め塩」なんて御祓いに使われたりするのもあります。

食品としての塩

皆さん塩に「賞味期限」が無い事は知っていますか?塩は賞味期限をつけることを免除されています。何故なら物質として安定しており、腐敗することが無いからです。砂糖も同じです。もしかしたらそんな性質がお祓いに使われたりする理由なのかもしれません。

何故塩が腐らないのか。
まず腐敗とは菌類を中心とした微生物によって引き起こされる分解作用です。その結果人間にとって有害な物質がついでに出来てしまい、食べるとお腹が痛くなります。これが食中毒のひとつです。ところが、塩は浸透圧が強い、分かりやすく言うと生物から水分を奪う機能があるため、微生物が塩の表面で生存することが出来ないのです。

塩は接した所から水分を奪い、塩と水をバランスさせようとします。つまり接した細胞の中身を濃厚にするのですね。塩分濃度が濃くなり、水分が減ると微生物は繁殖しにくくなるので腐敗しにくくなります。これが保存食の仕組みです。

たんぱく質を溶かす塩

塩にはほかにも効能があります。実は塩が入るとたんぱく質、つまり牛や豚や鶏や魚の筋肉を溶かします。これによって肉の保水力が上がり、しっとりして、焼いても水分が抜けにくく、美味しく仕上がるようになります。

特に魚は塩を振るとたんぱく質が溶けて水分が滲み出てきます。この時生臭みのもとも出てくるため、この水分を拭きとってやるとあの嫌なにおいが減衰します。いやー、塩って便利ですね。

但し、魚と違って肉は塩の浸透に時間がかかるので、この目的ならながーくつけておかないと達成できません。焼く直前に肉に塩を振るのは味付けの意味が強いという事ですね。

塩があると旨味を感じやすい

日本人が大好きな「お出汁」ですが、単体で飲んでもそんなに美味しく感じません。他方、塩を直接舐めても「うぇっ」とはなり、美味しいとは思いません。ところがお出汁に1%程度の塩を加えると、グッと美味しく感じます。これはお吸い物くらいの塩分ですが、塩分は美味しさを引き立て、また旨味は塩分を引き立てる作用があるんですね。

味の素さんには「やさしお」℗という製品がありますが、あれはうま味調味料を塩と一緒にすることで塩分を感じやすくして、塩分の制限を助けて健康に過ごしましょうというものです。こういった塩の特性をいかした食品もあるんですね。

料理を突き詰めていくと塩分という概念にぶち当たる

料理が好きでいろんな料理に挑戦し、いろんな調理方法をやってきましたが、やればやるほどこの塩の機能に恐れ入るとともに、どうやって使いこなしたものかというところに毎回行き着いてしまいます。もっとわかりやすく言うと、より美味しいものを作ろうと思うと上手に塩(もしくは塩分)を使いこなせるかにかかってくるように思えてしまうのです。

火の入れ方も重要なのですが、「美味しさを感じるちょうどいい塩分」をどうやって実現するかの方が格段に難しい。
味噌漬けやマリネの様に漬け込む場合は時間の経過などでどれくらい材料に入っていくのか、火に長くかけるならどれくらい煮詰まるのか、どれくらい材料にまとわりつくのか、ソーセージの様に加工食品で元々塩分を持っている材料を一緒に使うならそれとのバランスはどう取るのか。砂糖やみりんなど甘いものと一緒に味をつける時はどうするのか。
こんな感じでもうキリがない。

これに先述したように魚に塩振って拭き取ったり、旨味の重ね方で塩分の感じ方が違ったりという、作業や味のバランスから来る調整を考え始めると、もう頭がおかしくなりそうです。笑
プロの料理人は本当にすごいなと思います。

感覚とレシピの間

私はいつも感覚で料理をしていますが、レシピを起こすのは本当に大変です。塩一つまみと簡単に言いますが、実は指三本で1グラムくらいありますし、人によって手のサイズは違いますので、きっとつまんでいる量も違うでしょう。私もYouTubeを見始めてからプロの一つまみが想像以上に多量でびっくりしました。
醤油などの「少々」というのもとてもクセモノです。一つまみより人によってブレそうです。醤油は塩分濃度が16%ですから、小さじ一杯(5cc)で塩0.9グラムに相当します。はて丁度良い味付けにするにはどれくらい入れたらいいんでしょう?笑

美味しいと感じる塩分濃度はお吸い物で1%前後、おかずなら1.2~1.5%、漬物なら3%くらいです。しかし、正確に計算するのはまぁメンドクサイわけです。さらに先述の様に「煮詰まってしまった」「砂糖の濃度はどうするんだ」などと考えだしたら10人が10人とも同じものが作れるように整理したレシピの作成がいかに大変か想像を絶しますね。

上手く作れるようになるには

では上手く作れるようになるにはどうしたらいいのか。出発点はレシピでいいのですが、気に入ったものを何度も作り、最終的にはレシピを見なくても作れる様な自分のものになると、違う世界が見えてきます。「材料を置き換えたらどうなるか」「具材を増やしたらどうなるか」ということを考える余裕が出てきます。当然塩の上手な使い方にも目配りすることが出来るようになるのです。

塩の使い方は本当に奥が深いですが、「もうちょっと料理が上手になりたいなぁ」と思っている時、「何かを混ぜる」とか「材料を増やす」とかよりも実は塩の使い方を練習するだけでグッと美味しくなることって多いんですよ。

私もまだまだ精進あるのみです。

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